「子どもの教育にはタブレット」、教育分野に本腰入れるサムスン、キャリア、教科書会社

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 2014年から小中学校、2015年からは高等学校でデジタル教科書を導入することが決まった韓国では、タブレットPCから利用できる学習アプリやeラーニングサイトの競争がヒートアップしている。


 デジタル教科書を導入するというのは、教科書がデジタルになった、紙の教科書からデジタルデバイスを使うようになった、という表面的な変化だけではない。教育行政のデジタル化、授業法・評価法のデジタル化など、学校で行われること全てがデジタル化しないといけない。デジタル環境に合わせた教科書作りも必要だ。デジタル教科書となれば膨大な情報を教科書の中に保存できるので、教科書にリンクされる参考資料はどれぐらいのボリュームにすべきか、という悩みもある。このようなバッググラウンドの環境を含め、韓国では1996年から準備が始まり、2007年から学校現場で実証実験を始め、今ではほぼ準備完了となった。


 教育熱の高い韓国では、授業に付いていくためには、デジタル教科書を使う前から子どもたちがタブレットPCやデジタル教材に慣れておいた方がいいのではないか、そういう心配からタブレットPCを使った学習アプリに興味を持つ保護者が増えている。


 サムスンは2011年6月から、いくつかの学校とMOUを締結し、スマートスクール実証実験を行っている。Galaxy Tabを使って授業をしたクラスと、そうでないクラスを比較して先生と生徒の授業満足度と、学習効果を観察するという実証実験である。学校現場では先生たちのアイデアが加わり、Galaxy Tabで使えるオリジナル教材が開発され、無料のクラウドコンピューティングサービスやSNSを利用して、先生と生徒と保護者がそれらの教材を共有している。


 2012年3月には「ラーニングハブ」というサムスン初の教育プラットフォームサービスも発表された。約1万5000件の講義動画、学習スタイル診断、進路分析、学習スケジュール管理、8歳から80歳まで年齢別に選べるとうたう学習コンテンツをGalaxy Tab 10.1と同8.9、同7.7から利用できるようにしたもので、いわばタブレットPCのための教育ポータルサイトといったところである。有料のコンテンツもある。






サムスンが2012年3月から始めたタブレットPC向け教育ポータル「ラーニングハブ」のイメージ。8歳から80歳まで年齢別に生涯学習できるというコンテンツをそろえたのが自慢


サムスンが教育分野の投資に積極的なのは、デジタル教科書市場を狙った布石とも言われている。2011年からは、一部の学校でデジタル教科書の実証実験に使われる端末がノートパソコンからタブレットPCに変わった。そのため、今後生徒の間で広くタブレットPCが普及すると見込まれている。

 韓国政府はデジタル教科書の中身の開発だけ進めていて、どの端末からも利用できる教科書にする、という方針である。タブレットPCからも、ノートパソコンからも、スマートフォンからも使えるのがデジタル教科書というわけだ。しかし、画面の大きさや持ち運びの便利さから考えると、やはりほとんどの生徒がタブレットPCからデジタル教科書を使うのではないかと見られる。そのためにサムスンは「教育=Galaxy Tab」というイメージ作りを始めている。


 市場先制効果を狙い、タブレットPCのメーカーであるサムスンが最も積極的に動いている中、サムスンが個人向け学習サービスなら、教科書会社は教師向けサービスに力を入れる。教師向けとは、タブレットPCやデジタル教科書を使う授業で、一緒に使える教材を提供するサイトのことである。簡単にいえば、教科書会社が先生用に配布する指導案のようなものをデジタル化し、さらに最新の資料をタブレットPC向けに使えるようにしたサービスである。


 韓国の先生たちは授業のために必ずといっていいほどオリジナルの教材を作る。PowerPointファイルに画像と動画を盛り込み、それを電子黒板に映して、授業内容を分かりやすく補足する。教育庁が提供する無料教材サイトはあったものの、そこに載っている資料は著作権の問題もあり、写真も動画も、かなりの年代ものだった。著作権がクリアされたものを選んで教材を作る必要があったため、先生たちはいろんなサイトを検索して探すなど毎日かなりの時間を割いていた。教師向けのサービスはこうした不便を解消する。学校単位で加入してIDを発行し、全教師が使うことで制作した教材を共有し、共同作業もできる仕組みを提供する。


 「タブレットPC」と「教育」の組み合わせは、通信キャリアの目玉サービスでもある。SKテレコムは、2011年夏から幼児向け学習アプリと月2000~2500円ほどの定額で何冊でも利用できる小中高校生向け教科書・参考書アプリを提供する。また、青少年向けに、データ定額制に加入していなくても負担なく学習アプリが使えるよう、8300件ほどある学習アプリ限定のデータ通信料半額割引も始めた。英語学習、成績が上がる秘法といった一部のアプリはお試しとして無料公開している。KTも2012年3月より、「ホームスタディー」という名前で、月3000円ほどで利用できる小中学生向けeラーニングサービスを始めた。ノートパソコンやタブレットPCから利用できる。


 キャリアと大手参考書出版社・学習教材会社との提携も次々に発表されており、学習アプリはまだこれからが本番という感じもする。サムスンとキャリアの学習アプリ市場をめぐる競争も2012年から本格化しそうなので、競争によってどんな斬新なアプリ、あるいはサービスが登場するのか、楽しみでもある。



趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
 [2012年4月6日]

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20120405/1045424/

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