[日本と韓国の交差点] 日韓で就職難を苦にした学生の自殺が増加

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産経新聞が6月9日、就職に失敗して自殺する大学生の数が初めて1000人を突破したと報道した。自分の価値が認められず、激しく落ち込み、自殺する学生が増えているという悲しい記事であった。就職難が改善される見込みのない韓国から見て、他人事とは思えない。韓国の新聞も産経新聞の記事を大々的に引用した。テレビのニュース番組も、主なニュースとして紹介した。

 ところで、産経新聞が取り上げた「(日本の大卒者の)就職率は2011年91.0%、2012年93.6%」という数字にびっくりした。就職率が93%を超えているのに就職に失敗して自殺する人が増えているというのは、就職できないことが問題なのではなく、他に何か原因があるのではないかと思わずにいられない。


 というのは、韓国の大卒就職率はここ10年以上50~60%に過ぎないからだ。


 韓国の文部省にあたる教育科学技術部が2010年8月と2011年2月に2年制と4年制大学を卒業した全国556大学の卒業生55万9000人の就職率を調査した結果、2011年6月時点での就職率は58.6%だった。地方大学の場合、就職率が20%未満のところもあった。民間のシンクタンクが発表した2011年6月時点での4年制大学新卒者の就職率は45%前後である。


 しかし肌で感じる就職率はもっと厳しい。教育科学技術部が発表する就職率は非正規労働、つまり契約職も含まれているからだ。各大学にある就業相談室が発表する就職動向を見ると、正社員として就職できる学生は30%前後にすぎない。これもソウル市内にある名門大学の場合である。韓国は企業の数が少ない。新卒を募集している会社は大手財閥グループとベンチャー企業ぐらいしかない。中小企業は経歴社員(中途採用)を優先する。韓国の就職難は自分が行きたい会社に行けなかった、というレベルの問題ではないのだ。



成績向上と「スペック向上」に奔走



 韓国の就職の第1関門は書類審査である。ここでは大学での成績と、英語の力が最も重要だ。大学の成績が良くないと書類で落とされる。日本では、就職試験を受ける際に、大学の成績表を提出する必要がないと聞いて驚いた。大学での成績が悪くても良い企業に就職できる機会があるとは羨ましい。


 書類審査では「スペック」も重視される。このため学生は、就職難の中で生き残るため、サークル活動はせず、就職の役に立ちそうな「スペック積み」競争を始める。「スペック」とは海外語学研修、企業の各種公募(例えば広告コピー、マーケティングアイデア、論文など)に応募して入賞すること、政府機関におけるインターン勤務、履歴書に書き込める資格(例えば、情報処理産業技師、電子商取引管理士、ワードプロセッサー1級、インターネット情報検索士など)の取得、企業が評価しそうなボランティア活動などである。


 韓国では、正社員と非正規社員の給料格差がとても大きい。大手企業に就職する新卒の給料は20万円前後で、日本と大きくは変わらない。しかしコンビニや食堂でのアルバイトの時給は5000ウォン(約360円)前後である。物価が急騰しており、アルバイトの給料だけではやりくりできない。フリーターという職業は成り立たないので、家族の世話になるしかない。韓国の会社員は40~50代で定年を迎える。定年退職した親の退職金は、就職できない子供の面倒を見るのに使われる。家族全員が貧困層になるのは時間の問題だ。




筆者より

読者の方から以下の趣旨のご指摘をいただきました。

本文中にある、日本の大卒者の「就職率93.6%」(文部科学省、「大学等卒業者の就職状況調査」、2012年4月1日現在)と韓国の「就職率58.6%」(韓国の教育科学技術部、2011年6月時 点)を比較するのは適当でない。日本の就職率の分母が「就職希望者」であるのに対して、韓国の就職率の 分母は「全卒業生」だから。就職希望者は、卒業が近づくにつれて減少する傾向がある。
日韓の比較には、日本の文部科学省が「大学等卒業者の就職状況調査」と は別に発表している「学校基本調査」が適切である。こちらの分母は「全卒業生」。これによると日本の就職率は61.6%(2011年5月1日現在)。

ありがとうございます。
ご指摘に、感謝いたします。
ご指摘をふまえて補足させていただきます。

韓国の「就職率58.6%」は派遣などの非正規雇用者を含みます。
その内訳は不明です。
ただし、ソウル市内の名門大学の発表を見ると、卒業生のうち正社員とし て就職できた割合は30%前後です。
ソウルにあるその他の大学や地方の大学ではさらに低い割合が推測されま す。
このため、「大学等卒業者の就職状況調査」の結果を対比しても日韓の就 職率にはやはり大きな差があると思われます。

筆者がこのコラムで伝えたかったのは、日韓両国の学生に、先を見て、生 き続けてほしいということでした。
日韓の比較が主旨ではありません。



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By 趙 章恩

2021年6月13




-Original column
http://business.nikkeibp.co.jp/article/world/20120611/233203/

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