[日本と韓国の交差点] 韓国で全国のタクシーがいっせいにスト

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 6月20日、韓国内でタクシーが一斉にストライキした。交通政策を担当する国土海洋部の発表によると、6月20日午前9時時点で、全国25万5581台のタクシーのうち22万54台がストに参加した。


 バスとタクシーしか移動手段がない済州や地方都市では、自治体がバスの臨時便を出した。外国人観光客の不便を最小限にするため、明洞などの繁華街までシャトルバスを出したホテルもある。こうした対応のおかげで大きな被害はなかった。ただし、終電がなくなる前に帰れるよう会食を延期した人などはいたようだ。


 同日、ソウル市庁前の広場に、全国タクシー運送事業組合連合会、全国個人タクシー運送事業組合連合会、全国民主タクシー労働組合などの団体に所属しているタクシー運転手と個人タクシーの運転手が集まった。警察の推定によると、その数は3万3000人を超えた。今回ほど大規模なタクシーのストも、タクシー団体の集会も、初めてのことである。


 全国民主タクシー労働組合は、ストを決行した理由をこう説明した。「韓国にタクシーが登場して100年がたつ。その歴史の中で、個人タクシーまで参加する集会はこれが初めてである。それぐらいタクシーで食べていくのが大変になっている。タクシー事業は危機に陥っている。政府機関に対して、LPG価格の値下げや、タクシーの大衆交通手段法制化についていろんな方法で提案した。だが、答えは返ってこなかった。それでストを決意した」。


 ストは李明博大統領が公約した「タクシーの大衆交通手段法制化」(後述0)がまだ実現されていないことに対して抗議した。また、以下の4点も要求した――タクシー用のLPG(液化石油ガス)の値下げ、タクシー用の燃料多様化(バスのように天然ガス、クリーンディーゼルも使用可能に)、タクシー料金の現実化(値上げ)、タクシー減車補償。



韓国のタクシーはバスや地下鉄と同じ大衆交通手段



 韓国はタクシー料金が安いことで有名である。ソウル市の場合、初乗り2キロまで2400ウォン、日本円で約170円である。


 バスと地下鉄は初乗り料金が1150ウォンで約83円。交通カードを利用すると1050ウォン(約77円)と100ウォン安くなる。これに、乗った距離に応じた料金が追加される。30分以内に乗り換えれば、乗り換え4回まで1回の乗車とカウントされる。地下鉄からバスに乗り換える時に、初乗り料金を改めて払う必要はない。バスはバス専用車線を走るので渋滞に巻き込まれることはめったにない。


 東京の場合、タクシーは高い乗り物というイメージが強い。バスは210円均一。タクシーの初乗りは710円。なので、タクシーはバスより3倍以上高い。


しかし韓国のタクシーは、バスや地下鉄と同じくらい庶民が手軽に利用する乗り物である。2キロ以内であれば、3人で乗ればバスより料金が安くなる。学校や塾に行く時に、中高生までが気軽にタクシーを利用している。「歩くのが面倒」という理由だ。景気が悪くなったといっても、ソウル市内のタクシー乗り場にはいつも行列ができている。



「大衆交通手段」に認定されれば補助金が得られる



 しかし、国土海洋部がタクシーを高級移動手段と指定しているため、タクシー営業が厳しくなっている――というのが今回のストの理由の一つである。


 タクシー側が要求している大衆交通法制化は、現在「高級交通手段」に分類されているタクシーをバスや地下鉄のような「大衆交通手段」に分類しなおすものだ。これにより、自治体から財政補助金をもらえるようになる。さらに、バス専用道路を走れるようにすることも要求している。


 例えばソウル市内を走る路線バスは、国土海洋部が大衆交通手段と指定し、「準公営」で運営している。バス路線はソウル市が決め、運行はバス会社が担当する。バス会社が得た収入はバス組合がすべて集金する。集まった収入に、市が補助金を加えて、バスの保有台数に応じてバス会社に分配する。市からの補助金によって経営が安定しているので、バス運転手の給料や待遇も改善された。


 2003年までは、バス会社が路線と運営計画をソウル市に提出する許可制だった。しかし、多くの乗客が見込める繁華街に路線が集中することが問題になった。このため、2004年に現在の制度に移行した。


 ソウル市がバス組合に支払う補助金は年間3000億ウォン(約220億円)を超える。ソウル市はタクシーにまで補助金を払う余力はないとしている。



LPGの値上がりが運転手の負担を拡大



 もう一つの要求は、LPGの値下げである。タクシー会社は、ガソリンより安いLPGを燃料にすると、国土海洋部から補助金がもらえる。使用するLPG1リットル当たり220ウォン(16円)だ。このためタクシーはすべてLPGに切り替わった。しかしLPGの価格は高騰し続けている。2002年には1リットル457ウォン(約34円)だったものが、2012年6月19には1145ウォン(約83円)に、3倍近く値上がりした。


 国土海洋部は2009年、初乗り料金を500ウォン(約38円)ほど値上げした。しかし、LPG価格は、「国際価格を反映するしかない」という理由でそれ以降も上がり続けている。


 全国民主タクシー労働組合によると、タクシーは1台1日平均45リットルのLPGを使用する。法人タクシーの場合は、会社が25リットル、運転手が20リットルを負担する。LPGのコストを支給しないタクシー会社も増えているという。料金にLPGの値上げ分が反映されないと、運転手の持ち出しになる。タクシーの安い料金は、運転手の安月給が支えているようなものである。


 全国民主タクシー労働組合の調査によると、ソウル市の場合、法人タクシーも個人タクシーも1日12時間勤務、月25日勤務して給料は120~130万ウォン(約8万3500円~9万1000円)にすぎない。統計庁が2011年に発表した、都市勤労者の月平均所得191万3408ウォン(約13万6000円)に比べてかなり低い。




ストに同情する声、非難する声



 ネットの掲示板とTwitterでは、タクシーのストに関するつぶやきが絶えず書き込まれている。
 「タクシー運転手の待遇が悪すぎるのは知っている。不便だけど、ストをしてでも改善してほしい。料金を値上げしたうえで、それに見合ったサービスになるよう改善を要求すればいい」
 「今回のストは、タクシー会社が一方的に主張するばかり。タクシー運転手のためのストではない」
 「タクシーに対する不満を書き込むよりも、どうしてストをしないといけなくなったのかに耳を傾けなくては」


 一方、タクシーを非難する意見もあった。「タクシーがストをしてくれたおかげで道路がすっきりした。乱暴運転をしたり、乗車拒否をしたりするタクシーが多い。それで大衆交通手段と言えるだろうか」。


 自動車旅客運輸事業法が施行された1997年以降、タクシー会社は社納金(1日の売上高から社納金を支払った残りが運転手の収入)を廃止し、運転手の給料制を導入した。だが、いまだに社納金を要求するタクシー会社があるそうだ。「社納金を払うために、少しでも売り上げを高めるに、乗車拒否をしてでも客を選ぶしかない」と言い訳する運転手に出会ったことがある。この問題に関して、ストに先立つ5月30日に、チョンジュという地方都市にタクシー運転手らが集まって抗議のデモをした。


 全国タクシー運送事業組合連合会、全国民主タクシー労働組合などは、6月20日のストでの要求が反映されない場合、大統領選挙前の11月~12月にまた集会を開くとしている。タクシー運転手による口コミ選挙運動の効果は無視できないので、各政党は動かざるを得ない、と判断しているようだ。


 国土海洋部はタクシー業界の厳しさをよく知っている。だが、大衆交通手段に認定し財政的に支援するのは難しいという立場である。自治体の予算に限界があるからだ。


 タクシー料金はこれまで、3年に1度、国土海洋部が検討して値上げしてきた。次回は、2012年下半期中に10%ほど値上げすることを国土海洋部は検討している。




By 趙 章恩

2021年6月27




-Original column
http://business.nikkeibp.co.jp/article/world/20120621/233632/

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