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このごろ韓国で高視聴率を記録している人気ドラマの一つに『ゴースト』がある。警察庁のサイバー捜査隊が、女優の殺人から始まったミステリーな事件を解いていくという内容だ。ハッキング、DDoS攻撃といったIT社会ならではの犯罪も毎回登場する。
DDoS攻撃に使われるゾンビPCを確保する手段としてスパムメールが使われる様子を詳しく紹介する回もあった。主婦にはネットスーパーの割引クーポン、会社員には人事異動といった内容でメールを送信し、添付ファイルをクリックするとパソコンが悪性コードに感染してゾンビPCになる。だから送付元がはっきりしないメールの添付ファイルはクリックしてはならない、アンチウイルスプログラムで定期的にパソコンをチェックしよう、というセキュリティ会社のキャンペーンのようなセリフも頻繁に登場する。
『ゴースト』はサイバー捜査隊を舞台にしているだけに、各種パソコン、ディスプレイ、スマートフォンといったITデバイスも頻繁に登場する。スポンサーになっているのはサムスン電子のようで、俳優の顔より大きく見えるスマートフォン「Galaxy Note」と薄型ノートパソコン「シリーズ9」が主人公のマストアイテム。過去を振り返るシーンではちゃんとその時代に人気だったサムスンの携帯電話とパソコンが登場するので、「あの端末私も使ってたな~」と懐かしくなる場面もあった。
Galaxy Noteはスマートフォンの中では最も画面のサイズが大きい5.3型。俳優の顔が小さいせいか、耳に当てると、マイクの部分が首の下にくるぐらい大きく見える。Galaxy Noteで電話する場面を見る度に「あれで声が届くかな?」と違和感がある。電子ペンが使えるので手書きメモをタイピングしたように変換してくれる、画面が大きいので電子書籍も読みやすいといった機能には引かれる。
5.3型の液晶サイズを持つGalaxy Note
サムスン電子の最新ノートパソコンであるシリーズ9は、台湾のCOMPUTEX 2012でも展示されて話題になった。13.3型モデルの場合、超薄型でバッテリー使用時間は7時間、電源を入れてWindowsが立ち上がるまで8.4秒しかかからないというのが売りだ。ドラマの主人公がこのノートパソコンをかっこよく使いこなしているのを見ると、広告だと知っていながらもやっぱり物欲が騒ぎ出す。
日本にも輸出された、朝鮮時代からタイムスリップした皇太子の恋を描くこの春のドラマ『屋根裏部屋の皇太子』では、貧しいはずの主人公の女性が最新のスマートフォンであるGalaxy Noteを使っていた。Galaxy Noteは女優の手よりもだいぶ大きく、電話で話す場面では落としそうで見ている方がはらはらした。
このドラマには、Galaxy Noteの電子ペンを使って動画や写真を入れて手書きメッセージを送信できる「My Story」という機能を紹介する場面が何気なく登場した。愛を告白する前の重要な場面の一つだったので、とてもロマンチックに描かれていた。Galaxy Noteにこういう機能があったのか!と使いたくなった視聴者も多かったはず。
主人公に名前を漢字でどう書くか皇太子が教える場面でも、「こっちの方が便利」と主人公に言われ、紙とペンではなくGalaxy Noteに電子ペンで書き込んでいた。
サムスン電子のホームコントロール機能を持つ「ウォールパッド」もドラマに登場して「あれは何だ?」と話題になっている。壁に取り付けられている液晶画面で、テレビ電話のようなインターホンに見えるが、留守中のメッセージ録画、照明・冷暖房・ガスなどを制御できる機能がある。ウォールパッドは最近分譲している高級マンションに付いていることが多い。
サムスン電子はドラマだけでなくバラエティー番組にもスマートフォンを提供している。例えばバラエティー番組では、出演者にどこそこに行って写真を撮ってくる、というミッションが与えられ、サムスンのスマートフォンやタブレットPCを持って行って写真を撮り、写真に手書きのメモを添える場合はどのボタンをタッチしてどのように送信すればいいのか、といった場面まで見せる。
「ドラマを見ているのかテレホンショッピングを見ているのかよく分からない」と視聴者が怒らないよう、ドラマの物語の一部としてスマートフォンが自然に登場するように仕向けている脚本家や作家はすごい。
日本や東南アジアでも人気の高い韓国ドラマに製品を登場させているのはサムスン電子だけでない。
LG電子は2011年、ヒョン・ビンが主演した『シークレットガーデン』という国民的ドラマにスマートフォンOptimusシリーズを提供して大ヒットしたことがある。LG電子は今年も韓流スター、チャン・ドンゴンの主演ドラマ『紳士の品格』にスマートフォンを提供する。
サムスンがいろいろなドラマとバラエティー番組に製品を提供しているのに対し、LG電子は韓流スターが登場するドラマだけに絞っているように見える。LG電子もサムスンと同じく、ドラマの中で主人公がスマートフォンの機能を使いこなす場面を見せる。
韓国のパソコンメーカーTG三宝も『紳士の品格』にノートパソコンとLEDテレビを提供している。一人暮らしのビジネスマンが使うデバイスという設定で、高性能かつインテリアの一部として遜色ないところを強調している。
中国のハイアールは主婦向けのドラマに家電を提供している。韓国では知名度が低いため、家電を選ぶ主婦にブランド名を覚えてもらおうとスポンサーになったという。
韓国のドラマはほとんどが日本、中国、東南アジア、中近東に輸出されているので、韓国ドラマに製品を登場させれば自然に海外のいろんな国でブランドの知名度を高め、宣伝効果を上げられる。ドラマの作家も慣れたもので、製品名や使い方をシナリオに盛り込んでくれる。韓流人気を逆手に利用して、日本製品を韓国ドラマに提供して世界で売り込む、というのもありだろう。
趙 章恩=ITジャーナリスト)
日経パソコン
[2012年6月29日]
-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20120628/1054302/