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2012年9月28日、日本に続いて韓国でもNexus 7の予約販売が始まった。値段は29万9000ウォン。日本円にして約2万1000円である。アップルのiPadが約4万2000円、サムスンのGALAXY Tab 7.7 LTEが約5万6000円はするので、Nexus 7は韓国で販売されているタブレットの中で最も安い。
事前にNexus 7を体験したユーザーのレビューを見ると、「カメラは120万画素の低画質でしかも液晶のところだけの前面だからテレビ電話ぐらいしか使えない、写真撮影ができないのは嫌」、「340gなのでタブレットにしてはとても軽いが、サイズが曖昧でポケットには入らない」、「端末が頑丈には見えないので、ちょっとでもぶつけたら故障しそうなところが残念」などいろいろある。音声検索やGoogle Now、Google ムービーなどのコンテンツを利用するにはぴったりだけど、スマートフォンからも十分利用できるので、Nexus 7のメリットが分からないといった辛口評価が多い。
ソウル市内で9月27日に行われたグーグルのNexus 7発売記者会見にはエリック・シュミット会長も参加した。
シュミット会長は、「Nexus 7をきっかけに、スマートフォンだけでなくタブレットPCでもアンドロイドの発展を韓国がリードしてくれると期待している」、「特許を武器にほかのスマートフォン製造会社の首を絞めるのは、IT業界のエコシステムを破壊し、イノベーションを阻害する行為」であると迂回的にアップルを批判した。また、「Android陣営と協力を強化する。サムスン電子は最も重要なパートナーだ」とも話した。
グーグルは、Nexus 7は映像コンテンツ、ゲーム、電子書籍といったエンターテインメント目的で利用するには最適の端末であると宣伝している。シュミット会長は、「Nexus 7が重要なのではなく、Nexus 7で何ができるのかが重要だ」と強調した。
Nexus 7の端末性能はあまり良くない、というレビューを意識したのか、これからはコンテンツ利用を楽にするクラウド環境が重要で、グーグルがそれを提供している、Nexus 7があればクラウドを利用して楽にいろんなコンテンツサービスを利用できる、端末そのものの性能が重要ではない、という話だった。
さらに、「2011年全世界で1人当たりグーグルアプリケーションをもっともたくさんダウンロードした国が韓国だった」、「ハードウエア、ソフトウエアの次にクラウド・イノベーションの時代がやってきた。このような変化をリードしているのは韓国だ」、「テクノロジーは我々の日常を変え、新しい文化を生み出している。その代表的な事例がGangnam Styleだ。Gangnam Styleが世界を征服したのはグーグルのYouTubeに載せたミュージックビデオがきっかけになった」とも話した。
シュミット会長の話に登場した「Gangnam Style」は、今米国で大人気の韓国の歌手PSYのダンス曲である。YouTubeに載せた韓国語の新曲ミュージックビデオ「Gangnam Style」が2カ月あまりで再生回数2億8000万を突破した(YouTubeへのリンクはこちら)。韓国向けに制作されたミュージックビデオなのに、面白い、笑えると口コミで全世界に広がった。PSYは一躍有名スターになり、米国の高視聴率番組に次々出演した。「Gangnam Style」は韓国語の歌であるにもかかわらず9月26日にはビルボードHot 100チャート2位になった。
記者会見の後、グーグルコリア本社ではシュミット会長とPSYが一緒にGangnam Styleに登場するマルチュム(韓国語で「馬ダンス」)を踊る場面もあった。YouTubeスターとグーグル会長のミーティングは韓国では大変な話題になった。YouTubeがなかったら、PSYがビルボードチャート2位になることもなかったからだ。
この後シュミット会長はサムスン電子を訪問し、チェ・ジソン副会長とIT・モバイル担当シン・ジョンギュン社長と会談した。韓国のマスコミは、「米裁判所でサムスン電子がアップルとの訴訟で負けたとき、グーグルがこの訴訟とAndroidは関係がないと声明を出し、サムスン電子が気を悪くした。シュミット会長が直にサムスンとグーグルとのパートナシップを再確認し、なだめようと訪問したのではないか」と予測した。サムスン電子はアップルとの訴訟があってから、Windows 8の端末に力を入れるようなそぶりを見せたこともある。
韓国ではNexus 7発売よりも、シュミット会長とサムスン電子との会談内容、シュミット会長のGangnam Style馬ダンスの方が注目されてしまったが、これをきっかけにGoogle Playやグーグルが提供する新しいアプリケーションの注目度も上がったのは確か。韓国でNexus 7はあまり売れなくても、グーグルの影響力は拡大しそうだ。
趙 章恩=(ITジャーナリスト)
日経パソコン
[2012年9月28日]
-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20120928/1064962/