[日本と韓国の交差点] 韓国が人工衛星打ち上げに成功

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 韓国航空宇宙研究院が1月30日午後4時、全羅南道高興の羅老(ナロ)宇宙センターで、人工衛星搭載ロケットの打ち上げに韓国で初めて成功した。2002年に着手して以来、2度の打ち上げ失敗を経て、ついに成功したのだ。羅老号は、韓国の技術で開発した宇宙環境観測機能を装備した羅老科学衛星を載せて宇宙に飛び立ち、衛星を無事軌道に乗せた。31日の午前3時28分には、韓国科学技術院人工衛星研究センターにある地上局と羅老科学衛星が初交信に成功した。


 今回の成功によって韓国は、旧ソ連、米国、フランス、日本、中国、イギリス、インド、イスラエル、イランに続いて(北朝鮮は自力で打ち上げに成功したが、打ち上げたのが人工衛星かどうか定かでないので除外)10番目の衛星打ち上げ成功国になった。韓国航空宇宙研究院や韓国科学技術院などはこれまで、人工衛星を海外で打ち上げていた。教育科学技術部(部は省)は打ち上げ成功後の記者会見で、「羅老号プロジェクトの成功により、韓国の衛星開発能力を海外に立証した。宇宙産業活性化効果も上げられる」と発表した。


 マスコミは一斉に「韓国もついに宇宙先進国の仲間入り」「韓国は希望を打ち上げた」などの見出しで大々的に報道した。テレビのニュース番組には羅老号研究員らが出演し、「2度目の打ち上げ失敗以降、プレッシャーで不眠症や神経衰弱にまでなった」という苦労話を語った。


 衛星打ち上げ成功を報じる記事に対するコメント欄やTwitterには「ついに韓国が成し遂げた!」「打ち上げに成功してほっとした」「3浪してついにソウル大学に合格した受験生を見ているようで感慨深い」など、打ち上げ成功を祝うコメントが書き込まれた。



ロシアへの依存に批判



 一方で、羅老号の成功を喜んでばかりいられないという意見も少なくない。記事には、喜びの声と同時に批判のコメントも寄せられている。
 「羅老号はロシアに依存しすぎた。韓国の独自技術で人工衛星を打ち上げるという当初の目標から大きくずれてしまったことは批判すべきである」
 「打ち上げに成功したと浮かれていないで、韓国独自の技術を開発するために長期計画を立てないといけない」
 「かつて、打ち上げに失敗したことを理由に国会では羅老号関連予算を減らそうとした。打ち上げに成功したから、今度は予算を増やすべきだと騒ぐだろう。政府が予算面で長期的に支援を続け、人材を育成することも大事である。韓国のように人材もなく予算もない国が3回目で打ち上げに成功したこと自体、運がよかったと言える」


 1月31日付けの朝鮮日報は、羅老号プロジェクトを辛辣に批判した。
 「羅老号打ち上げ成功は韓国の成功ではなくロシアの成功」
 「韓国はロシア産ロケットのテスト場所にすぎないと言われている」


 朝鮮日報は同じ記事で、韓国がロケット開発をロシアに依存するようになったのは、1998年の北朝鮮のデポドンミサイル実験がきっかけだと報道した。デポドンに驚いた韓国政府が、「人工衛星を打ち上げる場面を2005年までに国民に見せる」という目標を設定。打ち上げという行為にこだわりすぎたため、韓国産衛星搭載ロケット開発という最初の目標はどこかに消えてしまったと批判した。


 韓国教育科学技術部によると、羅老号の打ち上げにかかった費用は5025億ウォン(1~3回の累計 約419億円)。その4割を超える2165億ウォン(約180億円)がロシアに支払われた。


 中央日報も同日で、こう報道した。
 「羅老号の技術はまだ北朝鮮より下のレベル」
 「北朝鮮は自力で開発した。それに対して韓国は、最も重要な技術である1段目のロケットにロシア製のものをそのまま使っている」
 「韓国の技術で打ち上げに成功するためには、省庁任せにしないで、大統領が関心を持って集中投資を決めないといけない」



朴槿恵・次期大統領は科学技術立国を目指す



 朴槿恵・次期大統領は韓国初の工学部出身(電子工学科)大統領となる。朴氏は2012年12月16日に行われた大統領候補テレビ討論会で、「2025年までに月着陸船を開発する計画を、2020年に前倒しする。月に太極旗(テグッギ、韓国の国旗)をなびかせる」と発言した。


 韓国航空宇宙研究院は2010年3月から韓国型人工衛星搭載ロケット開発を進めている。2021年8月までに、3段型の韓国製ロケットに1.5トンの実用衛星を載せて打ち上げ、衛星を低軌道(600~800キロ)に乗せるのが目標だ。この時は、第1段ロケットも韓国の技術で開発する。予算は総額1兆5449億ウォン(約1290億円)。


 朴次期大統領が掲げる2020年有人月着陸船計画を実現するためには、韓国型人工衛星搭載ロケットも前倒しで開発しないといけない。羅老号打ち上げ成功記者会見で、韓国航空宇宙研究院は、韓国型人工衛星搭載ロケット開発を2018年には打ち上げられるようにすると発表した。


 そのためには研究人材と予算が必要になる。韓国航空宇宙研究院によると、韓国の衛星搭載ロケット開発をしている研究員の数は韓国航空宇宙研究院と韓国科学技術院を合わせても200人あまりしかいない。これに対してロシアでは4万5000人以上の研究者が携わっているという。朴次期大統領は何よりも科学技術開発を重視している。韓国型人工衛星搭載ロケット開発は予算面でも人材育成面でも、政府からの支援を期待できそうだ。


 朴次期大統領は、1)科学R&D予算を国民総生産の4%から5%に増やす、2)科学産業を発展させる土台作りのため「未来創造科学部」を新設する、と公約している。未来創造科学部は、朴政権の中心的役割を果たす省庁になるだろう。朴氏は「創造経済」をキャッチフレーズに、景気回復を図る方針だ。同氏は、未来創造科学部を次のように定義した。「想像力と創意性を科学技術につなげ、新しい成長動力を探して雇用を増やし、創造経済を支え、科学技術中心に国政を運営するための省庁である」


 未来創造科学部は、現在の教育科学技術部を廃止し、「科学」と「教育」に役割を分けた後、科学技術・ICT分野のR&D支援と技術政策を総括する。基礎科学技術開発を支援し、ICTとつないで新しい応用技術を作り出すことを課題にしている。2013年の1年だけで約10兆ウォン(約8500億円)、前年比2倍の金額を科学技術R&Dに投資する。航空宇宙開発に対する投資も間違いなく増える。


 羅老号打ち上げ成功の感動がこのまま10年続けば、韓国はロケットや月着陸船どころか、火星探査船だって作れるかもしれない。しかし、韓国人の特徴は熱しやすくて冷めやすいこと。それに5年後にはまた大統領選挙がある。政権が代われば未来創造科学部も廃止になるかもしれない。韓国型人工衛星搭載ロケット開発や有人月着陸船は、20年以上の長期にわたって地道に技術を積み重ねないと実現できない。政権が代わったから、不景気だから、失敗ばかりするから、という理由でプロジェクトを中断させてはならない。政治家を含めた全国民の科学技術リテラシーを向上させることが何より必要かもしれない。


 




By 趙 章恩

2013年2月6




-Original column
http://business.nikkeibp.co.jp/article/world/20130204/243236/

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