韓国ノマドワーキング事情~カフェの電源+Wi-Fiは無料が当たり前 [2013年3月15日]

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円安の影響から、韓国では東京や大阪でショッピング三昧の旅が流行っている。日本に行く理由は温泉にやっぱりショッピング。日本で何を買ったか自慢するブログを見ると、秋葉原や大阪でんでんタウンでフィギュアをコレクションする人も増えている。

 日本を訪問する韓国人観光客の間では、韓国では当たり前なことが日本では当たり前ではないため、日本に来て「メンタル崩壊」(魂が抜けてしまうほどショックを受けること、韓国の流行語)を経験したと話す人が少なくない。その代表的な例がカフェの電源と市内のWi-Fi、それとFAXの存在である。


 韓国は何でも速く変わる。書類はメール、メッセンジャーを使って送信し、手書きのメモや絵はスキャンするかデジカメで撮ってメールで送るのが当たり前の時代になったので、FAXは滅多に見かけなくなった。「ホテルで日本のテレビを見ていたら、FAXで届いたお便りを読むコーナーがあった。今でも家庭にFAXがあって普通に使っているなんて、メンタル崩壊~」という話をよく聞く。


 韓国ではカフェで電源は使い放題が当たり前。もちろん無料だ。大型カフェには2席当たり1つの割合でコンセントがある。韓国のいたるところにあるスターバックスにはたっぷりとコンセントがあるので、スマホの充電やノートパソコンを使うのに困ることはない。もちろんWi-Fiも無料だ。小さいカフェでコンセントがテーブルの近くに見当たらない場合、コンセントを使いたいと言えば、店員が延長ケーブルを持ってきてくれる。


 




 

ソウル市が提供する無料パブリックWi-Fiのロゴ。どこにでもあるので、韓国人はルーターやバッテリーをあまり持ち歩かない


 カフェのコーヒー代(200~400円)は場所代込みなので、客が要求すれば当然電源を提供するというのが韓国式の考え。カフェや食堂、レストラン、どこでも電源を使わせてくれる。韓国の友達に、日本では無料で電源が使えるカフェが少なく、無断でスマホを充電すると「電気どろぼう」になる場合があると話をすると、これも「メンタル崩壊~」と言われる。


 日本に来て、カフェの入り口に「Wi-Fi使えます」と書いてあるので当然カフェ側が無料でWi-Fiを提供しているものだと思ったら、「各自加入しているキャリアのWi-Fiを使ってください、ということだった」と驚きのつぶやきをする韓国人が結構いる。韓国人観光客の多い福岡は、東京に比べると無料でWi-Fiが使えるカフェが多いようだ。


 韓国は大都市の場合ではあるが、Wi-Fiも無料ゾーンが多い。空港や主な駅、デパート、ショッピングモール、ホテル、カフェではそれぞれ施設が提供する無料Wi-Fi、地下鉄の車両内ではキャリアLGU+の無料Wi-Fi(広告動画を観てから携帯電話番号を入力、携帯電話に送られてきた暗証番号を入力することで無料になる)、明洞(ミョンドン)や江南(カンナム)といった繁華街ではソウル市が提供するパブリック無料Wi-Fiを利用できる。ソウル市内のいたるところに無料Wi-Fiゾーンがあるので、海外用データ通信ローミングする必要がない。逆に高級なホテルやレストランほど無料のWi-Fiゾーンがない。


 韓国でこのようにカフェで無料電源とWi-Fiが当たり前になったのは、2009年にスマートフォンを発売してから。それからパソコンさえあればどこでも仕事ができるとして、好きなカフェを転々とする「Coffee」+「Office」の「coffice族」が増えた。カフェ側も無料でセミナールームとプロジェクターを提供したり、一人席を増やしたり、24時間営業したり、「coffice族」を常連にするためのマーケティングを行った。追加料金があるわけでもなく、時間制料金でもなく、コーヒー1杯の値段でカフェをオフィスとして十分利用できるようにしたのだ。スターバックスと並んで韓国で最も店舗数の多いカフェベネは、一部店舗でノートパソコンの貸し出しまで無料で行っている。


 「coffice族」が増えた理由の一つに、カフェの適度に騒がしい自由な雰囲気の中で打ち合わせをすると、もっと自由に意見が言える、もっといいアイデアが浮かぶ、場所が変われば気分も一新してやる気が出る、というのもあった。

しかし2012年あたりから「coffice族」がだんだん減っている。カフェ側が長居する客をお断りしたから、ではなく、もっと居心地のいい場所を見つけたからだ。


 中小企業庁や自治体のベンチャー起業支援またはキャリアの社会貢献の一つとして、無料または安く利用できる一人用オフィスが増えた。外回りの途中にカフェでちょっと仕事したり、大学生がグループ課題のためにカフェに集合したりという利用パターンもあるが、就職難で行く場所がなく起業を目指してカフェをオフィス代わりにする人が多かったからだ。中小企業庁は全国に4万人分の“一人オフィス”を運営している。それでもまだまだ足りないとのことで、民間のビジネスセンターを借りて起業を目指す人に無料で提供する方針である。





SKテレコムが運営するオープンイノベーションセンター内にあるアプリ開発一人起業支援ブース。パソコンさえ持参すれば、インターネットやコピー機、プリンター、会議室、飲み物、起業に関する相談などは無料で利用できる




同施設の休憩スペース。入居審査の競争率はもちろんかなり高い




 一人オフィスは、ノートパソコンさえ持っていけば、ネットワークとコピー/プリンター、会議室、セミナールームなど自由に使える。この施設に入るためには事業計画書の審査が必要だが、合格すれば起業・税金・法律・PR・仕事の悩みなど何でも専門家からアドバイスを受けられる特典もある。キャリアが提供する一人オフィスは、アプリ開発者支援という名目で、アプリ企画・開発のための無料教育を実施している。よいアイデアさえあれば、一人オフィスに入居して、プロの助けを借りてアイデアをビジネスに変えられるというわけだ。


 ソウル市はソウルに住む外国人のために無料の一人オフィスも提供している。事業計画の審査は必要だが、合格すれば滞在ビザ取得はもちろん、起業に必要な手続きも無料でコンサルティングしてくれる。アジア市場をターゲットにネットサービスやアプリを企画しているなら、国際的ノマドワーカーとしてソウル市の支援で起業してみるのはいかが?






趙 章恩=(ITジャーナリスト)

日経パソコン
 

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20130315/1083484/

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