[日本と韓国の交差点] 韓国映画「天安艦プロジェクト」が上映中止に

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韓国で9月5日に封切された映画「天安艦プロジェクト」が表現の自由と安全保障を巡る問題になっている。大手映画館のMegaboxが、全国22の映画館で上映を開始した「天安艦プロジェクト」の上映を中止すると発表したのだ。上映2日目である6日、Megaboxは自社ホームページに「『天安艦プロジェクト』の上映に反対する団体が強く抗議し、集会を開催すると予告した。映画館において、その抗議団体と観客が衝突することが予想される。観客の安全を守るためやむを得ず、7日午前0時から上映を中止する」と告知した。

 2日間で5000人以上が足を運んだ。上映時間75分の短いドキュメンタリー映画であるにもかかわらず、観客の入りが好調だと話題になったばかりだった。大手映画館Megaboxが上映を取り消したため、インディー映画や芸術映画専用の映画館10カ所は9月9日から上映することにした。

 「天安艦プロジェクト」は韓国の哨戒艇「天安」が沈没した事件を、政府の発表とは違う角度から振り返るドキュメンタリー映画である。政府は「北朝鮮の魚雷により爆発した」と発表していた。この映画を制作したアウラピクチャーズはその意図を「政府の発表を否定して天安艦の沈没原因を明かすことが目的ではない。政府機関の発表に疑問を持ってはいけない――と強要することについて考えるための映画だ」と説明している。

 韓国では、ほとんどの国民が「天安艦が沈没したのは北朝鮮の仕業である。これは間違いない」と信じている。このため、国防部の発表におかしな点があると指摘しただけで「パルゲンイ(赤い人=共産主義者に対する蔑称)」「従北(北朝鮮)勢力」と罵られる雰囲気がある。「韓国は自由民主主義国家なのだから政府の発表に疑問を持ってもいいじゃないか」「多様な意見があってもいいじゃないか」という点を「天安艦プロジェクト」で指摘したかったという。

上映開始前から名誉毀損の指摘

 アウラピクチャーズは「天安艦プロジェクト」を2013年4月の韓国全州国際映画祭で初めて公開した。その後、ソーシャルファンディングを利用して一般映画館で上映するための費用を調達した。7月には映像物等級委員会から「12歳以上観覧可」の認証を得て、上映の準備を整えた。

 ところが8月7日、天安艦犠牲者遺家族協会と沈没事件当時海軍にいた元将校らが、議政府地方法院(法院は日本の裁判所に該当)に上映禁止の仮処分を申請した。「天安艦プロジェクト」には「事実を歪曲し、犠牲になった兵士46人と遺族の名誉を棄損する恐れがある」というのが理由だ。

 法院は9月4日、この申請を棄却した。理由は次の3つだった。
 「映画の制作と上映は原則的に、憲法上の表現の自由によって保障される」
 「国防部合同調査団の事件報告書と違う意見や主張をしたことが、虚偽の事実で申請者の名誉を棄損したとは言い難い」
 「この映画は、事故の原因について疑惑を持っている国民がいるので(政府機関がこれについて)議論する必要がある――ということを表現する意図で制作された。虚偽の事実を並べたとは言い難い」
 これを受けて9月5日、やっと上映にこぎ着けた。

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