[日本と韓国の交差点] 越北しようした男性を警備中の韓国軍が射殺、これは殺人か?

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韓国軍の報道官が、「9月16日午後2時20分頃、臨津江(イムジンガン)を泳いで北朝鮮に渡ろうとした民間人男性を、警備していた哨兵が射殺した」と発表した。この男性を見つけた哨兵は、韓国側へ戻るよう3回、警告放送をした。だが、男性が渡河を続けたので警告射撃。それでも止まろうとしなかったので射殺したという。

 韓国軍の発表によると、臨津江周辺は統制区域で民間人が入ってはいけないことになっている(農業をするために立ち入り許可をもらった一部の人を除く)。同川は幅が800メートルほどしかなく、泳いで北朝鮮に渡ることが可能だという。韓国軍の法規では、臨津江周辺は敵(北朝鮮)と最も接近している地域であるため、軍の統制に応じず逃げる者は射撃することになっている。射殺は適切な処置だったと説明した。

 男性が射殺された臨津江から5~6キロほど離れた場所には臨津閣という観光地がある。ここには、北朝鮮が故郷で帰る場所がない人が秋夕(チュソク、韓国のお盆で旧暦8月15日、2013年は9月19日)に集まり、茶禮(チャレ)を行う場所になっている。茶禮は、その年に採れたお米や果物をご先祖様に供える行為をいう。事件当日も、茶禮のために臨津閣を訪問する人が多かった。

 「軍事分界線内であることを理由に兵士が民間人を射殺した」というニュースは韓国中に衝撃を与えた。観光地のすぐ近くで北朝鮮に渡ろうとする人がいて、哨兵が射殺する事件が起きたことに、「韓国は休戦中で、北朝鮮は主敵である」ことを改めて考えさせられた。

 韓国軍が9月17日に発表したところによると、射殺された男性が所持していたパスポートから、日本をはじめとする複数の国に政治難民として申請したが断られた経歴があることが判明した。複数のメディアが「日本が韓国に強制出国させた男性だ」と報じたが、これは、政治難民としての受け入れを断られ、日本に滞在することができなくなったからだと見られる。この男性が誰で、なぜ北朝鮮に渡ろうとしたのか、なぜ日本や他の国に政治難民としての受け入れを申し込んだのか、についてはまだ調査中だという。

射殺に賛否両論の声

 筆者はこのニュースを見て、「韓国は休戦状態にあり、主敵は北朝鮮だ。民間人に扮した北朝鮮のスパイが北に渡ろうとしていたかもしれない。射殺した哨兵は、軍人としてやるべきことをやった。やむを得ないことだったのではないか」と思った。ところが、Twitterや掲示板サイトでは「軍人が民間人を射殺するのは殺人だ」として論争が始まっていた。

 「この男性は、午後2時という白昼に『私を見て!』と言わんばかりに鉄柵を超えて臨津江を泳いで北朝鮮に渡ろうとした。この男性が民間人統制区域に入った時から韓国軍は防犯カメラで監視していたという。なぜこの男性に近づいて止めなかったのだろうか。射殺することなく止めることもできたはずだ」

 「脱北する北朝鮮の人を射殺する北朝鮮軍は残酷だと非難しておきながら、北朝鮮に渡ろうとする民間人を射殺した韓国軍はよくやったと褒める。これはおかしくないか」

 「武装していない民間人を軍人がその場の判断で射殺するのは殺人行為だ。北朝鮮に渡ろうとしたぐらいで殺すなんて残忍だ」

 「韓国は人権保護を重視しており、死刑も執行しない。射殺は正当なのか」

 以上のように、韓国軍がやりすぎたと非難する書き込みが多かった。

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