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韓国郵便局は2012年時点で累積赤字約700億ウォン(約68億円)を記録した。韓国の郵便局は政府が運営している。郵便量の減少から、特に郵便事業の赤字がひどい。韓国では光熱費やクレジットカード請求書、行政機関からの案内などもほとんどがメールで届く。郵便局で利用するのは貯金と宅配ぐらいになってしまった。
韓国郵政事業本部は、メールやLINE、KAKAOといった通信手段が一般に広く普及したことから今後も赤字が続くとして、経営改善のため大都市を中心に郵便局を大幅に統廃合する方針を発表した。空いたスペースを貸し出して収益を上げるという。
もう1つの“奇策”が、郵便局の収益改善のために始めるMVNOスマートフォン販売である。2013年9月23日から、全国の郵便局で「中小MVNO」6社のスマートフォンを販売する。ユーザーが郵便局のMVNO専用窓口でパンフレットや端末を見てMVNOと端末を選択すると、数日内に郵便局の宅配便で自宅に端末が届く。郵便局の職員を教育して、MVNOの料金制度や端末の特徴を説明できるようにする。独自の販売網を持つケーブルTV会社や大手流通チェーン店、キャリア(通信事業者)の子会社などの「大手MVNO」は対象外である。
スマホ対応で課題を抱えていた韓国MVNO
この施策は、韓国MVNO業界の事情とも関係している。
MVNOではサムスン電子、LG電子、中国ZTEなど大手メーカーと、韓国の中小メーカーのスマートフォンを利用できる。韓国の大手キャリアは他社から乗り換えると料金が安くなるとか、端末代が安くなるとか、いろいろな特典を付けて販促している。一方のMVNOではプリペイドで通話料やデータ通信料は大手キャリアより20~30%ほど安いものの、端末購入補助金がない。サムスンのGALAXYシリーズやアップルのiPhoneなど高機能なスマートフォンを選択すると、大手キャリア利用よりもトータルの費用が割高になってしまうこともある。
こうした課題を解決するため、9月4日に、MVNO事業者と、サムスン、LG、ソニーモバイルなどのメーカーが参加する「MVNO端末共同調達協議体」が発足した。MVNO専用のシンプルで安いスマートフォンを増やしたり、MVNOが大量に端末を調達することで最新機種の価格を少しでも抑えたりという取り組みを進める。MVNOのスマートフォンは現在15機種ほどあるが、協議体は2013年末までに7機種程度を追加する予定である。
流通網の問題を郵便局の信頼性で解決
端末の種類は増えるが、残った問題が流通である。今まではMVNOのオフライン代理店は少なく、ほとんどネット上だけで販売している状態だ。2012年末時点で大手キャリア3社の代理店は全国4812店、販売店(キャリア3社の端末を全て販売する店舗)は2万店に及ぶ。一方のMVNOの代理店は全国280店ぐらいしかない。
コンビニエンスストアでもMVNO2社のスマートフォンを販売しているが、選択肢が少なすぎる。コンビニには料金制度や端末の特徴をよく知っている販売員もおらず、不安を感じる利用者が多いために売れ行きは芳しくなかった。
郵便局ならMVNO6社を扱うので選択の幅が増え、局員が説明をしてくれるので利用者の不安も少ない。国営の郵便局で販売することによって、MVNOの信頼度を底上げする効果も狙える。2013年後半にはMVNOのスマートフォンユーザーがかなり増えそうだ。
韓国のMVNO加入者は2013年8月末時点で約200万人。全携帯電話加入者の3~4%という規模である。韓国のICT政策を担当する省庁に当たる未来創造科学部は、欧米のようにMVNO加入者が全携帯電話加入者の10%を超えると、MVNOと大手キャリアの競争が促進されて、より安い費用でスマートフォンを利用できるようになると見込んでいる。
趙 章恩=(ITジャーナリスト)
日経パソコン
-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20130906/1104066/