ネットゲームはアルコール中毒と同じ? 韓国政府はゲーム産業育成を掲げつつ規制も [2013年11月8日]

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韓国国会は今、オンラインゲームを麻薬中毒やギャンブル中毒、アルコール中毒と同じく深刻な“中毒”を引き起こすので厳しく取り締まるべきだという趣旨の法律案を検討している。これは「中毒予防管理及び治療に関する法律」で、通称「4大中毒法」と呼ばれている。この法が制定されると、ゲーム産業は売上高の1%程度を「中毒治癒負担金」として国に支払わなければならない。

 韓国政府コンテンツ振興院が2013年10月末発行した「2013大韓民国ゲーム白書」によると、韓国の2012年ゲーム市場規模は約8900億円。26億3891万ドル分を輸出した。韓国のコンテンツ輸出の実に67%をゲームが占めている。K-POPよりも韓国産ゲームの方が海外で売れているわけだ。自動車やデジタル機器の輸出に負けないほど大きく成長しているのがゲーム産業の輸出である。

 コンテンツ産業を育成するうえでゲーム産業の活性化は欠かせない。韓国のICT政策省庁である未来創造科学部と文化体育観光部(部は省)は、ゲーム産業をK-POP、映画、アニメ、ミュージカルと並んで5大重点コンテンツ産業として育成するという計画を発表したばかりだった。

ゲーム産業振興の半面で規制論が台頭

 しかし、与党のセヌリ党は未来創造科学部と文化体育観光部の政策をひっくり返して、ゲームを「アルコール中毒や麻薬中毒のような社会悪を引き起こす」ということで取り締まろうとしている。セヌリ党はこれといった科学的根拠を示さないままゲーム中毒とアルコール中毒、麻薬中毒は同じと主張しているため、野党の民主統合党とゲーム産業は反発している。

 「育成する」と言ったかと思えば「規制する」と言い始めたりして、足並みのそろわない政府の姿勢にゲーム産業は困惑している。セヌリ党が規制強化しようとしていることが分かってから、ゲーム会社の株価は軒並み下落した。

「社会悪」というレッテル貼りに抵抗

 ゲーム産業は、「負担金以上に問題なのは、政府がゲームを社会悪と断定すること」だと口をそろえる。ゲーム産業の社会的印象が悪くなったことで、ゲーム開発者として働く人たちもプライドを傷つけられたとして、「ゲームが麻薬のように中毒を起こすので社会悪ということは、ゲーム開発者は麻薬売人と同じということなのか」と反発している。

 10月末に韓国を訪問した米グーグルのエリック・シュミット会長も韓国ゲーム産業を擁護して、「韓国のゲーム産業はK-POP以上に成長できる。ゲームを“検閲”するより活性化させるべき」とコメントしたほどだ。

 すでに政府は2011年、青少年のゲーム中毒を予防するため、「強制的シャットアウト制度」を導入している。16歳未満のユーザーは夜12時から朝6時までゲームを利用できないようにシャットアウトし、アクセスできないようにする制度である。

「強制的シャットアウト制度」も効果は限定的

 これは会員登録時の住民登録番号(国民ID)を根拠にした制度だ。その裏をかいて、小中学生らは16歳未満でない親の住民登録番号を盗用して、会員登録し始めた。また、海外にサーバーがあるゲームサイトは強制的シャットアウト制度が適用されない。なので、韓国のゲーム会社だけが影響を受ける結果となった。強制的シャットアウトで夜12時以降は利用できなくても、ゲーム会社はユーザーに利用できなかった時間分の利用料金を払い戻すことをしなかった。これもトラブルとなった。

 ではこうした規制強化に効果はあったのだろうか。その後の国会の調査によれば、強制的シャットアウト制度が始まってから夜12時以降ゲームをしなくなったと答えた青少年はたった0.3%だということが分かった。すると「ゲーム産業に対する無駄な規制はやめた方がいい」という世論がわき上がった。韓国コンテンツ振興院が2012年に青少年12万人と19~35歳の男女3300人を対象に実施した調査でも、ゲーム中毒と言えるほど問題のあるユーザーは全体の2%だった。

 政府がゲーム産業を厳しく規制すればするほど、ゲーム中毒が減るのではなく、ベンチャーキャピタルの投資が減り、新しいゲームの開発が減る悪影響が出ている。ゲーム産業の委縮は、韓国のコンテンツ産業全般に悪影響を与える可能性が高い。数年前まで中国や台湾、日本のネットカフェで見かけるオンラインゲームの多くは韓国で開発したものだった。最近のパソコン用オンラインゲームは中国と米国、モバイル用ゲームは日本のものが競争力を高めて市場を席巻し始めている。

ゲーム産業は署名活動を開始

 韓国インターネットデジタルエンターテインメント協会は、ゲームを麻薬やアルコール中毒と同じように扱うという、世界でも例を見ない「中毒法」に反対する署名を集めている。2013年11月7日までに19万人以上が署名に参加した。韓国のゲーム会社も、自社サイトに反対署名のバナーを貼り、ユーザーに署名を求めている。

 

大手ゲームサイトNEXONも、ゲームを社会悪とみなす中毒法制定に反対する署名を呼びかけている(Noと書いてあるバナー広告)

 11月14日からは釜山市で年に1度のゲーム展示会「GSTAR」が開催される。毎年30万人近くが訪問する大人気の展示会だ。GSTAR展示会のブースでも署名運動を続けるという。

 何でも政府が管理しようとするのが韓国の特徴ではあるが、ゲーム産業に対する政策には反対の声が強い。日本のように、基本的に市場に任せ、政府がゲームやコンテンツ産業にあまり口出ししない姿勢を見るとうらやましく思う。

趙 章恩=(ITジャーナリスト)

日経パソコン
 

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20131108/1111404/

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