[日本と韓国の交差点] 虎の飼育場が追い出し部屋!?

.
11月24日、ソウル市が運営するテーマパーク「ソウル大公園」内にある動物園で、飼育員が虎に首を噛まれ意識不明の重体になる事故があった。飼育員が飼育場を掃除しようと入ったところ、虎を隔離していた別の部屋のドアが開いてしまい、虎が飛び出して飼育員を襲った。

 事故を起こしたこの虎は、3歳のオスで体重180キログラム。ロシアのプーチン首相(現在は大統領)が2011年、韓国・ロシア修交20周年の記念に贈ったものである。

 この飼育場には猛獣がいるにもかかわらず監視カメラがなく、飼育員が事故に遭ったことに誰も気付かなかった。偶然通りかかった売店の人が見つけて通報したという。

 警察と救急隊が駆けつけた時、虎は飼育場の外にある飼育員が通る通路に座っていた。来場者がいる場所と虎の間には1.4メートルの高さの柵しかなかった。虎が十分飛び越えられる高さだ。もし虎が興奮して柵を飛び越えた場合、ソウル大公園内にいた来場客まで事故に巻き込まれる可能性があった。事故があった11月24日日曜日の午前、ソウル大公園内には既に1092人の来場客がいた。虎は、後から到着したパトカーのサイレンに驚いて自分の足で飼育場に戻ったという。

 この事故が報道された時、韓国メディアの記事やそれへのコメント欄には、「虎が飼育員を襲ったのは、飼育員が掃除のため飼育場に入る際にマニュアル通りに行動しなかったからではないか」とする意見が多かった。利便性を優先するあまりマニュアルを守らない韓国人の仕事ぶりを問題にするものだった。しかし、11月25日にソウル大公園が記者会見を開いたのを契機に、非難の矢はソウル大公園に向けられるようになった。

研修もなく虎担当に異動

 記者会見でソウル大公園長と動物園長は以下の説明を行った。

 事故に遭った50代の飼育員は、1987年ソウル大公園に入社し、昆虫飼育場を26年間にわたって担当していた。昆虫研究で博士号を持つほどの専門家であった。本人は昆虫の飼育担当を続けたいと希望したが、ソウル大公園側はこの飼育員を2013年1月から虎の飼育場へ異動させた。

 ソウル大公園側は、「入社27年目の飼育員は動物園のことは何でも知っているはずだ」として、虎を扱うための安全教育を行うことなく、人事異動の翌日から虎の飼育場で仕事をさせた。虎の飼育係用のマニュアルはなく、前任の飼育員が虎の好む餌について口頭で説明しただけだった。韓国には飼育員資格制度がないため、何の教育もしないまま猛獣の飼育を担当させても法律違反にはならない。

 虎の飼育場に入る際には2人1組で行動することになっている。しかしこの日、飼育員が足りないという理由で、被害に遭った飼育員は1人で虎に餌をあげ掃除をしていた。

 ソウル大公園側は、飼育員を襲った虎を隔離することなく、事故後も展示場に入れて一般に公開していた。来場客から抗議を受けて、やっと虎を飼育場に戻した。ソウル大公園は記者会見で、猛獣が飼育場を飛び出した場合を想定した避難マニュアルはなく、来場客向けの避難所もないと明かした。虎が飼育場を飛び出して公園内に出た場合、来場者は公園の外へ逃げ出すほかに方法がない。ソウル大公園動物園は韓国で最も大きな動物園で、面積は242万平方メートルもある。逃げ切れる保証はない。

ここから先は「日経ビジネスオンライン」の会員の方(登録は無料)のみ、ご利用いただけます。ご登録のうえ、「ログイン」状態にしてご利用ください。登録(無料)やログインの方法は次ページをご覧ください。


Leave a Reply

Your email address will not be published. Required fields are marked *