[日本と韓国の交差点] 韓国映画「弁護人」が学生たちを人権に目覚めさせた?!

この冬、韓国映画の歴代興行記録を更新するヒット作が登場した。故盧武鉉(ノ・ムヒョン)大統領の経験をモチーフにした映画「弁護人」である。

 2月2日時点で観客1110万人を動員(映画館入場券統合電算網調べ)。韓国で最もヒットした映画ランキングで8位になった。過去最高は1300万人を超えた「アバター」。韓国映画で最もヒットしたのは同じく1300万人を超えた「怪物」だった。

 「弁護人」の主人公は、釜山で不動産登記や税務を専門とする弁護士だ。高卒で、苦労の末に司法試験に合格した。お金儲けがすべてとの人生観を持つ。「民主化運動なんて勉強したくない大学生らがすることだ」と信じて疑わない中年男性でもある。

 映画の舞台は1981年のある日。行きつけの食堂の大学生になる息子が1カ月以上行方不明になる。光州民主化運動(1980年5月18~27日の間に光州で起きた民主化運動。軍事勢力の退陣と戒厳令の撤廃、民主的な政府の樹立を求めた)のようなことが釜山で起こってはならないとして、検察公安が令状もなく大学生らを逮捕して不法監禁、拷問する。食堂の息子も監禁された学生の1人だった。検察公安は拷問で得た供述を元に、大学生たちを、北朝鮮体制を信奉し国家保安法に違反した罪に問う。一人息子を助けようと、食堂のおばさんは主人公に懇願。主人公はこの事件の弁護を担当することで人権に目覚める。

 映画のモチーフになったこの事件は「ブリム事件」といって、1981年9月に起きた。ドゥサン百科事典は次のように説明している。「ブリム事件は、軍事独裁政権が民主化運動勢力を弾圧した事件。1981年9月、釜山地方検察公安が、釜山地域の良書協同組合を通じて社会科学読書クラブに参加した学生・教師・会社員22人を令状もなく逮捕し、20~63日間不法監禁して拷問した。読書クラブの活動は国家保安法違反だとして22人のうち5人は5~7年の懲役刑となったが、1983年12月に刑の執行が停止となった。2013年3月からブリム事件に関して再審が始まった」。

 故盧武鉉大統領は実際に高卒弁護士で、ブリム事件で被告人となった被害者らを弁護した。このことがきっかけとなり人権弁護士として民主化運動の先頭に立った。映画はこれをモチーフにした。ただし、この部分以外のストーリーはすべてフィクションで、盧武鉉大統領とは関係ない。

 韓国の80年代と言えば、1988年にソウル・オリンピックを開催し、経済が大きく成長した時期である。だが、その一方で、軍事政権の下で民主化運動が絶えず、軍と市民が衝突して多くの犠牲者を生んだ時代でもある。1980年5月18日に起きた光州民主化運動、1987年6月29日の民主化宣言は有名だが、釜山で起きたブリム事件はあまり知られていないので、こんなことがあったのかと20~30代の若者に衝撃を与えた。

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2014年2月6日




-Original column
http://business.nikkeibp.co.jp/article/world/20140206/259373/

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