.
「保健産業を未来成長産業に育成する」――。
朴槿恵政府が掲げた国政課題に従い、韓国では2014年4月から新たな医療機器産業育成政策として「2014~2018医療機器産業中長期発展計画」がスタートした。この計画は、医療機器産業を韓国経済をリードする主力産業に育成し、2020年までに韓国が世界7大医療機器国になることを目標にしている。
保健福祉部(部は省)のデータによると、2013年末時点で韓国の医療機器生産額は前年比8.9%増の4兆2242億ウォン(約4647億円)、輸出額は前年比19.8%増の2.5兆ウォン(約2750億円)、世界市場に占めるシェアは1.2%、医療機器関連雇用は3.7万人に過ぎない。医療機器市場の貿易赤字は4074億ウォン(約448億円)で、輸出より輸入の方が多い。2020年までに世界7大医療機器国になるためには、医療機器輸出額13.5兆ウォン(約1兆4850億円)、世界市場シェア3.8%、医療機器関連雇用13万人以上を達成しないといけない。
病院を中心とした研究プラットフォームも
2014~2018医療機器産業中長期発展計画における4大戦略は以下の通りである。
■中小企業も医療機器市場に進出しやすいよう規制緩和を行う
■韓国産医療機器の輸出を拡大するため、信頼とブランド価値を向上させる
■世界医療機器市場に進出するため戦略的にR&Dに投資する
■アイデアがあれば市場に参加できるオープンイノベーション・エコシステムを構築する
規制緩和と輸出拡大のためには、医療機器政策を担当する保健福祉部(部は省)と産業通商資源部だけでなく、幅広い省庁の協力が必要となる。複数の省庁が縦割りをなくして協力できるよう、同中長期発展計画では保健福祉部・企画財政部・未来創造科学部(通信産業担当)・産業通商資源部・食品医薬品安全処・中小企業庁・特許庁が関わっている。2014年の上半期中に省庁合同で細部実行企画を決めることにした。
韓国の医療機器業界が支援を求めていた臨床試験に関しても改善の兆しが見え始めた。韓国政府は、医療機器メーカーが病院のインフラを活用して研究や臨床試験ができるよう支援し、アイデア発掘から知的財産保護・臨床試験・認可・医療機器販売に至るまで専門的に医療機器メーカーをコンサルティングする「医療機器仲介・臨床試験支援システム」を構築することにした。2013年にインドネシアとベトナムにオープンした「海外医療機器総合支援センター」を通じて、海外輸出のための海外臨床試験費用支援、海外で認可をもらうためのコンサルティング提供、海外でのPR活動を強化することにした。
さらに、病院を中心に医療機器メーカー、研究所、大学などが連携して共同研究できる「融合研究プラットフォーム」を作り、これをオープンイノベーション型に発展させようとしている。医療機器メーカーが良いアイデアと要素技術を持っていても、これを臨床試験にまでつなげられず途中であきらめてしまうケースが多かったことから、臨床試験までたどり着けるようにする仲介研究と臨床試験の費用も支援額を増やすことにした。
Samsung社に“追い風”の政策
規制緩和に関しては、医療機器の品目許可(認可)と医療技術評価にかかる時間を最大限短縮することにした。2014年4月8日には食品医薬品安全処が「医療機器品目及び品目別等級に関する規定」を改訂し、運動・レジャー目的の心拍数計測機能があるスマートフォンは医療機器ではないと規定した。
Samsung Electronics社が韓国で2014年4月に発売したスマートフォン新機種「GALAXY S5」は、この規制緩和のおかげで無事、心拍数計測機能付きで発売できた。今までは心拍数計測機能付きモバイル端末は医療機器に分類され、キャリアの代理店ではなく医療機器専門店でしか販売できなかった。
この規制緩和に関しては、一部のメディアが「これはSamsung Electronics社のための改訂ではないか」「Samsung Electronics社が国のルールを牛耳る」、と報道したことから議論になっている。
この影響で、保健福祉部が医療機器融合人材を養成するために、Samsungグループが財団のソンギュンクァン大学を医療機器特性化大学院に指定し、4年間で約20億ウォン(約2.2億円)を支援することにしたことも、「政府がSamsung社の肩を持つ」と見られてしまった。
Samsung Electronics社は、病院や医療機器、モバイル端末製造、IT技術開発などのグループ会社を持ち、そのシナジー効果で韓国の医療機器とヘルスケア産業をリードしている。しかし、「韓国政府の医療機器育成政策=Samsung社支援」と反発があるのも事実だ。保健福祉部は、「韓国はITに強みを持っているだけに、ITと医療を融合した医療機器に集中投資する。医療機器を韓国経済の軸になる産業に育てる」としている。今後、中小企業やベンチャーの支援もさらに拡大する必要がある