韓国の情報通信政策を担当する中央省庁である放送通信委員会は、通信商品のセット販売の割引幅を政府の認可なしでも50%までできるように拡大した。通信会社らはこれまでも提供してきた携帯電話とブロードバンドのセット割引に加え、今回新たに携帯電話+ブロードバンド+インターネット電話+IPTVの組み合わせの中で基本料の割引を始めた。携帯電話とブロードバンドのセットだと基本料の10%引き、携帯電話とブロードバンドとインターネット電話のセットだと基本料の20%引きといった具合に、セットでの組み合わせを増やせば増やすほど割引幅は大きくなる。
ブロードバンド2位のHanaroTelecomを買収した携帯電話シェア1位のキャリアSKテレコムは、さらに家族割引や長期加入割引を適用して最大50%まで割引されるプランを開始している。対象となるサービスの契約期間の合計が10年未満は10%、20年未満は20%、30年未満は30%、30年以上だと50%割引される。例えばSKテレコムの携帯電話に家族全員が契約していて、家族全員の継続利用期間を足すと20年、同じグループ会社であるHanaroTelecomのブロードバンド契約期間が10年だと合わせて30年ということで50%割引される。
買収の効果は契約者獲得の道を広げたという点でも意味があった。SKテレコムの代理店からHanaroTelecomのブロードバンドを申し込めるようになっている。SKテレコムの加入者は約2300万人と人口の約半分に当たるわけだから、HanaroTelecomの販促への影響は大きい。この加入者を対象に「より安くインターネットが使える」とマーケティングをすれば、ライバルであるKTのブロードバンドシェアを奪えるかもしれない。また、HanaroTelecomは、加入者獲得のためにテレマーケティング会社に会員情報を無断で流出したことで取り調べを受けた過去がある。SKテレコムの傘下に入ったことでより安定したマーケティングが行えるようになったのも追い風だろう。
SKテレコムにとっても今回のセット割引の規制緩和の意味は大きい。同社の携帯電話を使っているユーザーがHanaroの有線ブロードバンド、インターネット電話、IPTVを追加で申し込むとどんどん基本料が安くなる。ユーザーにセット割引を選択させることで有線・無線といった通信市場全体ではもちろん、放送と通信の融合でも自社グループのシェアを伸ばして市場を掌握しようというわけだ。
最大手KTは意外と苦戦
このようなセット割引で益々シェアを伸ばすだろうと予想された最大手通信業者のKTは意外にも苦戦している様子だ。KTは日本のNTTのような会社で、携帯電話、固定電話、ブロードバンド、VoIPなど多様なサービスを傘下のグループ会社が提供している。当然、これらの商品を何でも組み合わせて複数で加入すると基本料の合計を割り引きしてくれる。
現にKTは固定電話と有線ブロードバンドをメインに使いながら、携帯電話を子会社の移動通信キャリアKTFの3Gに変えると利用する全商品の基本料が割り引きされるというキャンペーンを実施しているが、長期割引や家族割引の影響からナンバーポータビリティを利用しても、ユーザーに携帯電話のキャリアを移動させるのはそう簡単にはいかない。この手のキャンペーンを実施してからセット割引に加入した人は全加入者の数パーセント、9カ月間で30万人しかいなかった。
セット販売による加入者増加が思うようにいかないことが明らかになってくると、KTはついに固定電話の基本料まで割引の対象に含めた。3年契約で固定電話の基本料が5%割引される。シェア90.3%とほぼ独占状態の固定電話まで割引対象にしなくてはならないほどKTは追い込まれているのかもしれない。この4月からインターネット電話も固定電話の番号をナンバーポータビリティで利用できるようになったため、料金の安いLGデイコムのインターネット電話へと顧客が流れている。これらの影響で、KTの固定電話シェアは毎年1.7%~2%ほど減り続けているのだ。
KTは有線ブロードバンドでも5割以上のシェアを占めてドミナント規制の対象になっているが、2008年9月以降の商用化が予想されるIPTVの前身であるTVポータルに関してはすでに1位の座を通信2位業者のHanaroTelecomに奪われている。KTは地上波放送の再送信を含む本格的なIPTVが始まる前に、TVとセットトップボックスを利用したTVポータルのシェアを奪い、放送と通信の融合でも1位業者になりたがっているようだが、豊富なVODコンテンツで既に市場を先占してしまったHanaroTelecomから顧客を奪ってくるのはそう簡単にいかない。
とまあ、現状は、電話、ブロードバンド、IPTV各市場でKTとSKテレコムが激突している構図だ。
携帯通話にもインターネットの波、行き着く先は消耗戦?
LGグループもキャリアのLGテレコムとブロードバンドのLGパワーコム、インターネット電話のLGデイコムを持っている、LGテレコムは加入者が最も少ないキャリアだけに安さで勝負している。どこよりも先に家庭向けインターネット電話サービスを開始し、電話代を大幅に節約できるとアピールした。加入者間無料通話、国際電話も1分50ウォン(約5円)の安さから60万人以上が加入している。パケット定額もどこよりも安い。
このような料金競争にさらに追い討ちをかけるのはWibro(モバイルWiMAX)の音声通話機能搭載だ。まだ方針が決まったわけではないが、技術的には今すぐにだってできるという。携帯端末にWibroを搭載して高速で移動しながらも安くて早いインターネットにつなぎ、さらに携帯電話よりはるかに料金の安いインターネット電話を使えば移動しながら通話もできるとなれば、もう携帯電話なんていらないんじゃない?とまで考えられる。
インターネット電話を移動しながらも使う、これはもうすぐ現実になるだろう。携帯電話は料金の安さに負けない何か特別な魅力を打ち出さなくてはならない。でもその差別化された魅力とは携帯電話だけの課題ではなく通信業界全体が探し求めていることでもある。となると、技術革新によって、携帯、ブロードバンド、固定電話の境界が消えていく結果は、料金競争に陥るしかない。韓国ではパケット定額も最近始まったばかりだが、携帯電話の音声定額も登場するかもしれない。貧困対策として基礎生活保護者に指定されている世帯の携帯電話基本料免除案も登場する中、通信会社はもう通信費の売り上げだけでは食べていくのは難しくなるかもしれない。消耗戦が激化する前に料金競争の次に何が来るものを見つけ出さなくてはならないはずなのだが、それはまだ誰にも見つかっていないように思える。
(趙 章恩=ITジャーナリスト)
日経パソコン
2008年6月18日
-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20080617/1005103/