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2003年から議論が始まった韓国の「災害安全通信網」がようやく具体的に動き始めた。
韓国政府は、7月末に災害安全通信網としてLTEを活用することを決めた。周波数は地上波放送のデジタル化以降にあまった700MHz帯のうち、20MHz幅を使うことになった。700MHz帯は電波が届く範囲が広い。
災害安全通信網は、PS(Public Safety)‐LTEとして政府予算で新たに構築する。8月からは複数の省庁が協力し、2014年末までに災害安全通信網構築実行計画を策定。2015年から一部地域で実証実験を始め、2017年までに全国でネットワークを構築するという予定になっている。
韓国政府は、音声だけの短波無線通信とは違い、LTEは音声・映像・データを高速伝送できるため、救助活動には最適の通信方式であると評価した。米国と英国の政府が、LTEを災害通信・救急通信として利用しているという点も影響した。
災害安全通信網の構築は、災害や事故といった非常事態が発生した際に、警察、消防、軍、地方自治体が同じ通信を使ってコミュニケーションしながら救助作業ができるようにするための国家政策である。現在は、警察、消防、軍、地方自治体がそれぞれ別のネットワークを使っているせいでコミュニケーションがうまくとれず、救助にあたる消防と警察などの間でミスコミュニケーションが発生し、深刻な2次被害を招いてしまったこともあった。
代表的な例が、2003年に発生したテグ地下鉄の大惨事である。71歳の男が地下鉄の車両内に放火し、192人が死亡、148人が負傷した事件だ。
救助にかけつけた消防・警察・テグ地下鉄公社が、それぞれ異なる方式の無線通信を利用し、それぞれが指令を出していたため、捜索する場所を間違えたり、市民が警察に通報した内容が消防には伝わっていなかったりして、救助が混乱して死傷者が増えてしまった。何人救助できたのかもわからなかったという問題もあった。無線通信がバラバラだと、現場で救助にあたる全ての組織を一括指揮することもできない。
また、警察や地下鉄公社が使っている無線通信の方式が古く、盗聴されやすいことも問題として挙がっていた。
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