.
韓国の企画財政部(部は省)と雇用労働部は12月1日、「新しい正規職」を導入すると発表した。現在の非正規職より賃金は高いものの、正規職より解雇しやすい「中規職」を作る政策だ。韓国政府は、「従業員を自由に解雇することができない」という負担を減らせば採用が増えると考えている。だが、与党のセヌリ党内部や学界でも「時代錯誤な発想」だとして反発する声がある。韓国の「民心」を逆なでする計画だからだ。
このところ韓国で、非正規職をめぐる社会問題が相次いでいる。11月に封切りし、口コミで観客が増えている映画「カート」は、大手スーパーで働くパート主婦らが主人公だ。不当な解雇に立ち向かい、2007年に労働組合を結成。500日以上会社に対抗し職場を取り戻した実話をモチーフにした。
映画に登場する大手スーパーは、ある日突然、非正規職の全員を解雇し派遣社員に切り替える決定をする。理由は、非正規職保護法を順守するため。同法は、非正規職が24カ月間同じ職場で働いた場合、25カ月目からは正規職として採用しなければならないという内容だ。スーパーはパート主婦を正規職にしたくないため全員を解雇し、いつでも契約を切ることができる派遣社員に代える方法を選んだ。映画「カート」の主人公らは、時間に余裕があるからパートに出ている主婦ではない。色々な事情があり、夫に代わって生計を支えるために働いている。だから職場を取り戻したい。
映画「カート」は、非正規職問題をテーマにした初の韓国映画として注目を浴びている。映画の中には、会社側から不当な待遇を受けながらも解雇されることを恐れて何も言えないパート主婦、清掃員、コンビニのアルバイトなどの非正規職が数多く登場する。この映画には非正規職と正規職という差別をなくし、みんなで生きていく社会にしようというメッセージが込められている。
正規職にならないと普通の暮らしはできない
正規職の給料は基本給と手当からなる。基本給は勤務年数に応じて増える。一方、非正規職の給料は時給で、同じ職場で何年働いても上がることはめったにない。2007年に施行した非正規職保護法は、非正規職を減らすはずが、24カ月で解雇される若者を増やしただけだった。
統計庁のデータによると、非正規職の数は2007年の570万人から2013年の607万人に増えた。正規職と非正規職の給料の差は、2008年の134万ウォン(約14.8万円)から2013年の158万ウォン(約17.3万円)に広がった。正規職の給料は2008年の256万ウォン(約28万円)から2013年の298万ウォン(約32万円)に増えたが、非正規職の給料は同122万ウォン(約13.4万円)から同140万4000ウォン(約15.4万円)とあまり増えなかった。同じ時間働いたとしても、非正規職は正規職より約17.3万円給料が少ない。
統計庁は以下の調査結果も公表している。韓国の賃金労働者のうち、35.5%を非正規職が占める(2014年10月時点)。賃金を時給に換算すると、非正規職の時給は正規職の64.2%程度に過ぎない。インターンや契約社員として入社し、1年後に正規職になれる割合は11.1%に過ぎない。韓国では正規職にならないと1人分の給料で普通に生活していくことはできない。だから正規職になれるかなれないかは死活問題なのだ。
ここから先は「日経ビジネスオンライン」の会員の方(登録は無料)のみ、ご利用いただけます。ご登録のうえ、「ログイン」状態にしてご利用ください。登録(無料)やログインの方法は次ページをご覧ください。
By 趙 章恩
日経ビジネス
2014年12月2
-Original column
http://business.nikkeibp.co.jp/article/world/20141202/274547/