「韓国スマートヘルスケア最前線」ウェルネス分野を医療機器規制から除外、市場育成重視 [2015年05月29日]

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韓国において医療機器の認可を担当する省庁である食品医薬品安全処は、「融・複合ヘルスケア活性化対策」の一環として、ウェルネス(Wellness)分野のウエアラブル端末やモバイルデバイスを2015年6月からは医療機器と見なさないとの決定を下した。

 食品医薬品安全処は6月末までに、「健康管理用Wellness製品区分基準ガイドライン」を制定する。同ガイドラインでは、日常生活で健康を維持するために使うリストバンド型の体脂肪計や心拍計などを、医療機器管理対象から除外。患者の状態に応じて診断および処方するために使う機器でなければ、Wellnessに分類することとした。

 医療機器管理対象から除外されると、事前許可審査や医療機器製造、品質管理基準といった、医療機器向けの義務規定を守らなくても済む。結果として、製品開発から製品化まで最長4年ほどもかかっていた審査期間を、2カ月に短縮できるとする。ただし、電気用品安全管理法に従い、電気的安全性は検証する。Wellness製品として発売してから疾病の診断・治療などの医療目的の機能を追加できないように、事後管理を行う。

 Wellnessはwell-beingとhappiness、fitnessを組み合わせた造語で、健康な状態を意味する。治療目的ではなく健康な人が健康を保つために使う機器に関しては、安全確認以外の手続きを簡素化し、開発から発売までの期間を短縮できるようにするわけだ。

韓国Inbody社が開発した、手首にはめるだけで体脂肪を測れるウエアラブル端末「InbodyBand」。今回の規制緩和により、韓国では体脂肪や心拍数、呼吸などを測れる個人向けウエアラブル端末市場の拡大が見込まれる


産業界の声や米国の動向が後押し

 朴槿恵大統領が主宰する「規制改革長官会議」では、技術の進展に規制が追いつかず、企業の足を引っ張っている事例として医療機器を取り上げ、2013年ごろから規制緩和の取り組みを進めてきた。同会議は「クリエイティブなアイデアの迅速な市場投入」を支援することをうたう。

 海外では心拍数や体脂肪量などの生体情報を簡単に測定し、個人が自ら健康管理に使えるウエアラブル端末やモバイルデバイスが増えている。こうした中、韓国だけが規制を厳しくしていては、世界から取り残されてしまうとの懸念が産業界から相次いでいた。特に、健康維持に使うWellness製品はそもそも製品区分の定義が曖昧であり、医療機器として審査するうちに製品の発売が大幅に遅れることもしばしばあった。そのため、ウエアラブル端末やヘルスケア関連のベンチャー企業が、拠点を米国に移す事例も増えている。

 高齢化が急速に進む中で、健康で長生きするにはフィットネスや医療にお金を惜しんではならないとの意識も高まっている。Wellness市場は今後大きく成長すると見込まれており、人体に害を及ぼすリスクの低い製品については積極的に規制を緩和して市場を盛り上げようという算段だ。FDA(米国食品医薬品局)は2015年1月、Wellness分野のガイドライン(General Wellness:Policy for Low Risk Devices, Draft Guidance)を発表。世界に後れを取るまいとする韓国政府の決定に影響を与えた。

迅速な製品化を促す

 食品医薬品安全処は、ICTと医療の融合によるイノベーションを促す上で、「医療機器統合情報バンク」を早期に構築する考え。製品企画から研究開発、臨床、製品化、認許可に至るそれぞれの段階で、専門チームが省庁の枠を超えて戦略的に企業を助ける仕組みを整える。医療機器輸出のための主要国認許可情報や通関手続きなども一カ所でまとめて管理し、全省庁で共同利用できるようにする。

 従来、韓国では医療機器の研究開発を支援する省庁と製品の認可を担当する省庁が分かれていた。支援策や規制もばらばらだったためか、韓国保健産業振興院の2013年の調査によれば、医療機器の研究開発後の製品化率はわずか5%にすぎなかったという。

 食品医薬品安全処は、韓国の医療機器やヘルスケア向けウエアラブル端末がグローバル市場を占有できるよう、「安全面にかかわらない規制に関しては今後も改善を続ける」としている。


By 趙章恩の「韓国スマートヘルスケア最前線」
日経デジタルヘルス
 -Original column

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