国連選定「電子政府世界1位」の韓国で国民番号制度見直しの動き、日本のマイナンバーは?

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電子政府 2014年の国連調査では日本が電子政府評価で6位に入っているが……

 日本でいよいよ2015年10月からマイナンバーの通知が始まる。いち早く、マイナンバーのような住民登録番号を導入し、行政機関や地方公共団体などで効率よく個人情報を管理・情報連携している国といえば韓国である。

 住民登録番号を活用して国民の生活をより便利にした代表的な事例が電子政府である。日本のマイナンバーポータルのようなサイトだ。国連は2年に1度、世界中の電子政府を評価して順位を付けるが、韓国は2010年、2012年、2014年、3回連続1位に選ばれた。

 電子政府は行政機関向け、企業向け、国民向けと入り口が分かれている。国民向け電子政府である「民願24」を利用すると、区役所や行政機関を訪問しなくても各種届け出を行い、書類を発行できる。

 転入・転出届け出、住民票、印鑑証明、建築物管理台帳、土地台帳、自動車登録、各種税納付証明、事業者登録証明、所得証明、全国大学の卒業証明書、出入国証明書、外国人登録事実証明書、兵籍証明書、障害者証明書などなど、取引や就職など日常生活で必要な3000種類もの届け出をWEBかアプリで行い、自宅で1200種類もの証明書を印刷して使えるようになった。電子政府を利用すれば、窓口で発行するより手数料も安い。住民票や戸籍票は英語でも発行できる。

 韓国行政自治部(部は省にあたる)の調査によると、16歳から74歳のインターネットユーザーの80.3%は1年以内に1回以上電子政府サービスを利用したことがあるという。2013年末時点ですでに各種届け出と書類発行の77%が電子政府経由で行われたほど定着した。

 行政機関も電子政府を利用するので、パスポートの申請も添付書類はいらない。身分証を持って窓口に行き、写真を撮って手数料を払うだけで手続き完了となる。

税金の場合、国税庁のサイトから住民登録番号と名前を入力し、電子署名で本人確認をしてログインすると、本人の住所と家族関係、その年の所得、金融所得(証券取引や貯金利子収入)源泉徴収額、使った医療費と教育費などのデータがぽんぽん出てきて、よほどのことがない限り、自分で金額を入力する必要も、書類を提出する必要もなく確定申告が終わる。

 電子政府を利用するには「公認認証書」という本人確認のための電子署名が必要である。公認認証書は、基本的に銀行のインターネットバンキングを利用する際に必要なもので、銀行口座を持っている成人であれば誰でもネット上で作れる。これをUSBやスマートフォンに保存してログインする際に使う。

 病院に行く際も、保険証や診察券はいらない。身分証さえあれば病院側が行政のデータベースからその人が健康保険に加入しているかどうか、過去の診療内訳も確認する。患者が病院のアプリから診療予約を行うと、当日アプリ経由で病院内のどこに行けばいいのか順番通り案内してくれるので病院内で迷うこともない。処方箋もアプリに届くよう設定できる。現在は地域内病院・大学病院間で診療・検査記録も共有するので、患者が転院しても、同じ検査を繰り返す必要がなくなった。

 オープンガバメント政策により、電子政府サイトで政府が保有する公共データベースも公開、アプリ開発やビジネスに活用できるようにもしている。

 電子政府は住民登録番号があったからこそできた行政サービスである。当初の番号制導入の目的は北朝鮮のスパイを識別するためだった。韓国では1968年から法律によって国民に番号を発行し、1970年から現在の13ケタの番号制度の住民登録制度が始まった。住民登録番号には生年月日と性別、出身地などの情報が盛り込んである。韓国人は出生申告をすると住民登録番号を付与され、行政・医療・教育など全てを番号で管理される。韓国では本人確認の名目で、携帯電話に加入するにも、インターネット回線を使うにも、銀行で口座を作るにも、何をするにも住民登録番号が必要だった。政府機関だけでなく民間企業も住民登録番号と個人情報を紐づけて管理してきた。いざ番号があると、管理される側も楽なので国民総背番号制に対する違和感も不安もなくなる。

住民登録番号があると楽な反面、番号流出によるなりすまし問題と被害は日に日に深刻になってきた。他人の住民登録番号を盗んで携帯電話に加入する、口座を作る、オークション詐欺をするなど、あらゆる犯罪が登場した。これを受けて、韓国政府は住民登録番号に代わるネット上の本人認証システム「i-PIN」を導入。2015年8月からは個人情報保護法を強化し、民間企業は住民登録番号を収集できないようにした。

 日本でマイナンバーが初めて導入される今は、番号制に対する戸惑いや、個人情報流出の不安があるかもしれない。しかしマイナンバーによって、税金と年金をしっかり管理できることは間違いない。韓国のような電子政府サイトも登場するだろう。マイナンバーに慣れた頃には、便利だから民間企業もマイナンバーで本人確認をしようとか、マイナンバーで個人情報を管理しようとか、そういう話が出てくるかもしれない。その時は韓国のことを思い出して、慎重になってほしい。


By 趙 章恩

Newsweek コラム&ブログ

 2015年9月1

-Original column

http://www.newsweekjapan.jp/cho/2015/09/1_1.php

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