[日本と韓国の交差点] 韓中首脳会談の報道で誤訳騒動

.

韓国の朴槿恵大統領は9月2日から4日まで中国を訪問した。2日は習近平国家主席との韓中首脳会談、3日は戦勝節(抗日戦争勝利記念)70周年軍事パレード、4日は上海での大韓民国臨時政府庁舎再開式と韓中ビジネスフォーラムに出席した。朴大統領と習主席の首脳会談はこれで6回目になる。

 朴大統領の訪中を、韓国メディアはいずれも高く評価した。主な新聞の見出しは以下の通り。

新韓中蜜月時代を開いた朴大統領の戦勝節外交(聯合ニュース)
韓中蜜月固めた朴大統領、韓国外交の選択の幅が広がった(ヘラルド経済)
戦勝節外交、東北アジアの新秩序を主導するきっかけを確保(ニューシス)
朴大統領、均等外交を元に東北アジア協力の礎石を築いた(ハンギョレ新聞)
朴大統領、韓・中・日首脳会議開催で東北アジア外交を主導(国民日報)
61年前、金日成がいた席に朴大統領が、東北アジア外交の情勢変化(KBS)

 9月4日付の国防日報(韓国政府の広報紙)は、朴大統領が訪中した意義をこう評価した。「欧米の指導者は、中国が勢力を誇示するのを警戒して戦争勝利記念行事に参加しないことを決めた。朴大統領がこの行事に参加すれば、外交の中心が中国に傾き、韓米同盟に傷がつくと懸念する声もあった。特に韓国戦争(注:朝鮮戦争を指す)で敵国だった中国軍(注:人民解放軍)の軍事パレードに参加するのは適切でないという批判もあった」。

 「それでも韓国政府は、隣国である中国との友好協力関係、韓半島(注:朝鮮半島を指す)の平和と統一に寄与する中国の役割が大事と考えて参加することにした。『聯美和中』という言葉がある。米国(注:韓国では美国)と連帯する一方、中国と親和するという意味で、韓国政府が追求する主導的外交を説明する言葉である。韓米同盟の信頼を基盤に、中国と戦略的協力関係を発展させることが韓国外交の核心である」

「一緒に戦い解放を勝ち取った」とは言っていない

 朴大統領は2日、北京に到着してすぐに習主席と首脳会談を行った。ランチを含め1時間38分に及ぶ会談となった。午後には朴大統領と李克強首相が会談し、韓中FTA(自由貿易協定)など貿易と投資に関して協議した。

 会談の内容に関する資料を大統領官邸が配付した。ここで問題が発生した。この翻訳資料に、中国側が公表した資料と食い違う部分があった。ほとんどの韓国メディアが韓中首脳会談を報じる記事の見出しにした「韓中関係は史上最上の友好関係に発展した」という習主席の言葉は誤訳だったというのだ。

 大統領官邸が配付した最初の翻訳資料には、習主席の言葉として「中韓は帝国主義の侵略と強制占有に立ち向かい戦った。二つの民族は命を懸けて一緒に戦い解放を勝ち取った」「朴大統領と私の協力で、中韓関係は史上最上の友好関係に発展した」「朴大統領が支持してくれたおかげで中韓両国は大きな成果を上げた」といった内容が書いてあった。

 大統領官邸はこれらを誤訳だとして修正した。習主席は「命を懸けて一緒に戦い」「史上最上の友好関係」「朴大統領が支持してくれたおかげで」とは発言していなかった。

 大統領官邸は「翻訳を担当した人の間違いだった。できるだけ早く翻訳資料を提供しようとして間違えてしまった」と説明した。大統領官邸の翻訳資料によって誤報をしてしまった韓国メディアは、朴大統領の訪中成果を「盛る」ために誤訳したのかと反発した。

ここから先は「日経ビジネスオンライン」の会員の方(登録は無料)のみ、ご利用いただけます。ご登録のうえ、「ログイン」状態にしてご利用ください。登録(無料)やログインの方法は次ページをご覧ください。






By 趙 章恩

 日経ビジネス
 2015年09月09
-Original column

Leave a Reply

Your email address will not be published. Required fields are marked *