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韓国政府は、医療とITの融合が医療現場を変え国民の幸せにも寄与するとして、複数省庁の協力のもとで、医療機関による医療情報共有を促進するための施策に力を入れている。こうした「医療情報共有活性化の土台構築」を、2015年度の保健医療分野の国家課題に掲げたほどだ。
韓国保健福祉部は2015年8月、全国の医療機関の診療情報を医療機関同士で共有する「国家診療情報共同活用標準プラットフォーム」の構築に本格的に着手した(関連記事)。並行して、「ICT基盤医療情報交流標準モデル開発」の実証実験を行う。
この実験では、勤労福祉公団病院(産業災害によるリハビリと介護を専門とする病院)2カ所、および産業災害指定病院6カ所の病院情報化システム同士をつなげる。患者の診療情報や検査記録を複数の医療機関が共有することで、重複検査や重複処方を防ぎ、医療費を節減できるかどうかを検証するという試みだ。2016年末までに150億ウォン(約17億円)の予算で実施。ICT政策を担当する未来創造科学部が主導し、保健福祉部や産業通商資源部(日本の経済産業省のような省庁)、雇用労働部(日本の厚生労働省に当たる省庁)が協力する。
独自システムが乱立
診療情報や検査記録をプラットフォームに保存し、医療事務や保険請求、処方箋など病院の業務をすべて電算化する「病院情報化」は、韓国では1990年代に始まった。保健福祉部の調査によれば、1993年時点で既に韓国内の総合病院の37.3%が病院情報化を終えていたという。
韓国の総合病院は、「最先端の技術を持つ病院」とのイメージを獲得するために、我先にと病院情報化を進めた。この過程では、標準化を考えることなく病院ごとに独自のシステムを開発した。2002年になってようやく大韓医師協会内に医療情報標準化委員会が発足する。ここが医療用語や電子カルテの書式などの情報の標準化作業に着手した。2004年になると、保健福祉部と大韓医師協会が米国のHL7(Health Level Seven)協会と契約し、保健医療情報交換のための国際標準規格を適用した標準化作業を始めた。
このように、韓国では早い時期から医療機関が個別に病院情報化に取り組んだ。結果として標準化が遅れ、医療機関同士が横につながることは非常に難しいとされてきた。
それでも、検査画像や電子診療記録を病院間で共有する診療情報共同活用は、2005年ごろから始まっている。大学病院は患者の同意を得て、全国にある指定協力病院との間で独自に診療情報システムを開発。患者情報を共有できる環境を整えてきた。総合病院は同じ系列の病院同士で診療情報を共有できるシステムを持っていたが、個人情報保護の問題もあり、その他の医療機関との連携は考えてこなかったのが実態だ。
システムの相互運用性を保障
未来創造科学部による実証実験は、ICTを使って医療機関がそれぞれ開発した病院情報化システム間の相互運用性を保障し、横につなげるものである。実証実験を進めつつ、街の医院と総合病院、勤労福祉公団病院の垂直・水平連携に向けた情報アーキテクチャー(情報をわかりやすく伝える方法)も検証するという。
さらにこの実験では、産業災害患者一人一人に合わせたリハビリサポートサービスも開発する。対象は、複数の病院で検査・治療をし、リハビリを目的に勤労福祉公団病院に通う患者だ。プラットフォーム上に登録された患者の医療情報を組み合わせ、スマートフォンやタブレット端末を経由して患者のリハビリ治療を支援。自己管理を持続させるためのコンテンツを提供する。リハビリサポートには服薬管理も含む。服薬アプリを通じて服薬時間や服薬量、服用法に関する正確な情報を提供し、薬の飲み忘れや飲みすぎを防止する。
これと似た実証実験として、大邱市では2014年12月から医療情報交流システム(Health Information Exchange)をテスト稼働している。地域内の医療機関ごとに保存している電子カルテを国際標準に従ってまとめて管理。医療機関同士が患者の医療情報を共有することで、重複検査や過剰診療を減らし、医療費を節減しようという実証実験である。ここでは、医療情報システムの相互接続性を推進する国際プロジェクト団体IHE(Integrating the Healthcare Enterprise)の運用体制を利用している。2015年には医療映像情報交流(Image Exchange)もできるよう、システムを拡大した。
医療機関同士の医療情報共有と医療費節減の関連性については、既にいくつかの先行研究がある。2010年にソウル大学病院が行った研究では、医院から大学病院へ転院した患者を、2つのグループに分けて実験。プラットフォーム上で診療情報を共有した患者グループと、既存方式で診療記録のコピーと診療依頼状を持参した患者グループの診療費を比較したところ、診療情報を共有した患者グループの検査件数・処方件数はそうでないグループに比べて63%ほど減り、診療費は13%ほど安くなったという。