[韓国ソーシャルイノベーション事情] アジア初グーグルキャンパスがソウルに登場、スタートアップ支援で社会が変わった?

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 2015年5月、ソウル市の南側「江南(カンナム)」にアジア初の「グーグルキャンパス」がオープンした。江南といえば何年か前に世界的に大ヒットしたPSYの「Gangnam Style」の舞台である。東京の渋谷や青山のようにビジネス街でもあり若い人が集まる繁華街でもある。

 90年代から2000年代の初めまでも江南はITベンチャー街としても有名だった。江南地区の大通りであるテヘラン路にはオンラインゲーム会社やポータルサイト運営会社、WEBサイト制作会社、デジタルコンテンツ制作会社、ベンチャーキャピタルなどがびっしり入居し、テヘランバレーと呼ばれた。江南には24時間働くベンチャー人が集まり、食堂もサウナも文房具店までも24時間営業していた。

 ベンチャーから始まり財閥並みの大手企業に成長したポータルサイトのNAVER、オンラインゲームのNCSOFTなどは江南を離れさらに南に移動、郊外に巨大な自社ビルを建てた。今では江南から南へ車で30分ほど離れた板橋(パンギョ)がITベンチャー街になった。政府のインキュベーションセンターも、財閥系のSI会社も板橋に引っ越した。その後静かになった江南は金融街になり、交通が便利で緑も多いことから再開発で高級マンションが建てられた。

 そこにグーグルがやってきた。

 グーグルキャンパスソウルは世界で3番目、アジアでは初めてのグーグルキャンパスである。三成(サムスン)駅、COEX展示場から近い場所にある。ここは起業したばかりか、もしくはこれから起業したい人のための拠点である。グーグルの説明によると、韓国のスタートアップコミュニティを活性化するのがグーグルキャンパスの役割だという。

キャンパスの中はどうなっているかというと、無料会員登録をすれば誰でも利用できるカフェ兼仕事場、起業して3年以内社員数8人以下のスタートアップ企業8社が入居しているオフィス、会議室、イベントスペース、シャワー室、授乳室などがあり合わせて2,000平米の規模である。オフィスは賃貸料が発生するが、江南地域では考えられないような破格な安さで入居できる。

 カフェの入り口には夢と情熱があふれるスタートアップの求人広告があり、それを眺めているだけで最近求められているIT技術やサービスは何があるのか、トレンドを把握できたりもする。

 会議室やカフェでは、グーグルのスペシャリストが起業したい人のために相談にのったり、他の国にあるグーグルキャンパスにいるスタートアップ企業や投資家と交流できるほか、育児のため会社を辞めた母親のために赤ちゃんと一緒に参加できる起業スクールを開いたり、毎週木曜の夜は起業に興味がある人向けのパーティーが行われるなど、毎日何かしらイベントが行われている。

 2015年10月27日からは成長と共生(Growth:Symbiosis)、多様性と共同(Diversity: Together)、スタートアップとグローバル(Startups:Global)をテーマに、スタートアップにとって必要な心構え、世界のスタートアップ動向、先輩スタートアップ企業の成功談などを聞く勉強会が行われた。講師はグーグル本社の社員やFacebook、Yahoo本社の社員たちで、大反響となった。


韓国でスタートアップを支援しているのはグーグルキャンパスだけではない。韓国政府も投資を惜しまないでいる。もちろん、スタートアップを支援する背景には深刻な就職難がある。それ以上に、大手企業に入社できても「38度線(38歳で部長クラスにならないとクビになる)」、「五六島(56歳まで会社に残る人は給料泥棒、釜山にある地名だが発音が同じなのでこう言う)」と呼ばれ不安な日々を過ごすよりは、自分の仕事がしたいという挑戦的な若者も増えている。

 グーグルキャンパスソウルのようなインキュベーションと人が集まって仕事もできるカフェを併設している施設は全国に数えきれないほどたくさんある。その中でも有名なのは、政府系の施設で「コンテンツコリアラボ」、「K-ICTデバイスラボ」、「スマートコンテンツセンター」、「創造経済革新センター」いうところがある。ここではアイデアさえ良ければ、技術開発や試作品作りを政府が派遣した専門家が助けてくれる。ほぼ無料でビジネスを始められるようサポートしてくれるのだ。アイデアさえいいものがあれば、政府がおんぶにだっこでスタートアップさせてくれる。

 それでもグーグルは「グローバル」という切り口で韓国の若者を魅了した。米国に拠点を置き世界中で影響力を持つグーグルならではの国際的なイベントも魅力的だし、グーグルと接点を持つことで、いいものを作ればグーグルに買収してもらえるチャンスもある。

 それに最近の韓国の若者は、英語も第2外国語もペラペラの人が多く、韓国の中だけで仕事するのはもったいない。取材で出会ったスタートアップの青年らは、ほとんどが起業は韓国でするが、いずれは他のアジアの国や、米国、ヨーロッパ、中東、アフリカなどに進出するという目標を持っていた。人材がどんどん海外に出ていくことを懸念する人もいるが、ネットワークでつながった今の世の中に国境はあまり意味がないかもしれない。若い人にはもっと自由に羽ばたいて活躍することを期待したい。




By 趙 章恩

Newsweek コラム&ブログ
韓国ソーシャルイノベーション事情
 2015年11月3
-Original column

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