[日本と韓国の交差点] 韓国、不正禁止法で接待が減ると経済に悪影響?

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 韓国で9月28日、「不正請託及び金品等の収受禁止に関する法律」が施行された。公職者の不正・腐敗を防止するための法律である。韓国ではこの法律を、最初に提案した人の名前をとって「キムヨンラン法」と呼んでいる(日本では汚職防止法と呼ばれている)。2012年当時、政府の国民権益委員会委員長だったキム・ヨンラン氏が提案、2015年3月に国会の同意を得た。

 地上波放送局は早速、キムヨンラン法が施行され社会が変化すると街の声を報じた。「接待が減れば、早く帰宅できて自分の時間が持てるのでライフスタイルが変わるに違いない」「公職者への接待が多すぎて毎日のように深夜に帰宅していた。これからは家族と夕食を食べられそう」と期待する声が多かった。

 この法律は、公職者、公務員、政府関連機関・公共機関の職員、学校の教職員(私立学校、大学病院含む)、マスコミ関係者が対象。対象者の配偶者にも適用される。国会議員は、国家公務員法により公務員の範疇に入るので対象となる。対象者は約400万人にのぼる。

 対象者は、以下の場合に処罰される。
1)職務(または配偶者の職務)と関連がある人から、1回あたり3万ウォン(約2700円)を超える接待を受ける
2)1回あたり5万ウォン(約4500円)を超えるプレゼント・中元・歳暮を受け取る
3)1回あたり10万ウォン(約9000円)を超える祝儀・香典を受け取る

 接待は飲み物代も含めて3万ウォンを超えてはならない。祝儀・香典も花代と現金の合計が10万ウォンを超えてはならない。3・5・10万ウォンの金額は、廬武鉉大統領が2003年に制定した「公務員行動綱領」を参考にしたものなので、現在の物価からすると厳しすぎるという意見もあったが、原案のまま施行されることになった。

 職務と関連がある人から規定を超える接待や金品を受け取った場合は、受け取った金額の2~5倍を過怠料として賦課する。

 職務と関連がない人から受け取っていい金品は100万ウォン(約9万円)未満。これを超える金品を受け取った場合、3年以下の懲役または3000万ウォン(約270万円)以下の罰金を課される。

 キムヨンラン法をめぐり、大韓記者協会と私立学校教職員らは言論の自由と教育の自由を侵害するとして違憲訴訟を起こしていた。憲法裁判所は2016年7月28日、キムヨンラン法を合憲とする判決を下した。憲法裁判所は、「マスコミと教育が社会全体に及ぼす影響は大きく、この分野の腐敗は波及効果が大きい。従って、マスコミ関係者と私立学校関係者を法の適用対象に含めるのは正当である」と説明した。

通報第1号は大学生

 キムヨンラン法の施行に伴い、警察庁は不正請託専門捜査班を設置した。通報は日本の110番にあたる112番で受け付けている。通報第1号は、大学生からの電話だった。「同じ講義を聞く他の学生が(講義をする)教授に缶コーヒーをあげるのを見た。これは不正請託だ」という。しかし教授の名前も大学の名前も明かさなかったので、警察は書面で通報するよう案内したという。

 韓国版GooglePlayに、キムヨンラン法に関連する次のアプリが登場した。
・3万ウォン以下で食べられる接待用飲食店を紹介するアプリ
・5万ウォン以下のギフトを紹介するカタログショッピングアプリ
・自分の行動が不正請託に当たるかどうかチェックできるアプリ
・キムヨンラン法に関する法律解説アプリ
・割り勘した分をすぐ相手の口座に振り込めるモバイルバンキングアプリ


By 趙 章恩

 

 日経ビジネス

 2016年10月

-Original column

http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/215834/100400049/

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