[韓国ソーシャルイノベーション事情] どんな時にもユーモアを 朴大統領退陣デモに集まったユニークな人たち

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 韓国では毎週土曜日、朴槿恵大統領の退陣を求める集会が全国各地で行われている。ソウル市光化門周辺だけでなく、大邱、釜山、光州など、大都市の繁華街で、毎週土曜日集会が行われている。韓国の朴大統領が犯したスキャンダルとなぜ韓国人が怒っているのかについては、ニューズウィーク日本版本誌(2016-11-29号)の特集にもなった。

 欧米のメディアはもっと辛辣で、韓国の大統領が”shaman-fortune teller”の娘チェ・スンシル氏と手を組んで不正蓄財をしていたと報道している。チェ氏は民間人であるにもかかわらず、朴大統領の古い友人という立場を利用して大統領府から政府の機密文書を手に入れ国政に介入、国家予算も牛耳り不正蓄財した。韓国検察の捜査も進んでいる。検察は朴大統領を悪い友人に利用された被害者ではなく、不正に加担し不正を指示した共犯として捜査していることも明るみになった。

 韓国のオンラインコミュニティやSNSは朴槿恵大統領の退陣を求める書き込みであふれている。SNSにはオフラインで抗議活動をしたという「認証写真(自分のしたことを証明する写真を投稿すること)」も数多く投稿されている。KPOPアイドルの間でも、光化門で行われた抗議集会の現場に自分もいたことを証明する写真、朴大統領の退陣を求める発言をしたことを証明する写真をTwitterやInstagramで投稿するのが流行っているほどだ。

 韓国民主化運動の中心部であった光州市では、自宅のベランダに「国民の命令だ。朴槿恵は退陣せよ」と書いたプラカードを張り付ける運動が始まった。SNSでは自宅のベランダにプラカードを張り付けたという認証写真がどんどん増えている。

 こんな状況でも韓国人が忘れないのが諧謔、ヘハクである。諧謔は気のきいた冗談、ユーモア、風刺といった意味で、韓国ではウップダともいう。ウップダは「笑える+泣ける」の造語である。面白くて笑えるけど、その裏にある事情を知ると笑えない、という意味を持つ。大統領退陣集会ではウップダとしか言いようのないプラカードが数多く登場した。

「スンシルとの大事な縁。拘置所で育んでください」(朴大統領は対国民謝罪でチェ・スンシル氏のことを自分が大変だった時に助けてくれた大事な縁でつながっている知人だと説明した)

「支持率も実力だよ。親を恨みな」(朴大統領の支持率は11月4日時点で5%と歴代最低値を記録。チェ氏の娘は高校時代Facebookに「金も実力だよ、金がないなら親を恨め」と書き込んでいた)

「朴槿恵を漸漬した三神ハルミは反省せよ」(韓国で神話では赤ちゃんは三神婆さんという出産の神様が漸漬(チョムジ、授ける)するものと言われているので、朴槿恵大統領をこの世に登場させた三神婆さんに反省を求めている。この他に「勤務怠慢の死神は反省せよ」バージョンもある)

 100万人が集まった11月12日ソウル市光化門集会では、面白い旗も登場した。グループごとに旗を持って行進するが、労働組合、農民会といった旗に紛れてこんな旗もあった。「カブトムシ研究会」、「シマウマ研究会」、「民主猫総連帯」、「私立突然死博物館(自然史博物館のパロディ)」、「全国キャベツ連帯」、「全犬連(韓国の経団連にあたる全国経済人連合のパロディ)」、「ぴょんぴょん連合-怒ったウサギは何も怖くない」など、一体何者なんだろうと気になってしまう旗が多かった。

 Twitterなどで公表した各研究会の正体は、大学生や猫・うさぎを飼っている若い人達で、ネットで出会い意気投合した。「集会は特別に政治的な人が参加するのではない。誰でも自由に参加して自分の意見を表出するのが集会。こんな私たちも集会に参加しています、とアピールするため旗を作った」という。

 11月21日付のニューヨークタイムズが注目したのはこのジョークだ。

 チェ・スンシル氏寄りの芸能人で数々の恩恵を受けたとバッシングされていた有名歌手イ・スンチョル氏は、それを否定するかのように自身のTwitterに書き込みを残した。「米国大統領選挙でヒラリーが当選すれば米国初の女性大統領、トランプが当選すれば米国初のクレイジーな大統領が誕生するが、韓国は2012年の大統領選挙で両方やってのけた」(朴大統領は韓国初の女性大統領で韓国初のクレイジーな大統領という皮肉)

 インターネットショッピングモールでは「あの日のために」という特設コーナーを作って、風が吹いても火が消える心配がないLEDろうそくやLEDトーチを販売している。与党セヌリ党のキム・ジンテ議員が「(ろうそく集会の)ろうそくは風が吹けば全部消える。民心はいつ変わるかわからない」など市民の集会なんか怖くないと発言したことから、市民らは朴大統領が退陣するまで怒りは収まらないことを見せるため、LEDろうそくを買い求めている。

 朴大統領は29日任期短縮などに応じるとの談話を発表したが、正式に退陣するまで、毎週土曜日の集会は続きそうだ。朴大統領の支持率は、11月25日時点で4%(韓国ギャラップ調べ)と史上最低値である。




By 趙 章恩

 

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韓国ソーシャルイノベーション事情

 

 2016年11月

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