「コリア・ITが暮らしと経済をつくる国」マイナンバーってそんなに怖いもの?

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国民生活にITが浸透している韓国では、行政サービスや商取引などであらゆる手続きの効率化が進んでいる。それは、国にどんな利益をもたらしているのか、日本とは何がどう違うのか。そうした視点から、今回と次回は、日本が先ごろ導入を決めた「マイナンバー」を例に挙げ、韓国の「住民登録番号」と比較しながら、その可能性を展望してみよう。

なぜ、マイナンバーへの
不安が大きいのだろう?


日本でも導入されたマイナンバー制度。韓国のような電子政府化が一気に進むか(C)pixta_18098112

 今年、日本でマイナンバー制度が導入されたことが、韓国でも大きな話題になっている。

 韓国メディアは「日本政府が日本版住民登録番号である『マイナンバー』を導入した」と連日のように報道し、日本の「マイナンバー」と韓国の「住民登録番号」は何が違うのかについて比較する特集まで組んでいた。

 韓国では1968年から、住民登録番号を記載した「住民登録証」を全国民に発行している。韓国のソーシャルメディアやネットニュースのコメント欄では、「プライバシー侵害に敏感な日本で国民総背番号制とは意外」という書き込みが目立った。

「マイナンバー制度に対してどんな不安がある?」―― Yahoo! Japan ニュースの「意識調査」で、こんなタイトルのアンケートを見つけた(実施期間:2015年10月27日~11月6日)。

 10月から通知が始まったマイナンバーに対して、不安に思うことは何かを選んでもらうアンケート調査だったが、1位は「マイナンバーにひも付いた個人情報の流出の恐れ」33.1%、以下、「国によって個人情報が管理され、監視される恐れ」31.5%、「マイナンバーの不正利用による『なりすまし』被害」20.8%、「制度に便乗した詐欺などの被害」6.0%と続く。

 たしかに、個人情報流出への懸念は分かるが、実に30%以上の人が、「国に監視される恐れがあるので不安」と答えたのには驚いた。日本の報道でも、そもそもなぜ、マイナンバーが必要になったのかという話よりも、「不安」「怖い」「情報漏えい」といった側面が目立っているように感じられる。

 日本のマイナンバーは、社会保障、税、災害対策の分野において、個人情報と個人番号をひも付けて効率的に情報の管理を行い、さらに、複数の機関にある個人情報が、同一人物のものであることを迅速かつ確実に確認するために導入された。

 住民登録番号による手続きが当たり前の国で暮らしていた私には、マイナンバー導入は、国による行政サービスの効率化が目的であることが、忘れられているかのようにすら思える。


マイナンバーは普通に
生活している人の味方

 冒頭で述べたように、韓国の住民登録証の歴史は、半世紀近く前にまでさかのぼる。1968年に発生した朴正煕大統領(当時)の暗殺未遂事件で、その首謀者とされた北朝鮮のスパイを割り出すために、国は国民に住民登録番号を付与し、国民であることの証明書を持ち歩くよう義務付けた。つまり、日本のように最初から行政サービスの効率化を目指して作られた制度ではなかったということだ。

 それから試行錯誤を経て、今でこそ韓国では、本人確認は当然のこと、税、医療、教育、金融、保険、福祉、出入国など、あらゆる分野で住民登録番号が使われるようになった。

 そんな流れからか、韓国の住民登録の法律は厳しく、国民は全て住民登録番号を持つことが義務であることはもちろん、例えば、引越し後に転入届を出さず、住民登録証に新住所が記載されていない場合や、実際に居住していない住所で住民登録した場合、あるいは、17歳になっても住民登録証の発行を申請しない場合など、手続きを怠っただけでも自治体から過怠料が課されてしまう。

 住民登録証には、表に氏名や住民登録番号、生年月日、現住所、発行区役所名などが記載されているのだが、裏面には今も指紋押捺欄がある。

 私も、生まれた時からそんな“マイナンバー社会”で育って来た一人だ。「しかし」と言うべきか、「だから」と言うべきか、これまでの経験から、「マイナンバーは、普通に、まじめに、忙しく生活している人の味方である」というのが、率直な思いだ。

 例えば韓国では、本人は何ら手続きせずとも、税金を多く納め過ぎたら自動的に払い戻しが行われる。受けられる資格を満たしているのに福祉制度に申し込んでいない人には、行政から案内が来る。

 就職や不動産取引などで住民票や戸籍謄本、公金の納付証明などが必要になれば、パソコンやスマートフォンから電子政府にアクセスし、24時間いつでも申請が可能だ。交付された書類は、自宅のプリンタで印刷して提出する。電子政府を利用した場合、書類の発行手数料もほとんど無料だ。

 国際連合の「電子政府ランキング」で、韓国は3回連続1位を獲得した。こうした行政サービスが可能になっているのも、住民登録番号制度があってこそである。


生活の隅々まで浸透する
韓国の住民登録番号

 さらに、日本では一定の手間がかかる役所の手続きでさえも、住民登録番号の利用が浸透している韓国では、いとも簡単に終わってしまうのだ。

 例えば、運転免許証について、韓国では免許交付の際に必要な視力検査がかつては有料で、これが事務手続きの足かせとなっていた。しかし、最近では、2年以内に区の健康診断を受けた人は、その時の記録が警察庁と道路交通公団の情報とひも付くようになったため、この有料検査が不要になった。 

 会社員にとっては、面倒だが忘れたくはない毎年恒例の年末調整も、韓国では至って簡単だ。


韓国国税庁が今年開設した「ホームタックス」のページ。個人や法人の税に関する計算が簡単に行える。https://www.hometax.go.kr/

 個人の給与所得、利子所得、医療費支出、家族の所得、源泉徴収された金額などを、行政側が住民登録番号で把握しているからだ。

 また、韓国国税庁は今年、Web上に「ホームタックス」を開設し、どうすればより多く税金が還付されるかを個々の収入と支出に合わせてシミュレーションできるサービスなども提供している。

 さらに、日本では相当の時間とプロセスを経なくてはならない相続手続きに至っては、被相続人の死亡届を出すだけで行政側が遺産を把握し、7~20日以内に相続人が相続できる遺産、および相続税の額を教えてくれる。

 行政サービスだけではない。銀行で口座を開設する時にも、携帯電話やインターネット接続の申し込み、有料放送への加入にも住民登録番号は必須だ。学校では子どもの出席や成績など、学習管理の記録まで住民登録番号にひも付けて行っている。

 分かりやすいのは病院だろう。以前、日本の友達から、お土産に手作りの「通院ケース」をもらったことがある。「健康保険証、診察券、お薬手帳が全部入る」という説明と一緒に、イニシャルの刺繍まで入った世界でたった一つの代物だが、ついに、韓国では一度も使うチャンスがなかった。韓国では、病院に行く際、住民登録証だけあればよいからだ。

 患者の診療記録は住民登録番号で管理する。受付で住民登録証を渡せば、病院は、患者が健康保険に加入しているのか、初診なのか再診なのか、どの診療科を転々としてきたのかなどの通院記録を瞬時に把握できる。

 もちろん、診察内容を記載した医療記録は大事な個人情報なので、受付で把握できるのはあくまでも受付に必要な情報だけだ。現在は、こうした情報を病院ごとに管理しているが、政府はいずれ、全国の病院の医療記録をまとめて行政データベースで一括管理しようとしている。

 このように韓国では、生活の全てが住民登録番号で管理されているといってよい。私自身は、住民登録番号があって当たり前の社会で育ってきたため、このこと自体に違和感はない。

――というわけで、「日本でもぜひ、マイナンバーを大いに利用しよう!」と言いたいところだが、ご承知のとおり、デジタル情報の運用には、さまざまなリスクもついて回る。次回は、実際に韓国で起こった住民登録番号に関する不正の例などを紹介するとともに、状況に合った対応策などについても触れてみたい。



趙 章恩=(ITジャーナリスト)

 

ダイヤモンド online

「コリア・ITが暮らしと経済をつくる国」

2015.12.

 

-Original column

http://diamond.jp/articles/-/83049

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