韓国は今、本当に不景気なのか

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中国経済の失速やアメリカの金利引き上げは、韓国経済にも大きな打撃を与えている。だが一方で、韓国では官民を挙げ、新しい市場創造のためのさまざまな取り組みも行われている。今回は、韓国が最も力を入れるIT分野の新産業・新サービスの今について紹介しよう。

韓国経済を見通す
統計に国の策は?

koreagrobal不安定な国際情勢で波乱の幕開けとなった今年の韓国経済。政府の予想成長率は3.1%。 ©Fotolia_76206627

 2016年が明けてすでに22日。だが、旧正月を盛大に祝う韓国では、新年はこれからという空気も漂っている。

 この年末年始は、慰安婦問題の日韓合意、北朝鮮の水爆実験、韓国経済と密接な関係にある中国経済事情の悪化など、落ち着かない日が続いた。

 特に、輸出中心の韓国経済において、中国の経済成長鈍化、アメリカの金利引き上げ、原油価格下落といった外部要因の影響は日本以上に大きい。

 韓国銀行の経済展望によると、経常収支は、2015年に1075億ドルの黒字が、16年には980億ドルまで減少すると見込まれている。韓国の民間シンクタンクの経済予測はこれよりも厳しく、とりわけ、不動産バブル崩壊が噂される中、不動産を担保にした家計負債が問題になる可能性も挙げている。

 これまでは伸び続けていた国内の消費も、中国の株価暴落や北朝鮮の水爆実験といった外部要因で不安が広がったことや、暖冬で冬物衣料などが売れず、年末年始には減少した。

 OECDの2016年経済成長率展望によると、韓国の成長率は3.1%、その他、日本は1.0%、アメリカは2.5%、中国は6.5%と、総じて主要国の経済成長率は鈍化傾向にあり、さらに、外資系銀行が予測した韓国経済の平均成長率は2.9%だった。

 こうした経済状況下、韓国の経済政策を決める省庁の企画財政部(注1)も、OECDと同じく2016年の経済成長率を3.1%と予測した。15年の経済成長率は2.7%だったから、0.4%の伸びを見通していることになる。

 その根拠として政府が挙げるのは、消費・投資促進政策による景気回復だ。これにより、消費者物価指数上昇率が、2015年の0.7%から16年は1.5%まで拡大、15~64歳の雇用率も2015年の65.7%から16年には66.3%まで拡大すると見込んでいる。これは、朴槿恵大統領が、2013年の就任当時に公約した「雇用率70%の達成」に近い数字でもある。


注1 韓国中央官庁の「部」は日本の「省」に相当 


IT産業は名実ともに
韓国経済をけん引するか

第1回第2回で触れたように、国自らが電子政府の整備を進める韓国では、ITを国のコア産業と位置付けている。

 先ごろ、韓国情報産業連合会が、韓国IT企業の管理職300人に行った「2016年経済展望」の調査結果によると、68%が「韓国のIT産業の景気は横ばいか良くなる」と答えた。

 とはいえ、IT産業も輸出中心の産業なので、海外市場の影響を甘んじて受け容れざるを得ないし、世界全体にあまり明るいニュースがない中、韓国のIT産業だけが好調でいられるはずもない。

 それでも回答の中では、「ICBM」(IoT、Cloud、Big data、Mobile)をベースにした新しいビジネスが生まれ、企業利益の拡大が期待できるとする意見が多かった。同時に、回答者らが「2016年に投資を優先する」と答えた分野は、IoT(物のインターネット)、FinTech(フィンテック、金融とICTの融合)、ドローン、人工知能、スマートカー(自動走行車)、セキュリティ、O2O(Online To Offline)だった。

 実際、韓国のIoT市場は順調に成長しているようだ。

 未来創造科学部が今年1月19日発表した「2015年IoT産業実態調査」によると、2015年の韓国のIoT市場規模は4兆8125億ウォン(2016年1月21日時点で約4593億円)(注2)であり、前年比で28%増加した。

 IoT関連企業の業種別シェア分析では、IoTを活用したサービス分野が45.5%と最多であり、デバイスが26.3%、ネットワークが14.4%。さらに、IoTサービス企業のサービス内容別では、スマートホーム、ヘルスケア、迷子防止の3分野が売り上げ上位を占め、その他、売り場案内、Fintech、観光案内といった分野でIoTの活用が増えていた。

 未来創造科学部はこの調査を基に、2016年はよりいっそう、IoT分野での起業を支援する方針を打ち出している。


注2 関連企業1212社の売上総額による


モバイル決済急成長で
「○○Pay」誕生の嵐

 IT産業の中でも、その急成長が実際に誰の目にも見えるのが、モバイル端末による決済サービス市場だ。これが、FinTech市場の拡大を大きく後押ししている。そして、その象徴ともいえるのが、2015年8月に正式にサービスを開始した「Samsung Pay」(サムスンペイ)であり、韓国のモバイル決済市場を大きく変えたともいわれている。

spスマートフォンによるモバイル決済拡大が、韓国フィンテック市場の起爆剤に ※写真はイメージ ©Fotolia_100162609

 今までのモバイル決済は、日本でも使われているNFC(近距離無線ネットワーク)方式が主流であり、これだと店舗に専用読み取り機がないと決済ができないため、韓国ではなかなか普及が進まなかった。

 「Samsung Pay」は、従来の磁気カードの読み取りに使うMST(マグネチック決済方式)と、NFC方式の双方に対応できる機能を搭載したモバイル決済システムであり、これならば、従来のプラスチック・クレジットカード決済用の端末にスマートフォンを近づけるだけで決済が可能となる。

 そもそもクレジットカード社会である韓国だけに、ほぼすべての店舗で「Samsung Pay」が使えるというわけだ。本人のクレジットカードをスマートフォンに登録し、指紋認証をして決済する仕組みなので、セキュリティも担保されている。

 サムスン電子の最新ハイエンドスマートフォンがないと利用できない決済サービスであるにも関わらず、「Samsung Pay」を使った決済額は、サービス開始3カ月で2500億ウォン(2016年1月21日時点で約239億円)を突破した。

 韓国メディアによると、このようなモバイル決済での総支払額は、2015年7~9月の3カ月だけで6兆2250億ウォン(同約5942億円)を突破したという。

 前年同期が、約3兆9300億ウォン(同約3751億円)だったというから、いかに急成長しているかが分かるだろう。

 「Samsung Pay」の勢いに続けとばかり、「カカオペイ」「ペイコ」など、スマートフォン経由での決済サービスが今、韓国で続々登場している。LG電子も「LG Pay」のサービスを始める予定の他、デパートや大手ディスカウントストアも独自の「○○Pay」を準備している。

 2016年には、韓国で初となる無店舗インターネット専用銀行が登場する。インターネット専用銀行は、ソーシャルメディアのIDが口座番号の代わりになり、人に代わって人工知能がオペレーターとなって顧客の質問に対応したり、また、インターネット上のサービス利用履歴から顧客の信用度を分析し、貸出金額を決めたり金利を決めたりするそうだ。

 韓国では、こうした新しいITサービス産業と、その関連産業分野への投資熱が高まっていて、国もこれらの産業を中心とした新市場のプレーヤーに投資しやすい環境を整えようと、さまざまな政策を打ち出している。次回は、その実情について紹介してみたい。



趙 章恩=(ITジャーナリスト)

 

ダイヤモンド online

「コリア・ITが暮らしと経済をつくる国」

2016.1.

 

-Original column

http://diamond.jp/articles/-/85038

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