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今年初旬、Netflixが自社サービスのクラウドへの移行を完了した。同じ時期、韓国政府は、公共機関や金融機関でのクラウド利用を解禁。昨年暮れには「クラウド発展法」を制定し、クラウドサービスを新たな“輸出品”に育てようとしている。世界のクラウド市場では、すでに巨大なプレーヤーが覇権を争う中、韓国産クラウドはどのような差別化を行っていくのだろうか。
動画配信先進国の韓国に
Netflixのインパクト
世界中に6500万人超の有料会員を持つ動画配信サービス・Netflixが2016年1月、韓国にもやって来た。サービス開始と同時に、予想以上の話題になっている。
韓国は、1996年からテレビ番組をインターネットで再放送する動画配信先進国だ。国内にはすでに、ストリーミング配信サービスが山ほどある。しかし、それでもなおNetflixが注目を浴びたのは、「シンプルな会員登録」「シンプルな料金プラン」「広告なしですぐ始まる」という3つの理由からだ。
Netflixと国内のストリーミング配信サービスの違いに驚いたユーザーたちはもちろん反発、奇しくも国会で動画配信事業者の広告が多すぎるという問題提起がなされていた時期だった。お金を払ってもなお、視聴前後と中間広告を合わせて、番組1本(60分)当たり5回も広告が登場する。スマートフォンで視聴する場合などは、データ通信料もばかにならない。
このように、韓国の動画配信サービス業界に一石を投じたNetflixであるが、実はもう一つ大きな影響を与えた業界がある。クラウドサービス業界だ。
Netflixは2016年2月、およそ7年かけて、コンテンツ提供・配信サービスを自前のデータセンタからアマゾンのクラウドサービス「Amazon Web Services(AWS)」に移行したと発表した。
以降、同社はコンテンツ配信から顧客管理、ビッグデータ解析に至るまでのあらゆる業務をAWSで行っている。
政府が大胆な規制緩和
あらゆるクラウド化にGO
Netflixの韓国進出と同時に、AWSのリージョン(データセンター)がソウルにもオープンした。すると早速、韓国最大のオンラインゲーム会社・NEXONが、東京からソウルへAWSリージョンの移動を発表した。
韓国企業がAWSを利用する場合、それまでは東京かシンガポールにあるリージョンを利用するしかなかったのだ。AWSは世界11都市にリージョンを運営し、190ヵ国で100万人以上の顧客を有している。
韓国大手証券会社の未来アセット資産運用も、オンライン取引の増加と海外の顧客への円滑なオンラインサービス提供、そしてサイバーセキュリティの側面から、自社でデータを管理するよりもクラウドを利用する方が良いと判断し、AWSを選択したという。
同社のような金融機関がクラウドサービスを利用するようになった背景には、韓国政府が規制緩和を行った影響もある。従来は、金融、教育、政府や自治体など、個人情報を扱う企業や公的機関は、情報管理にクラウドを利用してはならないというルールがあった。この規制が、2015年に緩和された。
さらに、これまではベンチャーやスタートアップ企業保護の観点から、財閥系大手企業にはシステム構築、ソフトウエア分野などへの市場参入が禁じられていたが、ICBM(IoT、Cloud、Bigdata、Mobile)分野に限り、財閥系大手企業も参画できるようになった。
2015年10月には、政府機関、自治体、公共機関、学校などがクラウドサービスを利用できる「クラウドコンピューティング発展及び利用者保護に関する法律(以下、クラウド発展法)」を制定し、同年11月には、政府・公共機関のクラウドサービス利用を拡大する「K-ICTクラウドコンピューティング活性化計画」も発表されている。
同年11月11日付の中央日報は、同計画を受け、「2018年までに政府統合電算システムの60%以上がクラウドに転換される」と報じた。
クラウドを新たな“特産品”に
韓国メディアは年初来、「2016年はクラウドコンピューティングの1年になる」として、クラウドコンピューティングサービスの市場動向を詳細に報道している。
現在、韓国のクラウド市場は5000億ウォン(約480億円)といわれるが、政府が、国家情報化事業にはクラウドを優先的に導入する方針を打ち出していることなどを背景に、2018年には2兆ウォン(約1900億円)まで拡大するという予測もある。
一連の政府施策には、世界規模で需要が伸びているクラウドに関して、国内のクラウド関連企業が政府や公共機関を顧客にして実績を作り、彼らの海外進出を後押しすることと、実利としてコスト削減効果を狙うのが目的だ。
例えば、韓国行政自治部(注)は、クラウドを利用することで、2016年から3年間、政府のシステム関連予算を3700億ウォン(約400億円)節約でき、かつ、省エネにも貢献できるとした。
また、現在は3%程度である政府・公共機関のクラウド利用率を、2018年には40%にまで引き上げることが目標とされたことで、ソウル市は、2016年8月から2020年にかけて、市内5カ所に分散している電算室を1カ所にまとめ、データセンタもクラウド基盤にする計画を発表した。
とはいえ、韓国でもクラウドといえば、やはりAWSやグーグル、セールスフォースなど、グローバルで大きなシェアを持つ企業のサービス利用率が高いのが現状だ。韓国産クラウドサービスは、将来的にこれら世界の大手企業にどのように対峙していくのだろうか。
例えば、韓国の“特産品”ともいえる輸出商品に「電子政府」がある。これまでも、韓国のシステムインテグレート会社は、日本の自治体、南米、および中央アジアなどの各国政府に、電子政府システムを輸出してきた。
電子政府システムがクラウド基盤になれば、システム構築の時間も費用も安くなり、より多くの国への輸出が可能になるだろう。こうした独自のソリューションとの組み合わせで、韓国産クラウドを新たな”特産品”として世界に広めていくことは有効だ。
政府はこうして、現在250社あるクラウド関連企業を2018年には800社以上に増やす目標を掲げた。今年に入ってから、クラウドの安全性保証に関する法律も次々とつくられ、まさに今、官民一体となってクラウド先進国に昇りつめようと意気込むのである。
注 韓国行政自治部:電子政府をはじめ政府・公共機関などのシステム管理政策を担当。「部」は日本の「省」に相当
趙 章恩=(ITジャーナリスト)
ダイヤモンド online
「コリア・ITが暮らしと経済をつくる国」
2016.4.
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