韓国スマホ専用銀行kakaobankが大人気 口座急増の理由はフィンテック

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<ネット先進国の韓国だが、意外にもネット銀行は今年4月に第1号が誕生したばかり。ところがこの7月からネットベンチャー大手がネット銀行に進出、急速に契約数を伸ばしている。その秘密とは?>

7月27日営業開始したスマホ専用銀行kakaobankが、韓国で爆発的な人気を誇っている。営業開始から1ヵ月の8月27日午前7時時点で口座数は307万件突破、チェックカード(日本でいうデビットカード)発行件数は216万枚、預金1兆9580億ウォン(約1960億円)、融資1兆4090億ウォン(約1410億円)を記録。営業開始2カ月目の9月27日時点ではペースダウンしたものの、口座数390万、チェックカード発行280万枚、預金3兆1200億ウォン(3,072億円)、融資2兆5000億ウォン(2,462億円)と順調に規模を拡大している。

韓国の大手銀行が提供するモバイルバンキングアプリ経由で開設した非対面口座数(銀行の窓口に行かずスマホ経由で書類を提出して口座を開設した数)は2016年の1年間15万5000件しかなかったことを考えると、1ヵ月で307万件はすごい数字である。また、韓国最大手銀行KB(国民銀行)が2017年1月から8月11日まで行った個人融資は1兆900億ウォンで、それを超える金額をkakaobankは1ヵ月で融資した。kakaobankより一足早くスマホ専用銀行第1号として営業を開始したKBANKはここまで旋風を巻き起こせなかった。

kakaobankは実店舗がなくアプリとATMを使ってすべての業務を行う銀行である。kakaobankのアプリをインストールして個人情報を入力し、写真付き身分証をカメラで撮影して本人確認する。開設したkakaobankの口座にKAKAOから1ウォンが振り込まれ、振り込んだ人の名前を表示するところにキーワードが書かれていて、このキーワードをkakaobankのアプリにもう一度入力すると本人確認完了。すぐ口座を利用できる。平均で5分、遅くても10分ほどで口座を開設できる。ログインは指紋認証やスマホのパターン認証も利用できる。

kakaobankの口座数が急増したのは、何よりも手軽にお金を借りられる個人向け信用貸しサービスに理由がある。

19歳以上であれば誰でも担保なしで300万ウォン(約30万円)まで借りられる「へそくり貸出」は、6時から23時の間に申し込めば数分でお金が口座に振り込まれる。金利は金融業界が共有する個人信用評価レベルに応じて年3.348%〜15%が適用される。

会社員向けの「マイナス貸出」は、審査に数日時間はかかるが、担保なしで最大1億5000万ウォン(約1500万円)を金利2.88%(最安の場合)で借りられる。一般の銀行では、金利は個人信用評価レベルで決まるが最低でも3%以上、金額も担保なしでは数千万ウォンしか借りられない。手続きに必要な住民票や所得証明といった書類も借りる人が用意しないといけないが、kakaobankは「同意」ボタンにタッチするだけで、kakaobank側が書類を揃えてくれる。

預金は1日だけ預けても年1.2%、1年定期預金は年2%と他の銀行より高い金利がもらえる。チェックカードも特典がある。スーパーやコンビニなどの加盟店で支払いに使うと、平日は決済した金額の0.2%、週末と公休日は0.4%をキャッシュバッグする。全国銀行とコンビニのCU・セブンイレブンにある11万4000台あまりのATMが使え、年末まで時間外手数料も無料だ。また、チェックカードに韓国では大人気のKakaoTalkのキャラクターが描いてあることも好評だ。

海外の銀行口座宛ての送金も5000米ドルまでは送金手数料5000ウォン(約500円)だけで送金できる。銀行だと送金手数料、仲介手数料、電信料などが賦課され数万ウォンはするが、kakaobankは送金手数料だけ払えばいい(ただし、今のところは22カ国にしか送金できない)。

kakaobankは店舗なしで運営する銀行なので、店舗維持費を節約できる分、既存の銀行より預金金利は高く、融資金利は低く、各種手数料も無料もしくはうんと安く設定した。それに今時のサービスらしく、人工知能で個人のネット上の活動やビッグデータ分析から信用度を評価し、一人ひとりに適用する金利を変える独自の信用評価モデルをkakaobank企画段階から開発しているという。


kakaobankは、アプリが単純で直観的に使いやすいことも評判がいい。その理由は韓国の国民的人気メッセンジャーアプリKakaoTalkをベースにしているからだ。人口5000万人の韓国で約4000万人がこのアプリを使っている。KakaoTalk上で友達登録してある人同士なら、kakaobank経由で24時間リアルタイム、しかも手数料なしで送金ができるので、割り勘やお祝い金を送金する時に便利である。KakaoTalkのID宛てにお金を送金すると受取人にメッセージが届き、そのメッセージを見て口座情報を登録すればお金が振り込まれる仕組みだ。

韓国では年長者が支払いをする、友達同士だと順番でおごることが多かったが、最近は割り勘文化が定着したため、現金の持ち合わせがなくてもその場で手数料なしで割り勘ができるのは助かる。お祝い金をあげたいけど口座番号を聞くのは気が引ける、というときも便利だ。

日本の銀行は他行宛てに15時以降に振り込むと、相手の口座には翌日お金が振り込まれるところが多いが、韓国は全銀行が24時間いつ振り込んでもすぐ相手の口座にお金が入る。ただし、一般の銀行だと相手の口座番号または携帯電話番号を知らないと送金できない。手数料がかかる場合もある。ところがkakaobankは相手のKakaoTalkのIDさえ知っていれば無料で送金できるという違いがある。

韓国のインターネットバンキング、モバイルバンキング、ネット決済は、独自のセキュリティプログラムをインストールし、公認認証書と呼ばれるネット上の本人確認プログラムを経由しないと取引ができないようになっている。これがとても手続きが面倒で、さらに韓国語以外のOSをインストールしたパソコンや海外からアクセスするとうまく利用できない時もある。複雑な認証を経由したからといって特別安全なわけでもなく、インターネットバンキングやモバイルバンキングのハッキング事件は後を絶たない。

世界中がフィンテックでより便利に、より安全に金融サービスを使わせようと競争しているのに、韓国だけ独自のルールを重視してガラパゴス化していると非難の的だった。そんななか登場したkakaobankは公認認証書を使用しない点でも画期的だった。

kakaobankの人気ぶりに驚いた一般の銀行は、早速手数料や貸出金利の値下げを発表した。公認認証書を使わない新しいモバイルバンキングサービスも検討しているという。kakaobankの登場はただのスマホ専用銀行の誕生に留まらず、韓国の金融サービスを変えるきっかけになりそうだ。


By 趙 章恩

 

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韓国ソーシャルイノベーション事情

 

 2017年10月

-Original column

http://www.newsweekjapan.jp/cho/2017/10/kakaobank.php

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