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2019年4月3日、韓国で世界初のスマートフォン向け5G(第5世代移動通信システム)サービスが始まった。5月23日時点で通信キャリア3社の5G加入件数は60万件を突破した。6月末には100万件を突破する見込みである。韓国サムスン電子(Samsung Electronics)の発表によると、4月23日時点で、同社のスマートフォン「Galaxy S10」シリーズの販売台数は韓国だけで100万台を超え、そのうち5Gに向けた「Galaxy S10 5G」は23万台を占めた。
5Gの好調、その理由は?
韓国内での5Gのサービス提供範囲は、現時点では首都圏と大都市中心である。そのため、5G加入件数は伸び悩むのではないかと思われていたが、予想を裏切った。要因はいくつか考えられる。通信キャリア間の競争により5Gの料金プランがLTEとそれほど変わらないことに加えて、野球中継やeスポーツ中継、アイドルの360度高画質VRストリーミング番組など、5G加入者だけが利用できる目玉コンテンツが話題になった。さらに、Galaxy S10 5Gに続いて韓国LG電子(LG Electronics)の5G向けスマートフォン「LG V50 ThinQ」が登場し、サムスン電子とLG電子の間で割引と特典の競争が始まったことなどが後押しし、加入件数が急増したものとみられる。
メーカーと通信キャリアによる販促キャンペーンには、かなり力が入っている。例えば、サムスン電子は同社の対応スマートフォンをセットするタイプのヘッドマウントディスプレー(HMD)「Galaxy Gear VR」、ワイヤレスイヤホン「Galaxy Buds」などの周辺機器をプレゼントする。一方、LG電子はスマートフォンを2画面化できる補助ディスプレー付きカバーと、1年間1回までのディスプレー破損無償修理を提供する。
通信キャリア3社は、2年以上の長期契約を結ぶユーザーに、端末購入補助金または約定割引(毎月料金25%割引)を提供する。通常の端末購入補助金は3~4万円程度だが、5Gではシェア獲得競争が勃発したおかげで、最も高い“使い放題プラン”(約1万3000円)を2年契約した場合、約7.8万円の端末購入補助金がもらえる。約14万円のGalaxy S10 5Gを半額以下で買えることになる。しかも、通信キャリアとは別に販売代理店が端末購入補助金の15%以内の金額を追加支援金として出すことができるので、交渉次第でさらに安くなる。
こうした、LTEのままスマートフォンを買い替えるより5G新規加入の方が“断然お得になる”という事情もあり、5G加入件数は右肩上がりで増え、Galaxy S10 5Gの販売台数も伸び続けているというわけだ。
Galaxyからの発火報道
ところが、2019年4月30日、韓国の公営放送KBSはGalaxy S10 5Gが自然発火したと主張するユーザーがいると放送した。
済州島に住む20代の男性は、KBSの取材に対し「購入して6日目にGalaxy S10 5Gから火が出て爆発した」と答えた。午前11時ごろ、自宅の庭にあるテーブルに端末を置いて他の作業をしていたところ、端末の周辺から焦げる臭いがし始めた。端末を手に取ってみたもののあまりの熱さに地面に落とし、その後発火したという。
同日午後4時ころ、近所のサービスセンターを訪問して発火した端末を預けた。サービスセンターではソウルで検査をすると言われたためだ。そして2週間後、2次電池周辺にユーザーの過失とみられる破損があったため、交換も返品もできないと言われたという。KBSの取材に対し、サムスン電子側は端末の内部的な原因で発火したのではなく、外部から強い衝撃を受けた痕跡があったと説明した。2次電池部分に強い衝撃が加わると、圧力によって発火することがあるとする。
この男性は、ポータルサイトNAVERにあるサムスン電子スマートフォンコミュニティに激しく燃えた端末の写真を投稿し(現在は削除)、「サムスン電子のサービスセンターが回収して検査すると言ったが、2週間後、端末自体の欠陥はないとしてそのまま返された。交換も払い戻しもしてくれない」、「サムスン電子側は外部損傷による発火というが、スマートフォンから変な臭いがしたので手に取って調べようとしたところ、あまりにも熱くて驚いて落とした時にできた損傷だ。高価なスマートフォンなので、傷がつかないよう大事に使っていた」と不満を漏らした。この男性とサムスン電子との話し合いはまだ続いているようだ。この男性の他にGalaxy S10 5Gの発火を訴える人は現時点ではいない。
KBS NEWS
http://news.kbs.co.kr/news/view.do?ncd=4191134
よみがえるNote7の悪夢
発火といえば、サムスン電子では2016年8月に発売したスマートフォン「Galaxy Note7」が相次いで発火事故を起こし、生産を中断した前例がある。当時テレビのニュースでも報道されており、Galaxy S10 5Gを購入したユーザーが「もしかして…」と不安になるのは当然かもしれない。
Galaxy Note7は発売から5日目に韓国で自然発火を訴えるユーザーが登場、相次いで燃えた端末の写真や動画がSNSに投稿された。さらに米国でも発火事故が発生した。2016年9月に米国消費者製品安全委員会(CPSC)がGalaxy Note7は電源を切って使用しないことを勧告、世界各国の航空会社が同機種の機内持ち込みを全面禁止にした。結局、サムスン電子は10月に生産中断を発表し、交換と払い戻しを行うに至った。
SNSでは「Galaxy S10 5Gの発火事例はまだ1件しかない。自然発火というのは男性の主張にすぎず、様子を見るべきだ。Galaxy Note7のときは全国各地で発火事故が起きていた」と慎重な意見がほとんどだ。ただし、一部では「Galaxy Note7のときも、最初は“ユーザーの使い方がおかしい”と言っていたのに、生産中断になった」、「外部衝撃による発火だなんて、Galaxy S10 5Gは火打石なの? 誰でもスマートフォンを落としたりぶつけたりすることはある」と外部からの強い衝撃による発火という説明に納得できないという意見も出ていた。
もう1台の“問題機種”に注目
もっぱら、韓国ではGalaxy S10 5Gより折り畳みスマートフォン「Galaxy Fold」の発売可否の方が話題になっている。2019年2月の公開当時は“画期的なスマートフォン”として脚光を浴びた。ところが、「ディスプレーの片方だけ電源が入らない」「ディスプレーの折り目から部品が出てきた」「端末を受け取って2日目で故障して使えなくなった」――。発売前にレビュー用端末を受け取った米国のマスコミ関係者らが、ディスプレー関連の不具合を次々に報道したのだ。
グローバルでの発売日は延期となり、韓国での発売も遅れている。韓国では5G対応スマートフォンとして5月末に発売する予定だったが、製品の品質安定化を理由に6月発売になった。しかし5月31日時点で「発売日程は数週間以内に発表する予定」としており、さらに延期される可能性が高い。
韓国内ではたとえGalaxy Foldの発売が遅れても、発売後に大きな問題を起こさなければサムスン電子は安泰という見方が増えている。複数の韓国メディアが「米国政府を中心に始まった中国華為技術(ファーウェイ)への制裁で、恩恵を受けるのはサムスン電子」と報道しているのだ。Galaxy Foldと発売日競争を繰り広げるはずだったファーウェイの折り畳みスマートフォン「Mate X」は、米グーグル(Google)のスマートフォン向けOS「Android」を搭載できず、予定通り発売できるかどうか不透明という見方もある。結果として、サムスン電子が折り畳みスマートフォンでも優位になり、世界市場でのスマートフォン販売台数や5G装備でも世界1位をキープできるとして、楽観視されているのだ。