システム半導体世界一目指すサムスンが独自CPUコアを断念した理由

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2019年11月5日、韓国メディアは一斉に韓国サムスン電子(Samsung Electronics)がシステム半導体事業の競争力強化のため、米国テキサス州オースティンにある「Samsung Austin R&D Center」で行っていたカスタムCPUコアのアーキテクチャー開発プロジェクト、コードネーム「Mongoose」を中止したと報道した。同社の独自CPUコア開発中止は2019年10月から噂されていたが、現実となった。

 韓国メディアの分析によれば、サムスン電子は2010年から170億米ドル(約1兆8500億円)を投資して進めてきた独自のCPUコア・アーキテクチャー開発の成果が期待を下回ったため、人工知能(AI)時代の核心技術といわれるGPU(Graphics Processing Unit)とNPU(Neural Processing Unit)に集中すべく、独自CPUコアを断念する“選択と集中”を行ったとみられる。同社はMongooseプロジェクトに向けて、2012年には米国の半導体メーカーAMDの元副社長やCPU設計者をスカウトしていたが、開発は思うようにいかなかったようだ。サムスン電子自身も「システム半導体の競争力強化のため、CPUコアの独自開発ではなくGPU、NPUに集中する」とコメントしている。同社では、NPUの研究人員を現在の200人規模から2030年までには2000人に増やすと、2019年6月に発表している。

 Samsung Austin R&D Centerの人員約290人は解雇または米国内にある他の研究所へ配置換えするが、携帯機器向けのシステム半導体を生産するオースティン半導体工場は何も変わらないようだ。同社は2018年末にオースティン半導体工場の生産能力を拡大するため、2億9100万米ドル(約318億円)の追加投資を行っている。

 独自CPUコア開発中止の報道を受けて、韓国内では「(同社の携帯機器向けシステム半導体である)Exynosはどうなるのか」と話題になった。結論から言うとExynosは続く。これまで、ExynosのCPUにはイギリスの半導体設計専門会社であるアーム(Arm)のアーキテクチャーをベースにカスタムした独自コアを搭載していたが、それをやめるということだ。

 Samsung Austin R&D CenterのCPUプロジェクトの成果は、同社が2015年11月に公開した「Exynos 8 Octa 8890」に初めて搭載された。当時のサムスン電子の説明によると、同製品はアームの64ビットコア「ARM v8」アーキテクチャーをベースにカスタムしたコアを搭載したLTEモデム内蔵の統合チップで、従来品に比べ30%の性能アップと、10%の消費電力削減に成功したとしていた。同社は、Exynosの性能は米クアルコム(Qualcomm)の携帯機器向けシステム半導体「Snapdragon」に負けないとアピールし、自社スマホ「Galaxy」シリーズの韓国向け端末にはExynosを搭載してきたものの、不穏な空気は既に漂っていた。

 2019年8月に発売された「Galaxy Note10」の場合、韓国向けは「Exynos 9825」、その他の国向けには「Snapdragon 855」が搭載されている。米国の複数のスマホ性能比較サイトが「同じGalaxy Note10でもSnapdragon 855を搭載した端末の方がアプリの駆動速度もグラフィック性能も優れている」という結果を発表したのだ。一般ユーザーが使って気が付くレベルの差ではないと考えられるが、専門家などによる比較では違いが明らかになった。2つのCPUはいずれもArm Cortexプロセッサーをベースにしているが、Snapdragon 855は「Cortex-A76」4つと「Cortex-A55」4つを組み合わせており、Exynos 9825はサムスン電子のカスタムコアである「M4(Mongoose 4)」コア2つに「Cortex-A75」2つ、「Cortex-A55」4つを組み合わせている。

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趙 章恩=(ITジャーナリスト)

 

<<NIKKEI X TECH>>

2019. 11.

-Original column

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