韓国アイドルの“人気の証”、地下鉄に急増する「応援広告」

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10~20代の若者を中心に大人気の韓国アイドルグループ。その人気は今やアジアを超えて欧米にも拡大している。韓国では、そんなアイドルを支える熱狂的なファンによる独特の応援方法があるようだ。ソウル在住のKDDI総合研究所特別研究員・趙章恩さんが解説する。

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 ソウル地下鉄駅構内を歩くと、壁や柱に設置されている電子看板、大型ビジョンのほとんどがアイドルの広告で埋め尽くされている。日本でも駅に設置された企業の広告をよく見かけるが、実は韓国の場合、この多くは企業が出した広告ではなく、ファンが募金して設置したもの。ファンが自費でお金を出してアイドルの誕生日を祝ったり、兵役などからのカムバックを祝ったりして、“推し”の応援広告を出しているのだ。

 広告には、応援メッセージが書かれた付箋がたくさん貼られており、この付箋の多さが“人気の証”とも言われる。付箋の管理もファンクラブが行っていて、迷惑にならないよう定期的に回収していた。誰もが知る有名なアイドルだけでなく、自分で自分を売り込むために広告を出す芸能人や、一般人が友人の誕生日祝いに広告を出すケースもある。

 応援されたアイドル本人が広告の前で「認証写真」を撮り、SNSに投稿したりしてファンに感謝の気持ちを表したりもすることもあり、ファンとアイドルをつなぐコミュニケーションの場にもなっている。ファンにとっては、自らがお金を出して設置した広告に本人がレスポンスをしてくれる嬉しさもあり、韓国国内や海外のファンがわざわざソウルに来て好きなアイドルの広告を巡る「巡礼応援」も活発に行われているようだ。

 韓国の広告市場は、ウェブサイトや動画サイト向けのデジタル広告が急増する一方で、伝統的な地上波放送や新聞・雑誌、屋外広告は右肩下がりの状況だ。広告市場に占めるデジタル広告の割合は2020年に半分を占める見込みである。ひと昔前までは、地下鉄駅構内も広告がほとんどなく白いボードばかりが目立ったが、韓国のアイドル業界が過熱するのに伴い、熱心なアイドルファンの「自分の推しの魅力を皆に知ってもらいたい」という思いが広がり、地下鉄の空いた広告スペースがあっという間に応援広告でいっぱいになった。

ソウル地下鉄を管理するソウル交通公社によると、応援広告は「オーディション番組が人気を集め始めた2016年頃から急増した」という。当時の韓国オーディション番組が「視聴者の投票でデビューメンバーが決まる」と宣伝していたこともあり、推しに投票してもらおうと、ファンが競うように広告を出したようだ。また、1日に約750万人が利用するソウル地下鉄だけに広告費も高額と思われがちだが、実はそれほど高くなく、例えば大型の電子看板の場合、1件当たり月約8万~39万円と手頃だ。この費用の安さも、応援広告が急増した大きな要因だろう。

 ソウル市とソウル交通公社によると、2019年に地下鉄駅構内に掲載されたアイドル広告は2166件だった。最も広告件数が多かったのは人気アイドルグループの「BTS(防弾少年団)」の227件で、次に「EXO」の165件、現在は活動を終了した「Wanna One」の159件と続く。ガールズグループでは、日本でも大人気の「IZ*ONE」が40件と最も多く、「TWICE」「BLACKPINK」がそれぞれ22件だった。

 今年は、K-POPの中でもガールズグループが大躍進している。特に勢いのある3大ガールズグループが、オーディション出身で日韓合同メンバーの「IZ*ONE」と「TWICE」、人気急上昇中の「BLACKPINK」だ。特に「BLACKPINK」の人気は韓国では凄まじく、6月26日に公開した新曲『How You Like That』のMVはK-POP史上最速で再生回数3.8億回(8月4日時点)を突破した。YouTube公式チャンネルの登録者数も4320万人を超え、K-POPアーティストのチャンネルとしては最多を記録している。メンバーのJISOOはクリスチャン・ディオール、JENNIEはシャネル、ROSÉはイヴサンローラン、LISAはセリーヌのアンバサダーを務め、韓国だけでなく世界での知名度も急上昇中だ。

 ここに新たに加わったのが、ソニーミュージックと韓国のJYPエンターテインメントとの共同オーディション番組『Nizi Project』からデビューした日本人ガールズグループ「NiziU」だ。韓国では、まだ正式デビュー前にもかかわらず、7月15日に公開された韓国版『Make you happy』のMVは再生回数1300万回(8月4日時点)を超えた。早くも「NiziU」ファンによる地下鉄の応援広告募金も始まっている。応援広告の数が韓国アイドル人気のバロメーターとなる中、今後は「NiziU」も代表的なガールズグループの一つとして、ソウル地下鉄を賑わす日は近いだろう。

【趙章恩】
ジャーナリスト。KDDI総合研究所特別研究員。東京大学大学院学際情報学修士(社会情報学)、東京大学大学院学際情報学府博士課程単位取得退学。韓国・アジアのIT・メディア事情を日本と比較しながら分かりやすく解説している。趣味はドラマ視聴とロケ地めぐり。


NEWSポストセブン》

2020. 8.

-Original column

https://www.news-postseven.com/archives/20200807_1583901.html?DETAIL

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