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韓国の人気アイドルグループ「BTS(防弾少年団)」の勢いが止まらない。8月31日、新曲『Dynamite』が米ビルボードのシングルチャート「Hot100」で初登場1位を獲得し、2週連続で首位をキープしている。アジア歌手が米ビルボードで1位を獲得したのは、1963年の坂本九さんの『上を向いて歩こう』以来半世紀ぶりのこと。韓国では国を挙げての大騒ぎになっているという。ソウル在住のKDDI総合研究所特別研究員・趙章恩さんがリポートする。
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BTSの公式YouTubeチャンネルでは、新曲『Dynamite』のミュージックビデオが公開されると瞬く間にアクセスが集中し、24時間で過去最多の1億110万再生を突破。ダウンロード数も初週が26万5000件、2週目にはさらに18万2000件と驚異的なダウンロード数を打ち立てた。世界中の音楽チャートのなかでも最も権威あるチャートとして知られる米ビルボード。そのチャートでBTSの新曲『Dynamite』が初登場1位を獲得したとあって、ファンはもちろん、韓国メディアやSNSなどでは大きな盛り上がりを見せている。
1位獲得の発表後すぐ、深夜に速報が流れると、ニュースサイトのコメント欄やSNSには喜びの書き込みで溢れた。韓国公営放送局KBSも、これまでBTSが樹立した数々の新記録を紹介しながら「防弾少年団は新記録少年団」、「21世紀のビートルズ」と称え、ケーブルテレビも1位を記念して、過去にBTSが出演したバラエティー番組を延々と流すチャンネルを新設するほど。さらには文在寅大統領まで自ら公式Twitterで祝賀メッセージを投稿するなど、韓国はまさにBTS一色のお祭り騒ぎだ。
文在寅大統領はTwitterで、「BTSが韓国歌手として初めて米ビルボード『Hot100』で1位になり、K-POPの新しい歴史を描きました」、「『Dynamite』はコロナで苦しむ世界中の人のために癒しと希望のメッセージを込めて作った曲ということで、(1位獲得は)さらに意味があること」と祝った。BTSも公式Twitterで、「大変な時期ですが、我々の歌が少しでも癒しと肯定のエネルギーになると嬉しいです。我が国を始め全世界の都市がまた明るい光で活気を取り戻すことを信じ、我々が最も上手く表現できる音楽に邁進してまいります」と答えている。
韓国公営放送KBSは9月10日、報道番組「KBSニュース9」のスタジオにBTSを招待しインタビューを行った。同時にKBSのYouTubeチャンネルでも、BTSメンバーが駐車場に到着してスタジオに入るところから、インタビューを終えて帰るところまで生中継し、インタビュー映像も公開した。Youtubeは約24万人が視聴し、「KBSニュース9」の視聴率は、平均15.6%だったのがBTSのインタビューが放映された時間は18.8%に上昇、同時間帯視聴率1位を記録した。
1位獲得が報じられた9月1日は、BTSの“末っ子”ジョングクの誕生日でもあった。韓国や中国の「ARMY(BTSファンの呼称)」たちは、誕生日のお祝いと1位獲得を祝うため、1台に20両、388mもある釜山(ジョングクの故郷)行きの高速鉄道KTXの車両を丸ごとラッピングした応援広告を出したり、ソウルタワーと釜山広安大橋を紫色にライトアップしたり、釜山海雲台では超大型花火を打ち上げたりと、例年よりも豪華な桁違いのプレゼントも大きな話題になった。
アルバムチャートでは度々1位に
『Dynamite』は、マイケル・ジャクソンを彷彿とさせるダンスにアップテンポなディスコ調の曲。BTS初の全歌詞英語の曲ということも、チャート1位を獲得した大きな要因だろう。「Hot100」は、ストリーミングサイトの再生回数や音源販売、米ラジオでの放送回数などを総合して順位を決める。韓国よりも米メディアの方がBTSを高く評価し、『Dynamite』のリリース直後から「チャート1位になること間違いなし」と予測されていた。
韓国のアーティストが「Hot100」でチャート1位を獲得したのはこれが初めてだが、BTSは、これまでにも米ビルボードのアルバムチャート「Hot200」で度々1位を獲得していた。2018年にリリースしたアルバム『LOVE YOURSELF 轉 ‘Tear’』、『LOVE YOURSELF 結 ‘Answer’』や、2019年の『MAP OF THE SOUL : PERSONA』、2020年の『MAP OF THE SOUL : 7』などだ。一方、シングルチャートでは『FAKE LOVE(2018年)』が10位、『Boy With Luv(2020年)』が8位、『ON(2020年)』が4位に留まっており、少しずつ上位にチャートインしていた。
米ビルボード1位を記念して開かれたオンライン記者会見では、メンバー7人各々が異なる反応を見せた。1位になったというニュースを見て泣いてしまったというジミンは、「コロナ収束のために尽力されているかたがたを癒して気分転換できるようにするのがぼくたちのやるべきこと」と話し、Vは「(まだデビュー前に、)メンバーと合宿をしながら狭い地下室で練習していた頃を思い出す」とつらい時期を振り返った。ジョングクは、「チャートが本当なのか疑ってしまった」と信じられない様子で語り、J-Hopeも「デビューした頃は最善を尽くして生き残るのに全力だったが、今想像以上に愛されていることが光栄」と驚きを隠さなかった。JINは、「(今回の1位獲得は、)BTSとARMYが一緒に成し遂げたこと」と話し、RMも「いつも感謝し謙虚でいたい」とファンへの感謝を語り、SUGAは「グラミー賞を受賞し、BTS単独公演したい」と抱負を語った。7人の頑張りが報われた気持ちや、嬉しさや驚きが切実に伝わってきた会見だった。
韓国では、この勢いだとグラミー賞受賞も十分狙えると見られている。BTSは今や、韓国のアイドルという枠を超えて世界で愛されるグループに成長した。米ビルボードも、グラミー賞候補としてBTSの名前を挙げているほどだ。さらなる新記録を打ち立て、今以上に世界で活躍する姿を期待したい。
【趙章恩】
ジャーナリスト。KDDI総合研究所特別研究員。東京大学大学院学際情報学修士(社会情報学)、東京大学大学院学際情報学府博士課程単位取得退学。韓国・アジアのIT・メディア事情を日本と比較しながら分かりやすく解説している。趣味はドラマ視聴とロケ地めぐり。
《 NEWSポストセブン》
2020. 9.
-Original column
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