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大接戦の末、民主党のジョー・バイデン前副大統領が勝利した今回の米大統領選挙。世界中が固唾を飲んで選挙の行方を見守る中、意外な反応を示していたのが韓国国民だ。ソウル在住のKDDI総合研究所特別研究員・趙章恩さんが解説する。
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米大統領選の模様は、韓国でも日本と同様連日テレビで伝えられ、「どちらが当選した方が韓国のためになるのか」といった内容の特番が毎日のように放送されていた。だが、注目度が高い一方で、韓国のネットユーザーの間では、「米大統領選の開票中継が単調で面白くない」「共和党、民主党の投票数を米国地図に赤と青で色分けしただけで地味すぎる」といった声が多く見られた。というのも、韓国の大統領選の開票中継は、さまざまな工夫が凝らされたエンタメ要素の強いものだからだ。
韓国の大統領選は、米国のように有権者が選挙人を選び、選挙人が大統領を選ぶ「間接選挙」ではなく、有権者が大統領を直接選ぶ「直接選挙」。自分の投票がダイレクトに結果につながるだけに、国民の関心も高い。そのため、大統領選を締めくくる開票中継は、選挙期間中のテレビ局の視聴率を左右する重要なイベント。開票率など数字ばかり見せていては視聴率は上がらないため、各局はCGを駆使し、とにかく派手で面白い映像を作り国民の気を引くのだ。
2017年に行われた韓国大統領選挙では、地上波のテレビ局3社が開票中継の視聴率を争った。候補者らをあらかじめスタジオに呼び、CG用の画像や動画を撮影して、海外ドラマ『ゲーム・オブ・スローンズ』や映画『ロッキー』、人気アニメの『ポケモン』などを真似たパロディ映像を作成した。
特に『ゲーム・オブ・スローンズ』のパロディでは、西洋風の甲冑に身を包み、剣や盾を携えた候補者たちがドラゴンや白馬に乗り選挙戦を進めていくという凝った映像が話題になった。もちろん、著作権を侵害しないよう実際のドラマやゲームの映像は使わず、テレビ局が新たにCGを制作している。地域別の開票状況を伝える際も、その地域の特産品や歴史などの映像も流し、地元民を喜ばせた。
テレビ局の中で特に高評価を得たのは、民放のSBSだ。「2017国民の選択」という番組で、開票中継を面白おかしく報じたことでSNSで大きな話題になり、政治に関心が無い人も一度は中継を見てみよう、という気持ちにさせる効果があったとして高く評価されたのだ。SBSは、2018年や2020年に行われた地方選挙でも開票中継に力を入れた。「政治は感動である」というキャッチフレーズのもと、韓国のアイドルオーディション番組「Produce 101」のパロディ映像を制作。アイドルさながら候補者らにダンスをさせるなどして選挙戦を盛り上げた。
米大統領選は、選挙人制度という特殊な事情もあるが、それでも開票中継が面白くないので、韓国ネットユーザーは「AI観相(人相)占い」アプリを使ってトランプ氏とバイデン氏のどちらが“王”になる観相かを点数にして比べたり(AI観相占いはトランプ氏の方が点数が高かった)、2人の生年月日から2021年の運勢を占ったりして勝手に楽しんでいた。
米メディアは、2017年の韓国大統領選の開票中継について「The Crazy Ways South Koreans Watched the Election(クレイジーなほど面白い)」と紹介したほど。今回の大統領選でも、韓国ケーブルテレビのニュース専門チャンネル「YTN」のアナウンサーが中継中、「(米大統領選が“地味”)ゆくゆくは韓国流の開票中継が、K-選挙(K-POPのK)として海外に広がっていくのではないでしょうか」と話していたのが印象的だった。
【趙章恩】
ジャーナリスト。KDDI総合研究所特別研究員。東京大学大学院学際情報学修士(社会情報学)、東京大学大学院学際情報学府博士課程単位取得退学。韓国・アジアのIT・メディア事情を日本と比較しながら分かりやすく解説している。趣味はドラマ視聴とロケ地めぐり。
《 NEWSポストセブン》
2020. 11.
-Original column
https://www.news-postseven.com/archives/20201112_1611533.html?DETAIL