BTSを侮辱する“風刺画”騒動 米メディアはグラミー賞を猛批判

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音楽界の最高栄誉とされる第63回グラミー賞にノミネートされながらも、受賞を逃した韓国の人気アイドルグループ「BTS(防弾少年団)」。授賞式の余韻に浸る間もなく、BTSに対する人種差別的な風刺画騒動が勃発したことで、SNSなどで抗議が殺到するなど全米で波紋を呼んでいる。騒動の影響やARMY(BTSファンの呼称)の反応について、ソウル在住のKDDI総合研究所特別研究員・趙章恩さんがリポートする。

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 3月14日に行われた今年のグラミー賞授賞式で、韓国人歌手として初めて「最優秀ポップデュオ/グループパフォーマンス部門」にノミネートされながらも、惜しくも受賞を逃したBTS。授賞式ではノミネート曲『Dynamite』の単独パフォーマンスを見事に披露し、改めてその存在感を世界に轟かせたものの、同部門を受賞したのはレディー・ガガとアリアナ・グランデの『Rain On Me』だった。

 BTSは、いまや世界を股にかけたグローバル・アイドルだ。米音楽界の主要アワードの一つである2020年「American Music Award」のポップ/ロック部門で2年連続「Favorite Duo or Group」を受賞し、「Favorite Social Artist」も3年連続で受賞、2020年の「Billboard Music Awards」でも4年連続「Top Social Artist」に選ばれ、いよいよグラミー賞受賞かと注目されていた。それだけに、今回のグラミー賞の結果にARMYたちはさぞ落胆しているかと思いきや、想像とは少し違ったようだ。

 受賞は逃したが、BTSが以前から目標にしていたグラミー賞で単独パフォーマンスができたことにARMYたちは大喜び。SNSでは、「韓国の歌手がグラミー賞で単独公演なんて信じられない。言葉にならない!」、「安定の歌声にダンスや舞台セットも素晴らしく、最高の公演だった」、「今年は受賞を逃したけど、来年こそはファンの声援に包まれながら受賞しなさいということだと思う」といった喜びの声で溢れている。韓国メディアも、「BTSの次の挑戦が楽しみ」、「アジア初の米国3大音楽賞受賞にはならなかったが時期が遅れただけ」「BTSはK-POPの跳躍に大きく貢献した」など、グラミー賞ノミネート自体快挙だとして、BTSの働きを高く評価した。

 アメリカでも、BTSのグラミー賞でのパフォーマンスは大きく取り上げられた。米大衆紙のUSA TODAYは、「残酷なほど正直なグラミー賞のパフォーマンスレビュー」というタイトルで、「BTSは壮大なソウルのスカイラインを背景に踊りながら、紛れもないカリスマ性と気を失いそうなほど素晴らしい歌声を持っていた」と絶賛。米PEOPLE誌も、BTSが2018年から一歩ずつグラミー賞に近づいていることや、「受賞を逃したことを失敗と考えていない」というメンバーのRMの言葉を紹介。「象徴的なダンスとファッションの才能を見せた」とし、BTSの前向きな姿勢とレベルの高いパフォーマンスを評価した。

米メディアが相次ぎグラミー賞を批判

 しかし、そんな祝福ムードに水を差すような騒動が起きた。授賞式から2日後、米トレーディングカード大手「Topps」がBTSを侮辱するような風刺調のカードを販売したことで、世界中から非難が殺到。カードには、「K-POPをぶっ叩く」という文言とともに、傷だらけのメンバー7人を“もぐらたたき”に見立て、怯えた表情で穴から顔を出しているメンバーのイラストが描かれていた。Twitterでは、抗議の意を示すハッシュタグ「#RacismIsNotComedy」がトレンド入りし、Topps社は謝罪する事態となった。

 人種差別的な描写に当然ながらARMYたちは怒り心頭だ。「いつから人種差別を“風刺”と呼ぶようになったのか。これは差別であり暴力だ」、「“カードの販売を中止したのだから良いだろう”というTopps社の態度も深刻な問題」、「嫌悪、差別、暴力を前提したイラストを描いておいて、“冗談が通じない”と言ってうやむやにするのはおかしい」、「“表現の自由”という言葉で人種差別をするのは止めてほしい」。SNSでは、「#RacismIsNotComedy」、「#StopAsianHate」というハッシュタグとともにこんなコメントが並んだ。

 怒りの矛先は、Topps社だけでなくグラミー賞を運営するレコーディングアカデミーにも及んだ。米CNNは、グラミー賞が放送されている時間帯のTwitterのハッシュタグを分析し、グラミー賞とBTSの両方を含むツイートは440万件以上あったのに対し、BTSを除いた「#Grammys」は150万件に過ぎなかったことを指摘しながら、「BTSがいたからグラミー賞に関心を持つ人が多かったのに、運営側はそれに気付いていないようだ」と批判。「多様なクリエイターと観客がグラミー賞を必要とする以上に、グラミー賞が多様なクリエイターと観客を必要としている」、「(有名アーティストがグラミー賞でのパフォーマンスを断る中)BTSは義務ではなく愛情を持ってパフォーマンスを行い、純粋な喜びで歌い踊った。人種や言語、文化、アイデンティティが違っても、音楽が国境を越えて私たちを結びつけることをはっきりと思わせてくれるパフォーマンスだった」と報じた。

 米TIME誌も似た論調だった。授賞式の放送中、視聴率のために「次はBTSが登場(BTS COMING UP NEXT)」と繰り返し告知しながら4時間も引っ張ったことを皮肉り、「BTSは手ぶらで帰ったが、今後さらに(視聴者に)歓迎されるグラミー賞パフォーマーになるだろう。次のグラミー賞のステージでは韓国語で歌うかもしれない」と伝えた。

米Forbesも、「BTSは2020年驚くほど多くの曲を作り、クリエイティブな面でも商業的な面でも成功したことから、グラミー賞の全ての部門で受賞しても遜色なかったが、結果は違った。人種差別問題が何度も起きたグラミー賞の歴史に改めて目を向けよう」、「グラミー賞は、恥ずかしげもなく視聴率のためにBTSのパフォーマンスを利用した」、「グラミー賞のためにもBTSをもっと認めるべきだが、そうならなかったとしてもBTSとBTSのファンはがっかりしなくていい。グラミー賞が損をするだけなのだから」と、グラミー賞を厳しく批判した。

 2019年にも、米ローリングストーンズ誌をはじめ多くの米国メディアが、「ツアーを成功させ、米国で最も売れているアーティストであるBTSを、グラミー賞は(音楽で)ノミネートすらしなかった」と批判している。

 全米で波紋を呼びARMYを憤慨させた風刺画騒動だが、一方のBTSは落ち着いている。メンバーはこれまでずっとそうして来たように、1日も欠かさずダンスの練習に励み、曲を作っているよう。独自制作しているバラエティー番組『走れバンタン』でも、いつものように可愛くて面白い一面を見せてくれている。

【趙章恩】
ジャーナリスト。KDDI総合研究所特別研究員。東京大学大学院学際情報学修士(社会情報学)、東京大学大学院学際情報学府博士課程単位取得退学。韓国・アジアのIT・メディア事情を日本と比較しながら分かりやすく解説している。趣味はドラマ視聴とロケ地めぐり。

NEWSポストセブン》

2021. 3.

-Original column

https://www.news-postseven.com/archives/20210324_1645891.html?DETAIL

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