リアルタイムにウイルスを検出・駆除できる無料ソフト「アルヤク」(錠剤という意味の韓国語)がベーターテストの開始から2カ月で100万人のユーザーを確保した。広告をベースに無料で提供されていることから、ベーターテストの段階から1000人募集のところに2万5000人が申請したほど話題となったアルヤク。2007年12月26日に正式サービスを始めてからも、毎日5万件以上のダウンロードが続いている。
人気の背景は、有料でしか利用できなかったリアルタイムの監視機能と自動アップデート機能を無料で使えることに尽きる。さらに、アルヤクに使われているエンジンには、ルーマニア製「ビートディフェンダー」と韓国製「ビジョンパワー」という比較的実績のあるエンジンを搭載している。アルヤクを提供しているアルトゥルズ社は「100万人突破は単純にユーザーが増えたという数字としての意味より、信頼できる無料ウイルス対策ソフトの登場を望んでいたユーザーがそれだけ多かったという意味だととらえている」と話している。
アルヤクが人気を集めると、偽サイトまで登場した。アルヤクのサイトのURLの最後の部分にco.krではなくcomを使ったサイトだ。そのサイトにアクセスすると真っ赤なページに「アルヤクに重大な欠陥が発見されオープンが遅延しています。ご了承願います」という告知が載っている。間違えてアクセスしたユーザーらは「本当にアルヤクに欠陥があるものだと思ってびっくりした」とアルトゥルズ社に問い合わせるなど大騒ぎになった。アルトゥルズ社は、このサイトの所持人を相手に法的手段を取れないか弁護士と相談しているという。
アルヤクのほかに韓国では、Yahoo!Koreaも無料のウイルス対策のサービスを提供している。韓国の「ビジョンパワー」と提携し、リアルタイムでのウイルス監視・駆除、スケジューリングでのウイルスのチェック、自動アップデートといった機能を無料で提供している。
ウイルス対策の無料化によって年間300億ウォン(約37億円)以上の個人セキュリティ市場規模を自らの手で潰しているのではないかと懸念する声もセキュリティ業界にあるにはあるが、ソフトウエアの無料化はやむをえないという見方をする向きが多い。ただ、ウイルス対策ソフトの無料化はまだまだ進んではいない。セキュリティ業界の反発が強いからだ。
ポータルサイトでシェア1位のNAVERは「PCグリーン」という名称でウイルスのチェック・駆除機能は無料で提供しているが、リアルタイムでの監視機能はアンラボをはじめとするセキュリティ業界の反対を受けて有償で提供している。その他ポータルサイトは無料サービスに対する業界の反発を恐れて無料化に踏み切れずにいる。NAVERが無料で提供するならば、それに追従して業界と対立せずユーザーを獲得したいといった態度だ。NAVERはウイルス対策ソフトのプラットホームを提供し、セキュリティ業界がそこに自由に参加して無料でも有料でもウイルス対策ソフトを提供し、無料と有料のどちらを選ぶかをユーザーにゆだねる方案も考えているようだ。
セキュリティ業界は「無料サービスではパソコンのセキュリティは完全に守れない。個人情報を盗み出す悪性プログラムを検出・駆除するためには多大な投資が必要。外国製のエンジンを搭載した無料のサービスに問題が発生したときに、責任を持って対応するとは思えない」とし、無料に惹かれる本能は分かるがほどほどに、と忠告している。まあ、一理ある。
さて、韓国のことわざに「ただならヤンジェッムル(昔の洗濯用苛性ソーダ)でも飲む」というものがある。人間はタダでもらえる物なら何でも喜ぶという意味だ。これにも一理ある。
どちらが正しいとは言いにくいのだが、どうもインターネットが登場してから、特にコンテンツとソフトウエアに関して、何でも無料にしてほしいと駄々をこねるユーザーが増えたような気がしている。セキュリティ対策ソフトの利用料はたかだか年間数千円程度。飲み会やおやつを減らせば十分に払える金額だろう。たったの数時間の飲み会にかかる数千円は当たり前のように支払うのに、1年間分のソフトウエア代に使うのはちょっともったいない、と考えてしまうこと自体、悪い癖なのかもしれない。
(趙 章恩=ITジャーナリスト)
日経パソコン
2008年1月16日
-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/NPC/20080115/290944/