サムスンがTSMC追撃へ、切り札の「GAA」3nm世代の量産開始

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韓国Samsung Electronics(サムスン電子)は2022年6月30日(現地時間)、次世代トランジスタである「GAA(Gate-All-Around)」技術による3nm(ナノメートル)世代プロセスの先端半導体量産を開始したと発表した。3nm世代プロセスの半導体量産は、半導体ファウンドリー世界トップの台湾TSMC(台湾積体電路製造)に先行し、世界初だ。

 3nm世代プロセスの半導体の最初の顧客は、ビットコイン採掘用のASICを設計するファブレスメーカーである中国・上海磐矽半導体(PanSemi)と報道されている。ビットコインの採掘には、演算処理が速く、エネルギー効率の高いハードウエアが必要だ。そのため採掘業者は、それぞれ採掘に適したASICを委託生産している。GAA技術は、既存のFinFET技術による半導体と比べて消費電力を抑えられ、性能向上できる。そのため3nm世代プロセスは、まずはビットコイン採掘用ASICに適しているというわけだ。

 サムスン電子は2020年7月に開催した展示会で、初めて3nm世代プロセスのウエハーを一般公開した。2022年5月にバイデン米大統領が同社の韓国・平沢(ピョンテク)半導体工場を訪問した際にも、3nm世代プロセス半導体の試作品を披露したという。また同社はかねてから「2022年4〜6月の間に世界初の3nm世代プロセスの半導体量産を開始する」と宣言していた。その言葉どおり、滑り込みで量産開始し、有言実行となった。

 今回のサムスン電子の3nmプロセス世代半導体の量産開始について韓国内では、TSMCを追撃するチャンスをつくったとして高く評価されている。TSMCは2022年末に3nm世代プロセスの半導体量産を始める予定だ。だがこれは次世代のGAAベースではなく、既存のFinFET技術ベースである。GAA技術についてTSMCは、2025年の量産を予定する2nm世代プロセスから導入するという。

 台湾の調査会社TrendForce(トレンドフォース)によると、2022年1~3月期の世界ファウンドリー市場のシェアはTSMCが53.6%で1位であり、サムスン電子は16.3%で2位につけた。韓国内では、3nm世代プロセス半導体を皮切りに、サムスン電子とTSMCのシェアの差が縮まると期待する。サムスン電子は2021年に約100社だったファウンドリーの顧客を、2026年に300社以上へと増やす目標も掲げている。

電力消費を45%削減、性能を23%向上

 サムスン電子が3nm世代プロセスで導入したGAAは、半導体を構成するトランジスタにおいて電流が流れるチャネル4面をゲート(Gate)で囲む技術である。チャネル3面を囲むこれまでのFinFET技術と比べて、チップ面積を削減でき、消費電力も抑えられるという。

 同社によると、今回量産を開始したGAAベースの3nm世代プロセス半導体は、同社のFinFETベースの5nm世代プロセス半導体と比べて、電力消費を45%削減し、性能を23%向上、チップ面積を16%縮小したという。2023年に予定している第2世代のGAAにおいては、電力消費を50%削減、性能を30%向上、チップ面積は35%まで縮小できるとする。

 GAAは、半導体チップのサイズがどんどん小さくなり、既存のFinFETベースでは電力制御に限界が出てきたことで考案された技術だ。サムスン電子は、今回のGAAベースの3nm世代プロセスにおいて、チャネルを薄く広いナノシート(Nanosheet)型にした独自技術「MBCFET(Multi-Bridge Channel Field Effect Transistor)」を採用したという。この技術は、ナノシートの幅を調整しながらチャネルの大きさを変更できる。これによって電流をより細密に調節できることから、高性能かつ低消費電力の半導体設計に適している。

 サムスン電子は、TSMCを猛追するかのようにファウンドリー設備にも投資する。2022年下半期には平沢半導体工場の第3ラインが稼働する。米国テキサス州テイラー市にも、2024年下半期稼働を目標に170億ドル(約2兆360億円)を投資し、新たなファウンドリーを建設する。

 さらに同社は2022年6月、韓国・器興(ギフン)半導体工場内に新しい半導体研究開発センターを建設した。半導体研究所の新設は2014年に韓国・華城(ファソン)工場デバイスソリューションリサーチを設置して以来、8年ぶりとなる。研究員と設備が増えたことで研究スペースが足りなくなり、遊休敷地に研究所を建てることになったという。2021年に末立ち上げた次世代プロセス開発チームを中心に採用を増やし、3D(3次元)メモリーや6憶画素イメージセンサーなどの研究も進めるようだ。


趙 章恩(ITジャーナリスト)

 

(NIKKEI TECH)

2022. 7.

-Original column

https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/01231/00063/

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