サムスンとLGがIFAでOLEDテレビ競う、中国勢かわし大型市場で勝負

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2022年9月、家電見本市「IFA2022」がドイツ・ベルリンで3年ぶりにリアル開催された。IFAといえば世界のテレビ市場でシェア1位の韓国Samsung Electronics(サムスン電子)と同2位の韓国LG Electronics(LG電子)が、最新のテレビディスプレーを展示し、技術を競い合うのが名物だ。

 IFA2022では、サムスン電子が有機ELディスプレー(OELD)テレビを展示するかどうかに注目が集まった。OLEDテレビはLG電子がリードする分野だ。サムスン電子は現状、ミニLEDバックライト搭載の「Neo QLED」テレビ、マイクロLEDディスプレーの「Micro LED」テレビを主力とする。サムスン電子は子会社であるSamsung Display(サムスンディスプレイ)が開発した次世代ディスプレー「QD-OLED」テレビを2022年春から販売しているものの、海外での展示は今回が初めてとなる。

 QD-OLED(量子ドット有機EL)は、サムスンが2019年から2025年までに生産施設構築と研究開発に13.1兆ウォン(約1.2兆円)もの巨額を投資する次世代ディスプレーだ。QD-OLED のQDは、電気・光学的性質を持つナノメートルレベルの大きさの半導体粒子のこと。QD-OLEDでは、光の三原色の中で青色素子を発光源とし、量子ドットをカラーフィルターの代わりに使って、RGBの残る緑や赤を発光させる。同社はQD-OLEDテレビを「現存する最高画質のテレビ」になるとする。

 そんなサムスン電子は満を持してIFA2022において、55型と65型のQD-OLEDテレビを展示した。ただ同社のIFA2022における公式ブースツアーでは、なぜかLCDパネルを搭載するテレビのみを紹介。QD-OLEDテレビの紹介をスルーしたことが話題になった。

 サムスン電子は、いつ主力テレビをQD-OLEDにシフトするのか。IFA2022の会場で行われたサムスン電子の記者会見では当然、同社のQD-OLEDテレビ戦略について質問が集中した。

 サムスン電子副会長でDX部門長のハン・ジョンヒ氏は「2022年発売したQD-Display(QD-OLED)が好評で各種メディアによる評価も高い」「消費者が望むのであればQD-OLEDテレビの生産キャパシティーとラインアップを補強する」と説明するにとどめた。

 サムスン電子のQD-OLEDパネルの生産能力は現状、年間100万台規模だ。年5000万台規模の同社のテレビ出荷量をまかなうには足りない。そのため消費者のニーズに応じて、徐々にQD-OLEDにシフトしていくという同社の戦略が見えてくる。

 生産面では着々とQD-OLEDシフトが進む。サムスンディスプレイは2022年6月、LCDパネルの生産を終了し、QD-OLEDの研究と生産に人員を再配置した。QD-OLEDパネル生産の歩留まり率も改善している。2022年7月時点で85%を超え、2022年末には90%を目標にしているという。65型のQD-OLEDパネルの製造原価について同社は620ドル(約8万9000円)を目標にしており、LG電子のOLEDパネルよりも安くしようとしているとも報じられている。

 サムスン電子のQD-OLEDパネルはソニーがいち早く採用し、同社のテレビ「BRAVIA」の新製品として販売された。

 現在、世界のLCDパネルの価格は値下がりが続いている。全サイズにおいて前年比で半額近く安くなっている。LCDパネル生産の主役は京東方科技集団(BOE)や華星光電(CSOT)といった中国勢だ。LCDパネルを採用するテレビは中国メーカーが市場を席巻しているため、サムスン電子とLG電子はOLEDを中心とした大型のプレミアムテレビのエリアに活路を見いだしているようだ。

 サムスン電子のハン氏はかつて、2020年に開催された家電見本市「CES2020」において記者らに「サムスン電子はOLEDテレビに参入しないつもりなのか」と質問され、「絶対ない。サムスン電子はOLEDテレビを販売しない」と発言。大々的に報じられたことがあった。

 当時のサムスン電子は、LG電子のOLEDテレビより、自社の液晶をベースにしたQLEDテレビの方が、画質に優れると宣伝していた。その発言から2年が経過し、結局サムスン電子もOLEDテレビの販売を始めた。

 サムスン電子のハン氏は、以前から噂があるLG電子からのOLEDパネルの調達について「可能性は開かれたままである」と話した。サムスン電子とLG電子が協力すればOLEDテレビ市場に大きな変化が訪れることは間違いない。

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趙 章恩=(ITジャーナリスト)

  

(NIKKEI TECH)

 

2022.9 .

 -Original column

https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/01231/00068/

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