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米国など各国政府が半導体を戦略物資として重点施策を打ち出す中、韓国Samsung Electronics(サムスン電子)と韓国SK Hynix(SKハイニックス)という半導体世界大手を抱える韓国内が揺れている。韓国政府が打ち出す半導体産業への支援金が他国と比べて少なすぎるという声が日に日に増しているほか、半導体産業への法人税控除額を巡って与野党の対立が続いているからだ。半導体強国である韓国はどこへ向かうのか。
「海外に比べて韓国政府の支援が少なすぎる」
米国や欧州連合(EU)、日本、中国、台湾などが半導体を戦略物資として捉え、次世代半導体の技術力と生産力を確保するために、各国の政府が多額の支援を惜しまないようになっている。
例えば米国は2022年8月、半導体産業の技術的優位を維持するため、バイデン米大統領が半導体産業を支援する「CHIPS・科学法」(CHIPS and Science Act)に署名した。同法に基づく予算は5年間で総額2800億米ドル規模(約38兆3400億円)だ。このうち527億米ドル(約7兆2200億円)が米国内で半導体を生産する企業への支援金となる。
EUの欧州委員会も2022年2月、域内の半導体生産拡大に向け2030年までに官民で430億ユーロ(約6兆1900億円)を投じる「欧州半導体イニシアチブ」(Chips for Europe Initiative)に合意した。EUの半導体生産シェアを、現在の10%から2030年には20%へと拡大する目標を掲げる。
中国も半導体自立のエコシステムを目指す。台湾は早期に政府が半導体産業支援を始めた。台湾には世界最大のファウンドリー企業である台湾積体電路製造(TSMC)を中心に技術力のある半導体企業がある。
日本も次世代半導体の国内生産を目指す新会社「Rapidus(ラピダス)」が2022年11月に発足した。ラピダスについては韓国メディアも注目している。「半導体再建、日本のドリームチーム集結」「日本半導体同盟設立、過去の栄光を取り戻せるか」「日本、先端半導体国産化始動」など詳細な報道が連日のようになされている。
こうした中で韓国内は、半導体産業に対する韓国政府の支援が海外に比べて少なすぎると懸念する声が日に日に大きくなっている。韓国政府が2022年7月に発表した「半導体超強大国達成戦略」の主な内容は、半導体工場の容積率を現状の350%から490%へと高めるほか、半導体産業団地の造成に関する認許可は重大な公益の侵害がない限り迅速に手続きするとなっている。
実はこれまで韓国内の半導体工場建設を巡って自治体とのトラブルが発生し、建設が思うように進まないケースがあった。SKハイニックスが2019年2月に発表した、約120兆ウォン(約12兆円)を投資する韓国・龍仁(ヨンイン)半導体クラスター計画だ。工場用水の影響で農業用水が不足して、住民の利益が侵害されると懸念した隣接自治体が許可を出さず難航していた。2022年7月の半導体超強大国達成戦略の発表後、政府が積極的に仲裁に入り、2022年11月に自治体が許可を出し、2027年4月の稼働に向け再び動き出した。
この他、半導体超強大国達成戦略では、2031年まで大学の定員を増員し、半導体専門人材15万人以上を養成する計画や、半導体特性化大学院を新設した大学の教授の人件費と研究用機材費、研究費を政府が支援するといった内容が含まれている。
韓国内における2023年の半導体支援予算額は、韓国産業通商資源部(部は省に当たる)が前年比13.6%増の2507.7憶ウォン(約260億円)、韓国・科学技術情報通信部が前年比28.7%増の2440.3憶ウォン(約254億円)といずれも大幅に増額した。しかしそれでも産業界や学界からは、「海外に比べて物足りない」「政府と国会がもっと大胆に支援すべきだ」という声が相次いでいる。
趙 章恩=(ITジャーナリスト)
(NIKKEI TECH)
2022. .12
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