米インフレ抑制法その後、現代自動車と韓国バッテリー3社の北米投資増も課題は鉱物

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気候変動対策などのために4300億ドル規模を投じる米インフレ抑制法(Inflation Reduction Act、IRA)のガイダンスが2023年4月18日から適用となった。同法が定める要件を満たす電気自動車(EV)やプラグインハイブリッド車(PHEV)を購入すると最大7500米ドルの税額控除を受けられるというものだが、ガイダンスではその条件が大幅に修正され、極めて厳しいものとなった。北米でEVの最終組み立てを行うだけでなく、車載電池(バッテリー)の部品の一定割合を北米で造ったり、重要鉱物の一定割合を米国や米国が自由貿易協定(FTA)を結ぶ国などから調達したりする必要がある。これにより、韓国の現代自動車グループや起亜自動車、日産自動車が北米で生産するEV「リーフ」は対象外となった。

 インフレ抑制法のガイダンスは2023年6月中旬までパブリックコメントを募集中であり、韓国政府と企業は積極的に意見を提示し米政府と交渉を続けている。というのも韓国バッテリー大手3社は重要鉱物の輸入先を増やそうとしているが、まだ中国からの輸入に依存している。そのため、ガイダンスに中国の鉱物はもとより、中国企業との合弁で調達した鉱物・部品も⼀切使⽤してはならないといった条件が盛り込まれないようにすることが目標である。ガイダンスにある、「FTA未締結国で抽出した鉱物でもFTA締結国で加工し50%以上の付加価値を創出すれば税額控除の対象になる」という条件をうまく利用して、中国の原材料を韓国で加工して米国で売るという流れを守りたいからだ。

 現代自動車グループは自社負担の割引プロモーションで客離れを食い止めようとしているが、税額控除対象外になったことで、消費者からすると現代自動車グループのEVセダン「IONIQ 6」が競合する米Tesla(テスラ)の「Tesla Model 3」より高くなってしまった。IONIQ 6は2023年4月に米ニューヨークで開催した「2023 World Car Awards」で「World Car of the Year」「World Electric Vehicle of the Year」「World Car Design of the Year」の3冠を達成したものの、北米市場の販売台数が予想を下回っているのはやはりEV税額控除の対象外になったことが響いているとみられている。

 現代自動車グループはEV税額控除をめぐり対米投資を見直すと強気の発言をしたこともあったが結局は、米ジョージア州にある年間30万台の生産能力を持つEV工場に55億ドルを投資、2023年4月には韓国のバッテリー企業SK On(SKオン)と50億ドル規模、2023年5月には韓国LG Energy Solution(LGエナジーソリューション)と43億ドル規模の合弁会社をそれぞれ設立し北米でEV向けバッテリーを生産することにした。3つの生産拠点は2025年に稼働を開始する。SKオン とLGエナジーソリューションの2社と合弁したことで、北米でバッテリーセル生産規模が年間65GWhとなり、約60万台に搭載できるバッテリーを確保できるようになった。現代自動車グループとLGエナジーソリューションの合弁はこれが2度目である。1度目は2021年にインドネシアで年間生産10GWh規模のバッテリーセル生産工場を合弁で設立しており、2024年の上半期に量産を開始する。現代自動車グループは「米国生産EVに最適化したバッテリーセルを調達し、高性能・高効率・安全性の高いEVを販売する」と意気込む。現代自動車グループはグローバル市場でのEV販売を2030年に187万台へと伸ばして世界EV生産トップ3になり、グローバルEVの半分を北米で販売することを目標としている。環境対策と税額控除で勢いよく成長している米国EV市場を取りこぼすわけにはいかないからだ。

 韓国バッテリー3社の北米生産拠点投資も着実に増えている。LGエナジーソリューションは、米GM、欧州Stellantis(ステランティス)、ホンダ、現代自動車グループと、SKオンは米Ford(フォード)と現代自動車グループ、Samsung SDI(サムスンSDI)はGM、ステランティスと合弁で北米工場を稼働する。

趙 章恩(ITジャーナリスト)

 

(NIKKEI TECH)

2023. .6

-Original column

https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/01231/00087/

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