LFP系で大幅な成長を見込むLGエナジー、狙いはエネルギー貯蔵システムの北米市場

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 2023年10月25日、韓国LG Energy Solution(LGエナジーソリューション)は2023年7~9月の決算会見を開催し、売上高は前年同期比7.5%増の8兆2235億ウォン、営業利益は同40.1%増の7312億ウォンと増収増益だった。営業利益にはエネルギー安全保障と気候変動対策のために始まった米国インフレ抑制法(Inflation Reduction Act of 2022:IRA)の税額控除分の2155億ウォンが含まれる。北米工場の生産ライン増加により税額控除額も増えた。受注残高は韓国バッテリー3社の中で初めて500兆ウォンを突破した。

 米アリゾナ州に建設中のバッテリー工場については、需要が伸びている次世代円筒型バッテリー46シリーズ(直径46mmの円筒型バッテリーセル)の生産拠点にすることを正式に発表した。2024年下半期の量産開始を目指している。当初予定していた2170型リチウムイオンバッテリーセルから変更した。46シリーズに変更することでエネルギー密度が高くなる。生産能力は27GWhから36GWhに高まる。韓国内の46シリーズのパイロット生産ラインは2024年下半期に量産を開始する。収益性が高いハイニッケルNCMA(ニッケル・コバルト・マンガン・アルミニウム)は熱制御技術の向上など安全性を強化し、ニッケルの割合を80%から90%へ引き上げてエネルギー密度を高めるという。高容量・高効率なシリコン陰極素材を使うことで急速充電時間を15分以下にするとした。ハイニッケルNCMAは2025年からトヨタ自動車に供給する。

 中国勢が得意とするリン酸鉄リチウム(LFP)バッテリー、高電圧Mid-Ni NCMバッテリー、マンガンリッチMn-Richバッテリーなど低価格バッテリーの生産ラインも強化する。このうち電気自動車(EV)向けLFPは2025年の生産開始予定だったが、セル構造の改善と工程イノベーションの推進を実施した後、目標を2026年とした。そこでまず、北米のESS(Energy Storage System:エネルギー貯蔵システム)向けLFPで市場を攻める。

 米国はインフレ抑制法の影響で再生エネルギー関連の支援が増え、再生エネルギーで発電した電力を貯蔵するESS市場の成長が見込まれている。英国のエネルギー・コンサルタント会社Wood Mackenzie(ウッドマッケンジー)によると、北米のESS市場規模は2022年の12GWhから2030年は103GWhへ伸びると見込まれている。

 LGエナジーソリューションは米アリゾナ州に単独でESS向けLFPバッテリー工場を新設する。2026年より年間16GWhのESS向けパウチ型LFPバッテリー量産を開始する。アリゾナ工場は年産43GWh規模のバッテリー工場であり、このうち16GWhがLFP生産分となる。同社は2022年に1.7兆ウォン前後だったESSの売上高を5年後に3倍以上へと増やし、EV向けバッテリー売上高の3割程度にまで成長させる目標を掲げている。

 韓国ではLGエナジーソリューションがESS部門の中途採用を増やしていることも話題になった。同社はEV市場への依存度を弱めるためにも、ESSビジネスを拡大させて、安定した実績を確保しようとしている。日本向けの営業人材や、プロジェクトマネジャー、マーケティング、経営戦略などの分野で幅広く募集している。

 韓国のバッテリー専門調査会社SNE Researchによると、2022年末時点で世界ESS市場シェアは中国の寧徳時代新能源科技(CATL)と比亜迪(BYD)が55%ほどを占めている。LGエナジーソリューションは7.5%、Samsung SDI(サムスンSDI)が7.3%と韓国勢のシェアはまだまだ少ない。しかし中国企業のシェアは中国内の圧倒的なシェアによるものである。中国を除く世界市場では韓国勢が成長する余地がまだあるとして、北米にESS工場を新設し、積極的に攻めていく。

 韓国内ではLGエナジーソリューションのLFPバッテリー性能が、もともと得意としているNCM(ニッケル・コバルト・マンガン)に匹敵するようになったという報道があった。ESSの充放電エネルギー効率(RTE:Round Trip Efficiency)がNCMの97%に対して、LFPが95%、競合他社のLFPは93%だという。

 LGエナジーソリューションは2023年6月、ドイツで開催された「 EES EUROPE 2023 」において、同国初となるLFPバッテリー搭載住宅向けESS「enblock E」を公開した。北米市場ではまずNCMバッテリーを搭載した住宅向けESS「enblock S」を発売する。拡張可能なバッテリーモジュールで、ユーザーは1人でも必要な分だけ組み立てられるので、時間と費用を節約できるのが特徴である。



 章恩(ITジャナリスト)

 

(NIKKEI TECH)

2023. 10.

-Original column

https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/01231/00097/

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