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韓国Samsung Electronics(サムスン電子)が2024年3月20日に同国水原市コンベンションセンターで開催した第55期株主総会において、副会長のハン・ジョンヒ氏は「未来核心キーワードであるAI(人工知能)・顧客経験・ESG(環境・社会・企業統治)のイノベーションを続け、多様な新製品、新事業、新ビジネスモデルを発掘できる組織と推進体制を強化する」とした。
今年の株主総会は初めて経営陣が少額株主と対話する時間を設けた。質問やコメントが集中したのは半導体部門である。「SK hynix(SKハイニックス)は赤字でも株価が上がっているのにサムスン電子はどうして株価が上がらないのか」「AIの到来は既に10年も前から予想されていたのにチャンスを逃した。これからもう少し未来を見据えた経営をしてほしい」と厳しいコメントをする株主がいて、経営陣らが「半導体は2024年1月から黒字であり、競争力を回復して業況の影響をあまり受けない事業にする」と説明する場面もあった。
サムスン電子の半導体事業は2023年の実績悪化により半導体世界1位の座を米Intel(インテル)に譲った。市場調査会社の米Gartner(ガートナー)によると、2023年の半導体売り上げはインテルの487億米ドルを筆頭に、第2位がサムスン電子の399億米ドル、第3位は米Qualcomm(クアルコム)の290億米ドルだった。
サムスン電子の半導体部門を統括する社長のキョン・ゲヒョン氏は、2024年は同社が半導体事業を始めて50年になる年であり、未来を切り開く成長の年であるとして、半導体の競争力を取り戻すとした。2024年2月に公開した業界最大容量の12段積層で36Gバイトの第5世代HBM3E(広帯域幅メモリー、High Bandwidth Memory)を中心に市場を先導し、2~3年内に半導体世界1位を取り戻すとも宣言した。ファウンドリー事業はGAA(Gate-All-Around)基盤3ナノメートル工程でモバイルAPの安定的な量産を開始し、2025年にはGAA基盤2ナノメートル先端工程の量産を可能にするという。2030年まで器興(キフン)次世代半導体R&D団地に20兆ウォン(約2.3兆円)を投資し、半導体研究所を質・量ともに2倍に育てるとした。
また、AIアクセラレーター「MACH-1 Inference (推論)Chip」を開発していることを公式に発表した。AIアクセラレーターはAIの計算処理を高速化するための専用ハードウエアである。MACH-1はAIの学習速度を高めるGPU(Graphics Processing Unit)とメモリーの入出力間で発生するボトルネックをアルゴリズムで8分の1に減らし、電力効率を8倍向上させたSoC(System on a chip)という。キョン氏によると、現在のAIシステムはメモリーのボトルネックにより性能の低下とパワーの問題があるという。MACH-1はHBMより安価で電力効率の高い汎用メモリーでもAIアクセラレーターを実装できるようにした。
韓国ではMACH-1が商用化されれば、軽量AIチップとして業界のゲームチェンジャーになると話題になった。キョン氏は「MACH-1の技術検証が終わってSoCの設計に取りかかっている。年末には実際にチップを造り、2025年初頭にはMACH-1チップで構成したシステムを公開できるだろう」と説明した。サムスン電子は韓国と米国にAGI(Artificial General Intelligence、汎用AI)コンピューティングラボを新設済みで、MACH-1の開発を行っている。サムスン電子はAIアーキテクチャーの根本的なイノベーションを推進すると意気込んでいる。
趙 章恩=(ITジャーナリスト)
(NIKKEI TECH)
2024. 3.
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