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韓国では2025年3月に始まる1学期から、初等学校(日本の小学校に相当)3~4年・中学1年・高校1年の数学・英語・情報・国語(特殊教育向け)科目でAI(人工知能)教科書を導入する。AI教科書は「小中高校生500万人のための500万冊の教科書」を目標として、AIチューターが生徒のレベルを分析して繰り返し学習できるようサポートする教科書である。2028年にかけて段階的に拡大させていく。現在学校で使われているデジタル教科書は紙の教科書をPDFにして動画や音声、クイズなどを追加したもの。2025年からはAIが教師と生徒の間に入り、教師を補助する役割を担う。
韓国政府は「今変えないと未来がない」としてAI教科書を導入した。学校教育にもDX(デジタルトランスフォーメーション)が必要だとして、教師による授業のイノベーションも行うとした。2024年から3年かけて、3818億ウォン(約436億円)を投入して全国の小中高校教員約44万人を対象に「デジタル基盤教育力量研修」を行う。この研修は単にAI教科書の使い方を教えるだけではなく、多様な機材やデジタルコンテンツ、アプリケーションを活用して「探求型授業」ができるようにするものという。2026年までには授業イノベーションをリードする先導教師3万4000人を養成し、学校当たり2人以上を配置する。
AI教科書の導入に当たり、全国の学校はネットワークの点検や授業環境を再現するデジタルデバイステスト室、学習データ統合管制システムの構築などを行う。韓国政府は963億ウォン(約110億円)を投入する。ネットワークの改善が必要な学校には別途600億ウォン(約69億円)、学校当たり1000万ウォン(約115万円)を政府予算から支援する。AI教科書を使うデジタルデバイス管理人員として1200人を採用し、全国の学校をサポートする。また、自治体別点検支援団が全国の小中高校のデジタルデバイス管理・活用実態を定期的に調査する。教員の負担を増やすことなく教育インフラの質的水準を高めることを目標にしている。
LGエレクトロニクスやサムスン電子がEdtechビジネスに注力
政府によるAI教科書の投資を追い風に、韓国の大手企業は教育を支援するテクノロジー「Edtech」(エドテック)のビジネスを拡大している。韓国科学技術情報研究院の調査によると、韓国におけるEdtech市場規模は2020年の4.8兆ウォン(約5486億円)から2025年には8.6兆ウォン(約9830億円)へ成長するとされている。年平均成長率は約12%となる。韓国は教育熱が高く、少子化が急速に進んでいるにもかかわらず全体の教育費の支出や政府の教育予算は増え続けている。Edtechはまだまだ成長する余地のある分野といえる。
Edtechに注力する大手企業の1つが韓国LG Electronics(LGエレクトロニクス)である。同社はAIを「共感知能(Affectionate Intelligence)」と称して、それをキャッチフレーズにしている。学校向けには、オンデバイスAIのノートパソコン「LG Gram」、AIロボット「LG AI CLOi」、電子黒板「LG CreateBoard」の3点セットを提案している。このうちGramはインターネットに接続することなく、最大10台のAndroid OS/iOSデバイスと写真やファイルを送受信したり画面を共有したりする機能を備える。教師は生徒のデバイスに授業用の資料を送信し、生徒は授業中に書いた作文やクイズの答えを教師に提出するといったことができる。
韓国LG Electronicsが提供する未来教室(Futureclassroom)
(出所:LG Electronics)
CLOiはプログラミング授業を支援するAIロボットである。生徒はロボットを制御するアプリを自作することでCLOiを思うように動かせるようになる。また、CLOiは教室を回りながら前後に取り付けた27インチディスプレーを使って、授業に付いていけない生徒を支援する補助教師の役割もこなせる。このほかCreateBoardは86インチの大型ディスプレーに複数の生徒が同時に文字を書いたり発表したりできる電子黒板である。最大40カ所のマルチタッチと9つの画面共有、保存機能を備える。そして多様な教育用テンプレートを提供する。
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趙 章恩=(ITジャーナリスト)
(NIKKEI TECH)
2024. 5.
-Original column
韓国が2025年にAI教科書を導入、大手企業はEdtechビジネスの拡大とインド進出 | 日経クロステック(xTECH) (nikkei.com)