韓国行政自治部をはじめ中央省庁や参加機関は2007年8月からOSが搭載されていない「空PC」を購入できるようになった。「購入できるようになった」というのは、実は今まで「行政業務用多機能事務機器標準規格」により、政府のパソコンはすべてOSが搭載されたパソコンしか購入できないようになっていたのだ。しかし、韓国ではLinuxをOSとしてプリインストールして販売するパソコンメーカーは1社もないので、現実には政府機関はみなWindowsに頼っていたというわけだ。ここにきてOSの自由化を求める声が高まったため、OSをユーザーの自由に任せることにしたという。
空PCを購入し、好きなOSを選択する。これは組み立てPCを購入するユーザーの間では珍しくもなんともないこと。しかし、「いくらWindowsが標準で搭載されているからといって『Windowsはいらないと言われても値段は同じ』とメーカーが主張するのはおかしい。Windowsがプリインストールされたパソコンであっても、OSが不要なら、OS分の料金をユーザーに払い戻すべきだ」と国会議員らが今年7月あたりから関連規定を作る動きを見せている。実際、ハンナラ党の議員らは公正取引委員会が規定を作成するよう主張している。
確かにメーカーの言い分にも理解できる点はある。韓国でのWindowsのシェアは99~99.9%とも言われているほど圧倒的だ。1%未満しかいないユーザーのために、OSを別売りするのは面倒であるとメーカーが思うのも仕方ない部分はある。Windows+Internet Explorer環境でのテスト費用の方がLinuxを使ったテストよりも安あがりで、しかも需要が大きいという理由で、Linuxをプリインストールするのに躊躇しているというのも理由の一つだ。しかし、そういう背景はあるにせよ、OSが不要だからその分を払い戻して欲しい、という主張は正当なものだろう。
韓国でWindows Vistaはネット通販で20万ウォンほどの価格。しかし、Linuxはこれより安く、あるいは手間さえかければ無料で利用できる。Windowsはいりません、ということであれば、ざっくりVistaの市販価格の半分くらい(10万ウォン:約1万3000円)はキャッシュバッグされて良いのではないだろうか。
ただし、今のところ、韓国政府はOSの払い戻しをするかどうかはパソコンメーカーの自由としている。
韓国ではパソコンが導入されから今までWindowsに頼りすぎていたのが問題で、国産OSの開発にも投資すべきではないかといった意見も出ている。ともあれ、ユーザーにはOSを選択できる権利がある、Windowsの独占を防止しよう、という点では政府も同意している。
マイクロソフトが、Windows Vistaの価格を韓国内でだけ高く設定し、Windows離れを加速させたこともあり、こうしたWindows離れの動きは自業自得かもしれない。Windowsを使わないということはWordもExcelもInternet Explorerも使わなくなるということ。マイクロソフトの業績に大きく影響することになる。この勢いがマイクロソフトをちょっとは怖がらせるほど広がるといいのだが。
(趙 章恩=ITジャーナリスト)
日経パソコン
2007年9月5日
-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/NPC/20070905/281179/