4月、韓国ソウルでは珍事件が起きた。最大手キャリアであるSKテレコムの本社ビルの正面ドアに「不良SK」と書いた紙を張ったベンツが突っ込んだのだ。これはSKテレコムのサービスに不満を持った顧客K氏の抗議行動だった。K氏の主張によると、国際ローミングが使えるという高額の新機種を買い中国に行ったが全く通話ができなかった。端末の交換を要求して何度も本社を訪問したが相手にされず、駐車係の人にまで無視されたことに激憤し、世の中にキャリアの横暴を知らせるために数千万円のベンツを車ごと回転ドアに突進した、というらしい。
SKテレコム側は常軌を逸した顧客の暴力損害事件という風にまとめようとしたが、ネットにはベンツを突っ込んだK氏の警察でのインタビュー動画が出回り、「私もビルを爆発させてやりたいほどキャリアにむかついたことがある」とK氏を養護するコメントが数千件も書き込まれた。
LGテレコムに加入したはずが顧客の同意なく携帯電話番号ポータビリティー(MNP)を利用してSKテレコムに変更されていたという人もいれば、加入したことのない付加情報サービス料金を2年間も取られていたことに気づき返金を要求すると「加入した覚えがないというのはあなたの勘違いでしょう」と相手にしてもらえず消費者センターに依頼しても見てみぬふりだった、通話品質が悪く抗議しようとすると電話を途中で切ってしまう相談員、毎月ちゃんと料金を払っているのに未納料金のため信用不良者になるという警告状を送り家族に電話までしてきた、などなど数え切れないほどの不満がベンツ事件をきっかけにネットを騒がせている。
現状では、このような不満に対して親切に応じるキャリアは少なく、「変な顧客のうわごと」扱いするのもユーザーを怒らせている。不満を持つ顧客の電話に誠実に応じて謝りさえしていれば、「過ぎたことは仕方ない」とベンツのK氏も事件を起こさず帰っていたかもしれない。なお、K氏は1年以上の懲役になる見込みだ。
そんな騒ぎの中で発表されたSKテレコムの2007年第1四半期(1~3月)決算は顧客の不満をあざ笑うかのように絶好調。韓国第2位の携帯キャリアであるKTFは、3Gマーケティング費用がかさみ、39%の減益と、7年ぶりに最悪の実績を記録したのに対してSKテレコムは売上高が前年同期比6.7%増の2兆7117億ウォン、純利益は前年同期比17.5%増3963億ウォンにのぼった。SKテレコムは、1月から3Gのデータ通信料金値下げに加え、マーケティング費用には前年同期比33.3%増の5866億ウォンも使ったのに営業利益はたった0.9%しか減少していない6620億ウォンという素晴らしい結果だった。
だが庶民の金を騙し取って利益を上げていると国民の反応は冷たい。一部では、大々的な料金値下げ要求運動も始まっている。その根拠はSKテレコム、KTF、LGテレコムの3社が政府情報通信部に提出した「原価補償率」という数字。これは料金と、利益や期待収益までも包含した「原価」を比較したもので、100%を超えていれば、キャリアは料金を値下げしても損をしないというわけだ。今回、絶好調だったSKテレコムの原価補償率は122.55%。適切な料金を22%も上乗せした金額を利用者からもらっていることになる。
携帯電話料金を中心とした通信料の家計負担は重い。携帯キャリアは、サービス品質のみならず、料金についても大幅な見直しを求められる可能性がある。
(趙 章恩=ITジャーナリスト)
日経パソコン
-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/NPC/20070509/270360/