年末になると、恒例の授賞式が始まる。映画祭や歌番組だけでなく、政府が企業を慰労するための授賞式も数多く行われる。輸出をたくさんしたり、新技術、世界ナンバーワンと評価される技術を開発したりした企業、企業人を表彰している。
今年の輸出塔賞(輸出を多くした企業に与えられる)はサムスン電子だった。サムスン電子は2008年543億ドルを輸出して、韓国史上初めて「500億ドル輸出塔」を受賞した。韓国の3大輸出品目である半導体、液晶パネル、携帯電話は全てサムスン電子が得意とする分野である。サムスン電子は液晶TVを目標通り年間2000万台売り、携帯電話も2008年8月まで、しかも北米市場だけで1060万台を売ってシェア22.4%と1位を占めた。北米でのシェアはこの2年で2倍に跳ね上がっている。新興市場でも売れ行きは悪くない。
韓国政府が選定した「2008大韓民国10大新技術」の大賞である大統領賞にもサムスン電子が選ばれた。サムスン電子が世界で初めて開発した超節電1GB DDR2 SDRAMは、商用化されたDRAM分野では初めて50nm(ナノメーター) 工程時代を切り開いた省エネ・エコ製品として2008年上半期より量産化、今後世界のメモリー半導体市場をリードするだろうと評価されている。回路の幅を50nmにしたことで、半導体そのものは小さく、容量は大きくできた。既存製品に比べ電力は50%少なく、生産単価は15%安くなった。
サムスン電子は半導体DRAMとFLASHメモリー分野で世界1位のシェアを占めている。世界半導体市場全体ではインテルに続いての2位である。80年代になって半導体に投資するようになってから、サムスン電子は家電やLCD、携帯電話でも最先端の製品を次々に発売し、最先端企業というブランドイメージを築けた。HPやDellといった世界のパソコンメーカーの製品にもサムスンのDRAMが入っているため、サムスンの半導体輸出は2002年10兆ウォン規模から17兆5000億ウォン規模に成長している。輸出も新技術もサムスン電子だけに頼りすぎているのではないかとちょっと心配になってくる。
輸出依存度70%という韓国経済であるだけに、世界的不況の影響はどこよりも大きい。輸出は2008年11月に、7年ぶりに最大の落ち込みを見せた。貿易収支も11年ぶりの赤字となった。半導体も携帯電話も2009年はもっと落ち込みが激しくなると予想されている。
年間輸出規模は4400億ドルで2007年より18.4%増加したにも関わらず、輸入が25.3%増加した4469億ドルを記録したため赤字となった。輸出の原因は原油価格の急騰と輸出に合わせて部品の輸入も増えたからだ。韓国の根本的な問題はIT製品の輸出は増えても基本的な部品は輸入に依存していることだ。対日貿易赤字は300億ドルを突破している。韓国が輸出をがんばればがんばるほど、日本の企業は何もしなくても売り上げがぐんぐん伸びるというわけ。
唯一希望的なのは新興国への輸出が25.7%増加していること。原油を握り資金が潤っている中近東への輸出も順調に増加している。欧米や中国向け輸出が減った分を新興国でカバーしないと韓国経済は底なしに落ち込むしかない。
輸出は減っても少し期待してしまうのは観光。ウォン安円高から、韓国で買うと何でも半額違い割引効果があるのだ。日本のビジネスホテルに泊まる値段で高級ホテルに泊まれるし、免税店やショッピングセンターでは年末のセールまでしているのでさらに安い。ソウル市内はショッピングに来た日本人観光客のおかげで大賑わいを見せている。
ソウルの地元セレブが集まる江南地域はクリスマスキャロルすら流れなくなったというほど落ち込みを見せているのに、観光客に知名度の高い明洞はすごいことになっている。就職難が続く中でも、日本語が話せる店員急募のお店は増えている。ホテルの稼働率も90~100%と嬉しい悲鳴をあげている。本当にありがたいことである。2009年は輸出でサムスンに頼れなくなったら日本人観光客に頼ってみる?
(趙 章恩=ITジャーナリスト)
日経パソコン
2008年12月24日
-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20081224/1010778/