有線・無線電話のコンバージェンスで「一足先にユビキタス」―KTとサムスン (過去記事)

韓国には面白いIT施設がたくさんある。情報通信部1階にオープンした「ユビキタスドリーム展示館」にはホームネットワークやRFID、知能型交通、人の動きに反応する広告など、2010年の韓国が紹介されている。

 郊外のFTTHショールームでは、高級マンションの一室を使った遠隔医療、インターフォンの映像を携帯電話に転送し、訪問者を確認して遠隔でドアを開けるサービスなどが体験できる。TVで映画の試写会に参加することもできるし、受験勉強までできる。


 街中には通信キャリアが顧客管理のために運営しているメンバーシップ制の無料PCバン(インターネットカフェ)があり、全国の郵便局と銀行にも、誰でもネットを使えるPCが必ず置いてある。 こうした状況だから、韓国ではわざわざパケット代を払ってまで携帯でネットを利用するのは無駄使い、という考えも多いのだ。そんな韓国で通信事業者が収益をあげるには、ニッチ市場を狙ったコンバージェンス(融合)しかない。


 韓国最大通信事業者のKTは、2010年までに本格化すると予想されるコンバージェスサービスでも主導権を握れるよう、自社のインフラと、携帯電話マーケットシェア1位であるサムスン電子の技術と端末を応用し、電話とデータ通信、固定電話と携帯電話、放送と通信、ホームネットワークといったコンバージョンス分野を強化している。特に携帯電話がデジタル機器の中心になる「モバイルコンバージェンス時代」の到来をにらんだ新しいビジネスモデルとして成功を収めているのが「Ann」、「Du:」、「Netspot Swing」といったコンバージェンスサービスだ。








添付画像

サムスン電子のPDAスマートフォン「SPH-M4300」(広報資料より)


 日本では肩身の狭いPDAだが、韓国ではKTが無線LANとCDMA携帯電話のデュアルモードを備えたPDAスマートフォン「Netspot Swing」のサービスを2003年6月に開始してから、サムスン電子のPDAスマートフォン(SPH-M4300)に機種変更する人が増えている。無線LANはKT、CDMAはKTの子会社であるKTFにそれぞれ加入しなくてはならないが、サポートはKTが担当しているので面倒なことはない。今テレビに流れている映像をネット経由でそのままリアルタイム受信できる「OnairTV」や、ドラマ再放送のビデオ・オン・デマンド、音楽ファイルも「Netspot Swing」だと無料で利用できる。だが、うっかりこれをCDMAで接続してしまったらもう最後。先日このような間違いをおこしてパケット代1千万ウォン(約110万円)請求された男性が料金の取り消しを求める裁判を起こしたが、ユーザーのミスということで片付いてしまった。ホットスポット圏外になると「CDMAに接続しますか?」と必ず警告画面が出てユーザーがYESかNOかを選択しているようになっているためパケット代は払うべきという結論だった。


 5月から韓国では、携帯電話から利用できる衛星DMB(Digital Multimedia Broadcasting、モバイル衛星放送)が世界に先駆けて商用化された。続いて7月には地上波DMB(日本の地上デジタル1セグメント放送に近い)のテスト放送が始まる。「Netspot Swing」のほかに、KTはソニーのPSPとも提携しPSPからもドラマの再放送を利用できるサービスを提供している。


 固定電話も変身している。携帯電話が一人一台の時代になり、固定電話の新規申し込みがどんどん減っているため、KTが命運をかけて開発した「Ann」というサービスは、固定電話でありながら携帯電話に近い機能が備わっている。


 一見すると家庭でよく見かけるコードレスフォンだが、24和音の呼び出し音、1.5インチLCD、電話番号200件保存、発信者番号通知、自動応答、音声メッセージ録音、ボイスポータル、SMS(ショートメッセージサービス)送受信、着メロ、メロディコール、目覚まし、天気予報などのコンテンツ利用と、携帯電話と変わらない機能を持っている。SMSの料金は携帯より安い。Ann同士のSMSは1件1円、Annから携帯へは1.5円。通常、携帯電話のSMS送受信は1件3円だから破格な料金である。天気予報やショッピング情報をSMSで受信することもできる。Annは去年11月発売されてから7カ月で70万台を販売し、年間目標100万台の70%を達成している。ANN電話機を購入した人の76%がSMSや通話連結音などの付加サービスに加入しているため、ARPU(一台当たりの月平均利用額)は約300円、全体では月に2億円以上の売り上げになる。年末まで1.8インチカラーLCD、TVリモコン機能付き、64和音などの新機種を順次発売し、目標を上回る130万台の販売を目指している。Ann端末はサムスンとKTのOEMでアプロテックという中小企業が製造している。端末代は24カ月払いで電話料金に合算請求されるので電話機の買い替え需要も呼び起こし、新婚家庭や小規模ショップでのニーズが高い。








添付画像

サムスン電子のBluetooth携帯「SPH-V6900」(広報資料より)


 KTはこのほかに、1台で屋内では固定電話、屋外では携帯電話として使えるBluetooth技術を採用した「ワンフォン」、「DU:」も発売している。


 「ワンフォン」を利用するためには6~7万円もする携帯電話に機種変更し、1万円ほどする家庭内AP(Access Point)を購入しなければならないため負担が大きい。だがAPから半径20~30m以内では固定電話料金が適用され、KTのブロードバンドサービス「Megapass」に加入している場合は半径100m以内でモバイルゲームなども無線インターネット経由で安く使えるので電話代の節約になる。この夏からサムスン電子がテレビ広告で、Bluetooth無線イヤホンを利用するとDU:携帯をカバンの中に入れたまま通話したり音楽を聞いたりできる場面を流しているため、DU:に加入しなくてもサムスン電子のBluetooth携帯(SPH-V6900)を購入する人も多い。


有線→無線→放送へと拡大していくKTのコンバージョンスサービスは通信と放送の融合を見据えた戦略だ。いずれサービスと端末をすべてKTが握るための計画ではないかということで、情報通信部までもKTの独占を警戒している。ユーザーとして新しいサービスがどんどん登場するのはとても嬉しいが、家計支出に通信費の割合が高すぎて困っている。

by –
趙 章恩

日経デジタルコア連載   
Link

Leave a Reply

Your email address will not be published. Required fields are marked *