第26回:『太王四神記』が残したもの~ 韓国人の歴史観を変えたヨン様


高句麗ブームを巻き起した『太王四神記』



ヨン様5年ぶりのドラマ出演となった『太王四神記』が韓国で放映されてから、1年が経ちました。もっとも影響力のある俳優「ヨン様」が主演する時代劇で、韓国ドラマ史上最高額の430億ウォンの制作費を投入する超大作。そして、韓国史の中でも解明されていない部分がもっとも多い「高句麗」を背景にしたフュージョン時代劇……ここまで聞いて期待しない人はいないでしょう?


『太王四神記』が放映されてから、韓国では高句麗ブームが巻き起こりました。さらに、歴史的にも文化的にも自分たちのご先祖様である高句麗のことを知らなすぎるのではないか、という反省の声が高まりました。


高句麗は韓国人にとって、とても誇らしい歴史の1ページです。しかし、高句麗の遺跡はあまり残っていません。『太王四神記』が放映されてから、全国の自治体では高句麗と縁のあるところはないかと、「目に火をつけて(韓国では必死になって探すことを「目に火をつけて」といいます)」探し始めました。今や韓国各地の高句麗の遺跡や城壁が見つかった場所で、「高句麗祭り」が開催されています。それほど高句麗の領土は広かったのです。ロケ地となった済州島や九里の高句麗鍛冶屋村は、今でもアジア各国からの観光客が絶えません。また、ドラマがきっかけとなり、高句麗や三国時代の歴史の勉強をさせたいと子供を連れてくるお母さん達でロケ地はごった返しています。


韓国では『太王四神記』をきっかけにして、高句麗の生活や衣装、食べ物、風習なども話題になりました。前回の高矢禮(ゴシレ)弁当にも盛り込まれていたメクジョッ(貊炙)は、豚肉にテンジャン(味噌)ソースを塗って焼いたものですが、この料理をはじめ、プルコギや焼肉種類の発祥地が高句麗なのです。メクジョッは、狩で捕まえた山の豚をさばいて、壷の中にテンジャンと一緒に漬け込んで焼いたのが始まりだと言われていて、当時の壁画にも残されています。韓国の食事といえば、みんなで一緒にテーブルを囲み、ワイワイ同じ鍋をつっつくというのが一般的ですが、高句麗時代の絵を見ると、厨房に捕らえられた豚がかけてあり、みんなが小さいテーブルの前に座っていたり、火の前で何かを焼いていたり、壷の中を覗いていたりする女性の姿が描かれています。今の生活とは、かなり風習が違っていたようです。そこがまた新鮮なんですよね。


また、韓国といえば床暖房のオンドルが有名ですが、これも高句麗時代に生まれたものです。寒くて長い冬を過ごすためには、下からポカポカ暖かくなるオンドルが欠かせません。今では韓国全土のどの一軒家も、どのマンションもオンドルを利用しています。さらに、疲れが溜まった日には、家族全員で「チムジルバン」に行きます。熱々のオンドル部屋がいくつもあり、オンドルの上に黄土を塗って遠赤外線を出す部屋や、デトックスに効果があるというアメジストを所狭しと貼ってある部屋など、テーマごとに分かれた部屋で汗をかくと、老廃物が無理なく自然に流され、体が軽くなるのです。現代の韓国人の生活になくてはならないものの多くが、高句麗時代に生まれた知恵だったことに驚きです。








    人間の愛を描いた『太王四神記』



    ヨン様が演じた好太王こと広開土大王は、韓国の5000年の歴史上、唯一といっていいほど、領土を拡張し朝鮮半島から北へ北へと攻めていった王様でした。領土を広げた=戦争が多かった=怖い王様というのが今までの定説でしたが、ヨン様と作者のソン・ジナさんは、それを見事に覆し、みんながアッと驚く新しい広開土大王の姿を見せてくれました。広開土大王は戦争が好きだったわけではなく、悲惨な状況に置かれた人々のことをどうしても見過ごせなかった、情の深い王様だったのです。ひとりの血の通った人間として悪者を排除するために戦争が起こったわけで、広開土大王が治める国に住みたいという移民が増えたことから領土も広がったのです。『太王四神記』では、そんな優しい国家経営者としての広開土大王を見せてくれました。これは韓国人にとってものすごく画期的なことなんです!!


    何よりも大事なのは、ヨン様の優しさの中に、女性を守ってくれる逞しさを秘めたイメージと、天下無敵という感じの広開土大王のイメージが重なり合ったことで、『太王四神記』だけのオーラを秘めたタムドクが生まれたことです。「もうヨン様以外の人が演じる広開土大王なんて想像もできない!」というのが、韓国視聴者の正直な気持ちです。実存した人物を自分なりに解釈して演じるのは、とても負担が大きかったはず。でもヨン様は、「冬ソナ」のチュンサンのように、タムドクといういつまでも忘れられないオリジナルキャラクターを私達の心の中にプレゼントしてくれましたね。ヨン様は、チュンサンを超えるタムドクという素晴らしいキャラクターを生み出すことで、自身がかけがえのない存在であることを、私たちにハッキリと示してくれました。


    『太王四神記』はまた、「アクション俳優としてのヨン様」を十分に見ることができたドラマでもありました。アクション俳優とまで言うと大げさですが、「ファンタジー時代劇」という新しいドラマの可能性と相まって、鎧を着て馬に乗り、剣を振り回すヨン様の凛々しい姿に夢中にならずにはいられませんでした。コンピューターグラフィックスがふんだんに登場するのも、韓国ドラマ史上あまりなかったことです。四神が登場する華麗なシーンは、ドラマをあまり見ない層と言われていた男子高校生までをもファンにしました。


    そして、『太王四神記』が残したのは、なんといっても「愛」です。韓国のドラマを観ると、毎回数え切れないほど、「サランへヨ(愛してます)」、「ジョアヘヨ(好きです)」というセリフが登場します。韓国では日常でも、お母さんに、友達に、恋人に、挨拶代わりといえるほど頻繁に「サランへヨ」と言い合います。ところが『太王四神記』では、一度も「サラン」(愛)を口にして語る場面がありませんでした。スジニの王様への愛、タムドクのスジニへの、そしてキハへの愛、チョロのスジニへの愛、ホゲのキハへの愛、チュムチとタルビの愛、父と子の愛、母と子の愛、王様の国民への愛など、いろんな形の愛が登場しますが、誰も一度も口にして「愛している」などと言いませんでした。目で訴えたり、命をかけた戦争で相手を守り抜いたりすることで、全身で愛していることを表現し、感じさせてくれました。


    中でも印象的だったのは、チョロでしたね。スジニを愛していながらも、愛する人の愛を守ってあげるため、つまりスジニとタムドクの愛を守るため、騎士のようにスジニの周辺から離れず、切ない目でいつも彼女を見つめていたところがチョロの魅力でした。たとえば、チョロとタムドクがスジニを間にして対立……三角関係を演じるものの、実はチョロとタムドクが異母兄弟で過酷な運命に翻弄される……というような、韓国ドラマの典型的なパターンを打ち破ったところも新鮮でした。








      ヨン様と『太王四神記』が時代を変えた!



      時代劇のヨン様もいいけれど、やっぱりファンとしては、いつものヨン様というか、眼鏡をかけて都会的でスーツをビシッと着こなすヨン様をじっくり堪能したいという欲望もあるわけです。その願いがついに、そしていよいよ現実のものとなりそうです。2009年は、ヨン様が主演・製作すると言われている『神の雫』の撮影が始まりそうです。『神の雫』は韓国でワインブームを巻き起こした日本の漫画で、韓国では珍しく170万部以上売れた作品。ワインが飲めるレストランやバーには、必ずといっていいほど『神の雫』が置かれています。デパートやスーパーには特別コーナーが作られ、漫画に登場したワインを集めて販売されているほどの影響力です。ヨン様は、韓国でワインブームが巻き起こる前からワイン好きで知識も豊富なので、このドラマにはピッタリですよね。


      ヨン様のおかげでまた時代が変わったな~と思うのは、日本の漫画を原作にしたドラマ制作に、誰も反対しなくなったことです。以前なら歴史的な感情から、「日本の漫画を原作にするなんてけしからん」と反対する意見がかなり出ていたはず。しかし、今回は何の反対もなく、逆に「ヨン様とワインなんて、とってもお似合い!」という喜びの声ばかりなのです。これはヨン様と日本の韓流ファンのみなさんのおかげです。日本のみなさんがヨン様をきっかけに韓国ドラマを見てくれて、好きになってくれて、韓国にも頻繁に来てくれて、韓国の文化や食べ物にも興味を持ってくれたことから、韓国人の日本に対する意識も変わりはじめたのです。


      「日本でこんなに韓国ドラマがブームになって、韓国の食べ物や芸能人が人気を集め、韓国を好きになってくれる人がたくさん増えたというのに、いつまでもグチグチ言ってられないわ!」……これが今の韓国人の正直な気持ちです。日本の女性のみなさんが韓国を好きになってくれたことで、韓国でも日本を好きになり、好感を持つ人が増えたのです。韓流ファンのみなさんが日韓の外交までも変えました。素晴らしいことです。これからも韓流を楽しんでみようじゃありませんか!


      次回からは『太王四神記』からさらに広く、韓国のドラマとエンタメ裏話をより深く広くお伝えする新連載をお届けします! 連載を読んだその夜のうちに、絶対観たくなるドラマがどんどん登場しますのでご期待ください!!

            BY  趙章恩


      Original column
      http://ni-korea.jp/entertainment/essay2/index.php?id=26

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