韓国では2004年1月、携帯電話の番号ポータビリティーが始まった。日本では携帯の電話番号がキャリアに関係なく090か070ではじまるが、韓国ではSKTが011と017、KTFが016と018、LGTが019と固有の番号を使っている。このあたま3ケタを含め現在使用中の番号で、そのまま他のキャリアの料金制度を利用できるようになった。
1月からの新規加入は各社全て010に統合、010ユーザーが80%を超えると予想される2007年には今までの固有番号をなくしキャリア全てを010に統合する。010から始まる番号でも新規加入後3カ月経てばキャリアを変更できる。シェア別に時差を置いて実施するため、現在は最もシェアの高いSKTのユーザーだけが移行可能。7月からはKTF、2005年1月からはLGTのユーザーが対象になる。
キャリアとユーザーにはメリットなし?
ユーザーの負担は、キャリアによって使える端末が違うので、まず機種変更として3-6万円、それに変更手数料100円、新規加入費3000円が加わる。端末補助金は禁止されているが、2年以上の長期定額契約(1万円で音声通信使い放題)すると分割払いで月1000円出せば最新の端末がもらえるように割引してくれる。とはいえ、携帯端末を買うとなればかなりの負担になる。
一方で代理店と端末ベンダーは番号ポータビリティーで活気づいている。1月だけで代理店に支払われた手数料は総額90億ウォン以上、端末の売り上げは1000億ウォンを超えた。主人公のキャリアとユーザーには思ったほどメリットがないのが番号ポータビリティーかも知れない。
加入者数トップのSKT、シェア低下か
番号ポータビリティーが始まって間もない1月半ばまでの間に、SKTでは顧客データ網エラーで申請業務が度々中断している。これにはKTFとLGTから「わざとらしい」と非難の声が上がっている。また、SKTが010を自社のブランドのように広告しているとKTFが公正取引委員会に提訴したり、LGTはKTFが固定電話網のKT(韓国通信)を利用してユーザーを確保し、SKTは代理店に違法に高い補助金を支援していると非難しながら自分たちはLGグループを総動員して強引にユーザーを確保するなど、泥沼の騒動が続いている。
事前には、番号ポータビリティー開始以前に54.5%以上のシェアを持っていたSKTのユーザーが料金の安いLGTに流れ込むと予想されていたが、実際にはそうでもないようだ。開始後1カ月でSKTのユーザー30万人がKT、KTFとLGTに移行したが、2月に入ってからはそのペースが20%以上落ち込み、010の新規加入が増える傾向にある。SKTのシェアもこの1カ月半で0.7%落ちたが、010加入者数が発表される来月にはシェアを取り戻すと予想されている。今はまだSKTのユーザーだけが番号を移動できるので、今後のシェアを予測するのは難しいかもしれない。KTFのユーザーが移行対象になる7月以降もKTFとLGTが現在の加入者数を確保し、新規加入でKTFが100万人、LGTは600万人という目標を達成するとすれば、SKTのシェアは50%以下に落ちることになる。
通話料より端末がシェア獲得のポイントに
驚いたのは番号ポータビリティーを利用したSKTユーザーの中で10代はたったの2.2%だったというデータだ。頻繁に機種変更する13-18歳が1.6%、12歳以下が0.6%、19-24歳が8.2%、と若い世代ほどSKTから離れず、番号ポータビリティーの中心層は30-40代という結果になる。
SKTの2003年1年間の解約率も14%と他のキャリアに比べ少ない。KTFは24%、LGTは28%に上る。SKTのブランドパワーや付加サービスの多さが原因とも考えられるが、何よりも端末の問題が大きいようだ。
携帯売り場に行くと新製品やかっこいい端末は必ずと言っていいほどSKT専用になっている。三星電子、ペンタック&キューリテル、SKテレテックなどから毎月新製品が登場しているが、KTFやLGTのユーザーは番号を変えない限りお気に入りの端末を利用できない。筆者もそのせいでKTFから番号ポータビリティーを利用してSKTに変えてみようと企んでいる。SKT潰しの絶好のチャンスだと期待していたKTFとLGTには残念なことだが、通話料金が安いだけでは移動通信市場をつかめない。
端末と抱き合わせの有料サービスを削減
韓国の携帯端末の値段は高い。最も人気の高い三星電子の130万画素カメラ付きやMP3プレーヤー付きなどは5-6万円以上、特にこれといった機能のない端末でも3万円以上はする。それでも13-24歳の若い世代は頻繁に機種変更する。その分通話料金やデータ通信を抑え1件3円、80バイトまで書き込めるSMS(ショートメール)を利用している。日本と違いキャリアに関係なくSMSを送れるのでメールの代わりに使っている。高いパケット代を払わなくても済む。
ARPU(加入者1人当たりの平均月間収入)を上げるため、キャリアは機種変更や新規加入の際、端末の割引と引き替えに特定のコンテンツやサービスへの加入を促進した。かつて、人気ゲームソフトをプレーしたくてゲーム機を買おうとしても、店頭では値段のはる他のソフトとセットになったハードしか買うことができなかった、ということが良くあった。それと同じで、最新端末を買うと必ず月900円ほど無駄なコンテンツ利用料を払わなくてはならない。日本では無料の発信番号通知サービスも韓国では月100円。キャリアは今このような付加サービスの値段を下げたり、条件なしで機種変更できるようにしたり、ユーザーが離れないように手を尽くしている。
オンラインサービスをてこに移行を促進
番号ポータビリティーはオンラインも騒がせている。KTFはDAUMやNHNなどのポータルやオンラインショッピング、ホームショッピング(TVテレホンショッピング)と提携し、携帯販売、コンテンツ交換、共通メンバーシップ制度などを始めている。DAUMの3700万会員を対象に「SKTからKTFに変えましょう」と懸賞イベントを開催しているが、この影響力が物凄い。
これに対しSKTはオンラインゲームやアバターを無料で利用できる「サイバー特権」サービスを始めた。人気の高い特定サイトの1件100円前後のコンテンツをSKTのユーザーは無料で利用できる。モバイルコンテンツの一部も無料にし、レストランの割引や無料ネットカフェの運営もより強化する方針だ。
2大キャリアによる市場支配も
今、移動通信業界で問題になっているのは固定電話のKTだ。KTはKTFと「再販売(無線再販売、キャリアの代わりに別定通信事業認可を得てユーザーを誘致し手数料をもらうこと)」契約を結び、1999年7月から2004年まで157万人のユーザーを確保した。今年は85万人、1兆ウォンの再販売を目標としている。番号や料金などはKTFと全く同じでユーザーは自分の携帯がKTなのかKTFなのかよく分からないが、加入したユーザーはKTが別途管理している。
移動通信事業権利のないKTがKTFを借りてキャリアと同じ事をやっているとSKTは猛反発しているが、番号ポータビリティーを利用しKTはより積極的に移動通信市場に乗り出している。実際1月にSKTからKTFに流れたユーザーの半分はKTが誘致した。KTとKTFが合併するとの噂もあり、このままではKTとSKTの2社が韓国の移送(異動)通信市場を飲み込んでしまうことになる。
固定電話市場ではKTの強さ揺るがず?
昨年6月30日からは固定電話の番号ポータビリティーも始まっている。KTとハナロ通信の競合になるが、ハナロ通信は経営難でそれどころではなかった。広告もマーケティングも全然できなかったため、この制度が始まったことすら知らない人が多い。
まず地方都市から始まり釜山は7月、ソウルは8月から導入される。シェアが4.3%にすぎないハナロ通信は2月にやっと夏に向けて3565億ウォンをVoIPと番号ポータビリティーのマーケティングに投入し、KTの100年の歴史に挑戦すると発表した。大手株主だったDACOMとの関係も清算し、DACOMのために譲っていた市外・国際電話事業も本格的に始める。KTより加入費は50%、基本料金は20%ほど安く、ADSLと一緒に申請すると基本料金月200円(KTは520円)で固定電話が使えるハナロ通信にユーザーが移るのが当然と予測されていて、現在申請者の98%がKTからハナロ通信への移動になっている。
だが、ハナロ通信の対応の遅さと高くてもKTが安心というユーザーが多いのも事実で、SKTがあまり影響を受けなかったように固定電話もKTの勝利で終わる可能性がある。
誰よりも消費者の立場で、より質の高いサービスを安く利用できるようにするための番号ポータビリティーである。監督官庁である情報通信部がちゃんとしないから代理店が個人情報を盗み、勝手にキャリアを変えたり申請していない定額料金に変えたりする事件も起きれば、キャリアの違法競争になるのだという不満の声も大きい。「ルール」を守り、広告よりはサービスと通話品質、適正な料金で勝負してもらいたい。日本のユーザーもきっとそう思っているに違いない。
by- 趙 章恩
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