日本では2月から始まったモバイルWiMAXサービスがちょっとした話題のようだが、韓国では、同様のサービス「WiBro」が2006年に商用化された。当初は高速で移動しながらもブロードバンドが使える「携帯インターネット」として注目されたが、注目度のわりにエリアがなかなか広がらなかった。いまや、都心よりも無線インターネットを必要としているのは、地方居住のユーザーなのだが、そういった人々には使いたくても使えないサービスという位置付けだ。
また、使い方もUSB型のモデムをノートパソコンに差し込んで使うのがメインだったため、WiBroが持つもっとも魅力的な要素である「高速で移動しながらも使える値段の安いモバイルインターネット」というメリットが活かされなかった。
WiBroのショールームを作り体験イベントを開催しても、アクセスポイントがあるソウルの都心に住む人や首都圏大学に通う大学生、記者を除いては、WiBroを利用するべき理由が見つからなかった。KTも年々WiBroに力を入れなくなっているようにも見えるし、SKテレコムも政府に催促されてUSB型モデムは発売したもののそのまま放置しているという印象が強かった。
ところが、そのWiBroが2009年に入ってから再び注目の的になっている。3月11日に行われた現代自動車の新車発表会では、WiBroをサービスしているKTと現代自動車が提携し、世界で初めてWiBroを搭載した自動車を開発することが発表された。
2009年内に現代自動車からWiBroモデムを搭載した新車を発売し、車の中で移動しながらブロードバンドを使えるようにするため協議を進めているという。現代自動車は賢い車(Smart Car)という特別なイメージカテゴリーをカバーする車種を持てるし、KTは世界に輸出される現代自動車と一緒に世界市場へ進出できる基盤を作れる。いわゆる「Win-Win」の関係として評価している。
さらに、KTは子会社KTFの3G携帯電話にWiBroを搭載して音声通話もできる企業向けモバイルVoIPサービスも始める。KTは「3GとWiBroの融合でより魅力的な端末を登場させ新しい市場を開拓し、海外にも進出したい」としている。
通信政策を担当する省庁の放送通信委員会は3月中にWiBro携帯電話に010局番を与えた。KTはWiBroに音声を搭載するからといってユーザー獲得のために移動通信と熾烈な競争をするつもりはないようだ。むしろ、機能の融合で斬新なサービスを提供し、新しい顧客層を狙うため、ブラックベリーで成功したカナダのRIMをモデルに企業向けにターゲットを絞ったVoIPサービスにするという。
端末の開発やネットワーク連動などの作業があるため、WiBroを使ったモバイルVoIPが始まるのは早くても10月。筆者としては、WiBroのサービスエリアがまだ全国をカバーしていないため、携帯電話端末を使って料金の安いVoIPを利用できるとうたったところで、使いたくても使えない「絵に描いた餅」になるのではないかと少々心配だ。
放送通信委員会も同じ懸念を持ったのだろうか。WiBroのエリア拡大を支援するとしている。2013年までにモバイルコンテンツの市場規模を1兆ウォンから3兆ウォン規模にまで成長させるための「モバイルインターネット活性化計画」を発表し、キャリアのモバイルコンテンツ料金回収手数料値下げ、多様なパケット定額導入と並んでWiBroのエリア拡大を推進する方針である。
さらにWiBroを海外輸出戦略品目に選定し、総力支援するともしている。WiBro、DMB(モバイル放送)、IPTV、放送コンテンツを海外輸出4大品目に指定し、海外でのマーケティング費用として2009年だけで66億ウォン(約4.4億円)を支援する。ターゲットはブロードバンドの普及が遅れている南米、ロシア、アジア、東ヨーロッパ。WiBroモデム装備の輸出も順調に増加すると見込んでいる。
韓国が開発した技術として自慢しながらもここ1年ほど目立った話題のなかったWiBroだけに、次々に新しい計画が発表されるのは嬉しい。これが計画で終わらずちゃんと製品化され通話品質も問題なくカバレッジも全国へ広がれば、携帯電話と同じ番号で安いWiBro電話を使わない手はない。2009年は韓国でも日本でもWiBro、モバイルWiMAXそれぞれにおいて、メルクマールとなる年になりそうだ。
(趙 章恩=ITジャーナリスト)
日経パソコン
2009年3月12日
-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20090312/1013066/