<韓国リポート>相次ぐベンチャー不祥事 (過去記事)

2002年1月14日、金大中大統領は年頭記者会見を「対国民謝罪」の言葉から始め、会見中何度も「謝罪する」と頭を下げた。「ベンチャー不正事件に多数の前長官や国会議員が関連している事につき、大変申し訳ないと思っている」と述べながら「ベンチャー不正を今後徹底的に調査し、二度とこのような事件が起きないよう注意する」そうだが、韓国国民達の反応はイマイチだ。

■韓国版「リクルート事件」


 韓国で最も権力を持つこの人の頭を下げさせたのは、「PASS21」。保安専門ベンチャーであり、指の指紋にある微細な毛穴を認識し、携帯の液晶画面に指紋を押すだけで人を鑑別する映画のような技術を保有する有数のベンチャーが、どうして国中を怒らせているのか。このストーリもまたハリウッド映画顔負け、北朝鮮に中央情報部、ビジネスに政治に権力に女と、全てが揃ってる。


 「PASS21」事件は今から16年前、1987年の香港にさかのぼる。


 1987年、韓国では「スージ金事件」という異国的な名前の事件が起きた。香港で自分の奥さんが北朝鮮の工作員に殺害され自分も拉致されたが、北朝鮮に渡る寸前逃げ出し駐香港韓国大使館に逃げ込んだと主張する男性「ユンテシッ」が現れた。当時は北朝鮮との緊張関係を利用し、政権を維持する軍事政権。泣く子も黙る絶対権力の韓国情報部(KCIA)はユンが自分で奥さんを殺し嘘をついてる事を知りながら、大々的に記者会見を行なう等、この嘘を15年間も利用した。(この時の情報部責任者は時効満了で余裕満々。「そうだったんですか ̄」等と言っていた)。


 去年、あるドキュメンタリー番組がきっかけとなり、ユンは11月殺人の容疑で逮捕された。その彼が実はその間、あの有名な「PASS21」の社長として政府とマスコミの役員達と癒着、株をばらまき賄賂を渡し、役員らの親類に「PASS21」の理事の座を与え、想像を絶するロビーを行なっていたことが発覚した。(「PASS21」の日本支社)


 「PASS21」は前財政経済部長官が代表理事を努め、指紋認識市場シェア60%を閉めるシリコンバレーの「ベリディコム」を買い取り、CNNやAP通信、ロイターではユンを韓国のビルゲイツとまで呼びながら、このことを伝えた。だが韓国の業界では、ユンは「詐欺師」として有名だった。「PASS21」の技術は理論的には完璧だが、商用化するには難しい部分が多すぎたからだ。


 ユンは未公開株を議員達に渡し、彼らの庇護の中、有・無形の支援を得て「PASS21」を育て、株価を上げたり下げたりしながら、がっぽり自分の懐を満たした。韓国では日本の「リクルート事件」と比べられたりしている。


■不正事件で力抜けて


 ユンと政府とのつながりは、殺人事件のお陰だった。1999年より政府の全ての関心はベンチャー育成に注がれ、情報部(KCIA、現国情院)もベンチャー業界の動向を詳しく報告し始めた。管理対象だったユンは自分もベンチャーをやっていると情報部関係者に株を渡し、ロビーを始めた。ここから始まった癒着は十数人の政治家と25人ものマスコミ関係役員にまで広がり、1億円以上の賄賂を受け取ったマスコミは、連日韓国を代表するベンチャー、CEOとしてユンを登場させ、株価暴騰のためがんばった。一人の記者が3か月もの短い間「PASS21」関連記事を30本以上書いたという調査結果まで出てる。「スージー金事件」のドキュメンタリー番組が放映されないようにしてくれと、担当プロデューサーにも数千万円の金が渡った。


 嵐のように政治家が次々逮捕され大統領が頭を下げても、韓国国民がまだ渋い表情のままなのは、似たような事件がこれですでに3度目で、まだまだ氷山の一角に過ぎないと信じるしかないからだ。


 韓国の希望の星だったベンチャーは2000年以降バブルを乗り越え、資金難を乗り越え、去年の暮れからやっとオンラインショッピングの売上げが増える等、回生の兆しが見え始めていた。だが、相次ぐ不祥事で「ベンチャーはどこも同じ」と思われ、みんな力が抜けてしまった。政府の無分別なベンチャー支援案が、このような事件を生み出したとまで批判されている。(99年までも全世界より注目されていたのだが…)また、ベンチャーに勤める普通のサラリーマンまでも罪人扱いで、肩身狭い思いをしている。ベンチャーという用語を使いたがらないベンチャーも増えている。


 ベンチャー不正事件、これで本当に最後になるとは誰も思わないが、 韓国もベンチャー闘魂はこんなことぐらいで消えたりしない。政府が発表した2006年までのITか年計画は、韓国だけに止まらず、各種IT技術を海外へ輸出すること。世界に先立つブロードバンド王国として、その成功や失敗を元に改良された先端技術を、海外市場で花咲かせるのが目標だ。


 年明け早々色々起きたが、韓国の未来はITにあり。この事だけはみんな信じたがっている。

by- 趙 章恩


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